第17話 楽園2

やがて狂った宴の歓声も、村の灯りも届かない所に来た。


あたりは一面真っ暗で、月灯りがかすかな地平線を示しているだけだった。

僕と姉は、星をみつめながら静寂の中をひたすら歩き続けた。


しばらくして姉が急に立ち止まり遠くを指さした。

彼女の示す方向に目を凝らすと

何やら地平線の下でチラチラと星のような瞬きがいくつかあった。

そしてそれらはだんだんとこちらに向かってくるようだった。


狼だ。


気づいた頃には既に彼らが雪を掻き分けて走ってくる足音や

荒い息遣いも聞こえていた。


僕は姉の手を引っ張ると無我夢中で走った。

しかしいくら必死に走っても、後ろからは狼たちの気配が迫っていた。

もう限界だと思ったそのとき、目の前に突然大きな建物が現れた。

僕たちは裏口を見つけると、短い階段を駆け上がって

その小さなドアから中にはいった。


建物の中は暗く、そして生暖かった。

緑色の照明が水浸しの床に映し出されていた。

正面には受付カウンターと奥に続く廊下が、左側の奥には

階段室の白い明かりが見える。


ふと姉が右側の一番手前にあった引き戸を開いた。

僕も後ろから中をのぞく。中はさらに真っ暗だったが

ベッドやいろんな道具がひっくり返って散らかっている。

僕にはそれしかわからなかったが

姉は闇の向こうをじっと凝視し続けている。

すると、部屋の左側の奥にあったドアが

嫌な音と共にゆっくりと開いた。


僕らは息を呑んで固まった。


そして何か大きな黒いものが

ゆっくりとそこから這い出してきた。

そいつは僕達を見つけると、低いうめき声をあげながら

すごい勢いでこっちに向かってきた。


僕たちはとっさにドアを閉めたが

どっちに逃げようか迷いワタワタと辺りを見渡した。

すると受付脇のスロープの上に立つ子どもの姿が目に飛び込んだ。


しかしその子供は呼びかける間もなく

彼の後ろにあった階段を駆け上がって行ってしまった。

同時に後ろの扉がドシンとものすごい音を立て

僕たちは打ち付けられたビリヤードの球みたいに

彼の後を追いかけた。


四つ目ほどの踊り場で階段はすぐに終わり

僕たちは目の前に現れたドアを開いた。


その向こうにはただ長い一本の通路が続いていた。

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