第13話 盲の館

廃墟が立ち並ぶ街の外れに広い空き地がある。

周りを荒れ果てた長屋町に囲まれている。

その空き地に二人の泥棒がやってきた。

二人は薄暗い路地に入り込むと

その奥の長屋の一つに入っていった。

玄関の先には二畳ほどの長さの廊下があり

その奥には下へ降りる階段があるだけである。

二人はその階段を降りた。

そこは薄暗い何もない部屋であった。...

破れた障子の穴から差し込む陽光がポツリポツリと

六畳ほどの畳の床に落ちている。

先程降りてきた階段の下に、さらに下へ降りる階段があった。

降りてみると、今度は真っ暗な部屋だった。

すえた匂いとともに次第に目が慣れてきて

何やら散らかっているらしいという事だけがわかる。

泥棒の一人が手探りで照明の紐をみつけて

灯りをつけてみると部屋の真ん中には新聞紙が敷かれ

上には何かが陳列してあるらしいが、その上から

さらに新聞紙を被されていて中身はわからない。

床のそちこちに黒い何かが転がっている。

壁の一面には白黒の肖像が沢山かけられていた。

床に置かれている肖像もある。


二人はその異質さとそこはかとない生活感に

ただならぬ不安を覚えた。すると上の方で戸が開く

音がしたので、慌てて灯りを消すと押し入れの

前に掛けられていた服の影に身を潜めた。

足音は上の階で異変を察したのか急にドタドタと

降りてくると二人の隠れている

すぐ傍までやってきて叫んだ。

「おい、おい、誰ぞおるんか。おい、おい、誰ぞおるんか。」

二人の方を向いたその老人の顔を見た二人は

思わず叫びそうになり両手で口を抑えた。

傷だらけの坊主頭に白く濁った目だけが

闇の中に浮き上がっている。

盲に違いなく男は二人の方を見ても気付かずに

やがて上の階へ上がっていったのだがそのあまりの

恐ろしさに泥棒の一人が必死で堪えていた悲鳴をもらした。

とたんに先ほどの老人が駆け下りてきて

今度は迷わず彼に掴みかかると

「おどれ何しとるんじゃ、おどれ何しとるんじゃ」と叫んだ。

次の瞬間、真っ白い裸の男達が降りてきた。男たちの目も白く

同様に盲のようであった。盲男が「こいつを連れていけ」と

命じると、男たちはその泥棒を捕まえてどこかへ連れ去ってしまった。

その光景をただ息を殺して見ていたもう一人の泥棒の耳に

盲男の高笑いがこだました。

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