第14話 僕は中二病。

医師のアンドリュー・ペイジがそう診断したのは別に彼が意地悪だったからでも、僕がセンターの棚からちょくちょくチョコやクッキーを失敬していたのがバレたからでも、動物と話しているところを誰かに見られたからでもない。


わざわざそんな診断なんかされなくたって、僕はずっとその事を自分でもわかっていたし、そう言われたところでむしろ自分が何者なのかっていうのがかえってはっきりしたみたいでせいせいした。なのにママったらそれを聞いて大泣きときたもんだ。僕は精神病なんかじゃなかったっていうのに。


物心ついた頃から僕は何となく困っていた。なんでこんなに周りと上手くやれないんだろう。どうしてこんなに困っているんだろうって。皆僕と話すと決まってスグにバツが悪そうにそそくさとどこかへ行ってしまう。僕は人と違っていたんだ。大げさでも何でもなく多くの人は僕を得体の知れないモノ扱いした。


それにチョットは大丈夫だけれども、あまりに悲しくなったり機嫌が悪くなると僕は自分でも怖いくらいにどうしようもなくなるんだ。電話やコンピューターを壊したりドアをぶち破ったり・・・そんな時、ママはいつも泣いていてパパが必死で僕をベースメントに押し込んで落ち着くまで閉じ込めた。


そんな僕がこうして生きていられるのも両親と、メラニーがいてくれたおかげだ。メラニーはハイスクール時代の親友で僕達は何時も図書館の池の前でランチを食べた。


僕にはたまに人の感情を感じてしまう癖があるらしくて、その人の目を見ると何を考えてるのかまではわからないけれど、今どんな気持ちでいるかが痛いくらいにわかった。でもそれを口にすると多くの場合、相手を不機嫌にさせた。中にはジェイムズ・ギーンみたいに口汚く僕を罵っていく奴もいた。僕も気をつけなきゃと思っているのだけれど油断をするとついぎこちない態度をとってしまうんだ。でもそんな時でもメラニーは笑って優しくハグしてくれた。彼女ももう二児の母だ。ほんと驚きだよ。


まあそんなわけで僕はイリノイの施設からはるばるインディアナの施設に移されたってわけ。でも何が変わったって言うわけでもなく、コロンバスにも気の合う女の子はいたしハグだってしてくれたししてあげた。ほんとに頭のおかしな連中以外とはそこそこ皆と仲良くやれていると思う。


ギギも一緒に連れてきたし夜も寂しくはなかった。ギギっていうのは僕の相棒さ。つやつやビロードのとても手触りのいいピンクのウサギさんだ。こいつがいれば夜は安眠を約束されたようなもんさ。前のテディベアもよかったけど今はギギなしではとてもじゃないけど夜を越せないよ。これは是非皆にも進めたい。もし女の子を抱いて寝れないのなら、ぬいぐるみを抱いて寝れば寂しくないんだよ。


ただネイパービルにある我が家へ月一でしか帰れなくなったのは辛かった。毎月第3金曜の夕方になるとパパが迎えに来て、家に帰るとママはいつもマフィンやチキンを焼いてくれた。ママの焼くチキンは最高だよ。隠し味にビールを使うんだ。それになによりチキンは家の農場で育ててるからね!


施設に入れられる前は鶏達の名前をタグの裏に書きこんであげるのが僕の日課だった。モージョー、レイ、アナスターシャ、カテリーナ三号・・・もちろん鶏だけじゃない。牛にだってちゃんと付けるよ。でも僕が皆を名前で呼ぶ度にパパはうるさいぞって怒鳴るんだ。今はテーブルの上で丸焼きになってしまった鶏に付けるだけになってしまったけど。「きみは、グウェンだ」そっとパパに聞こえないようにね。


そして日曜の夕方まで家で過ごした後また遠く離れたインディアナまで車にゆられて施設に戻る。運転の最中パパもママも何も言わないけど、時折僕に聴かせるみたいに大きなため息をつくんだ。そのたびに僕はとてもいたたまれない気持ちになる。別れ際にいつもはママとハグをするだけだけど、その日はパパにもハグをしたら、パパは力強く僕のからだを揺すりながら「息子よ」とつぶやくように言った。「また来るよ」二人の乗った車の灯りが真っ直ぐ夜の中に消えていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る