第9話 World was Full of Zombie. ep2

キャンプにつくと迷彩服の怖そうなオバさんのキャプテンから

IDカードやらネームプレートやらモールのサービス券やらを

両手に抱えるくらいたくさん渡されてそこから長々と

入所の説明や精神的指導を受ける。


そこには思ったよりも沢山の人がいて

キャンプと言うよりもむしろ街だった。

特に特別なバリケードがあるわけでもないのに

そこそこ安全だったのは互いに監視しあえるからだ。

だから人々がゾンビに対して警戒しだしてからは

のどかな地域よりは逆に密集している所のほうが感染は緩やかだった。


だが良いことばかりって訳でもない。

この間も大学の講義中に生徒が一人発作を起こした。

そいつの近くにいた奴がすぐさま銃で処置しようとしたのを

その「ゾンビ手前」の隣に座ってた友達が必死でかばおうとしたが

かまわず脳天に一発お見舞いして一件落着かと思いきや

その友達は逆上しちゃって雄叫びを上げながら撃った奴に銃を向けた。

そのとたんまた別の乾いた銃声が響いて、お友達も死んだ。

撃ったのは彼の後ろの席の女の子だった。


先日、俺がトイレで用をたしてるとネイソンって奴がやってきて

後ろから銃を突きつけてきた。そしてこういう時に限って

よく出るから困る。俺が動けないのをいいことに

奴は人の耳元に荒い鼻息をかけながら怒鳴った。

「どこまで調子こきやがる、むかつく野郎だ」「おい何の冗談だよ」

こいつは前から何かとイチャモンをつけてくる奴だった。

「とぼけやがって、ここでぶっ殺してやる。ゾンビになったと言やあ

誰も疑わねえさ」ちょうどその時、猫又が入ってきた。

「やめとけよ。訴えればお前も死刑だぞ」猫又にそう言われると

ネイソンは舌打ちをして出て行った。「サンキュー」礼を言うと

奴は俺とは反対の端の便器の前に立ちながら

「たまたまです」と言った。

ここでは人の命もずいぶんと軽かった。


あっという間に時が過ぎてある日俺は例のオバさんキャプテンから

IDカードの整理を任された。去った奴に死んだ奴だけで

ざっと2、300枚はあったが夕方頃に

彼女や狐、狸が手伝ってくれた。

男用の雑魚寝部屋みたいなずいぶんとにぎやかなところで構わずに

やってたのだが窓際に腰掛けて何故か全裸で話し込んでいる

壮年の男女がやたらと気になった。するとおばさんの方と

目が合ってしまいとたんに気分を害したのか

その人はバツが悪そうに出て行ってしまった。


おばさんと入れ違いのタイミングで突然天女が入ってきて

「誰か私の羽衣知らない?」と聞いてきた。

「知らないよ」「また?」狸と狐がすっぱい顔をして言ったが

しょうがないので手分けをして探すことになった。


とりあえず俺が洗濯場を見に行ってみると洗濯籠の中に

桃色の薄い絹のような布が二枚入っていた。

これだろうと思いそれを取って外に出ると

遠くのほうから流れ星のようなものが二つ飛んできて

そばの駐車場に落ちると二人の天女になった。

親子だろうか一人は大人でもう一人は中学生くらいに見える。

その光景を眺めていると小さい方の天女と目が合って

とたんに彼女はものすごく恥ずかしそうに顔を隠してしまった。


すると大人の天女が歩いてきて「ごめんなさい。それうちの子のなの」

と言うので手に持っていた布を渡すと「あら、こっちは別の人のね」

と言って一つ返された。そして二人がまた流れ星のような輝きを

放ちながら夜空に飛び立つと、俺はその明かりが消えるまで

ぼーっと眺めていた。

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