第11話 H

仕事が終わって家に帰った後

2時間ほど寝た。


気が付くと広い座敷に座っていた。

何所だかはわからん。

皆はぼちぼち帰り出していると言うのに

俺の膝の上に頭を乗せて寝ている者がある。

女だった。その女の頬の温もりが

直に伝わってきて少し熱い位だった。

俺はわけもわからず狼狽してしまって

「どうしました?どうしました?」と

阿呆の様に問いかけている。

すると女はすっと体を起こすと

鼻の先同士がくっつきそうなほどに

顔を近づけてきた。

Hだった。

Hは、心と体、人間の全部を貫くような

真っ黒い瞳でじっと俺の目を見据えながら

ただ一言「死ね」と言った。

その声の恐ろしく透明な響きに

俺の頭は一瞬真っ白になったが

Hは何事も無かったかのように

再び俺の膝の上でうとうとしだした。

俺はもう何を言っていいのやら

ただ手持ち無沙汰に

清潔に切りそろえられた彼女の

綺麗な黒髪をおとなしく

撫でるばかりだった。


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