第7話 黄金の庭

人里離れた閑静な林の中に美しい庭があった。

花壇に植えられた色とりどりの花。生い茂る草木。

その間を縫って石畳が午後の陽ざしを照り返して

黄金色に輝いている。

蝶蝶や蜜蜂が花壇から花壇へ行ったり来たり。

少年は母親とその屋敷に二人きりで暮らしていた。


少年は母親に隠れて父親の書斎で本を読んだり

宝物を探しだしたりするのが好きであった。

その日もその書斎で本棚を漁っていると

一番高い所にある本の後ろから小さな革のケースを見つけた。

中には金細工の装飾が施された美しいカメラの様な物と

ダイヤルのついたレンズが入っていた。少年は窓から

庭の様子を窺がった。母親は日課である庭の手入れを

しているのか朝から姿が見えない。


少年が何気なくそのレンズのダイヤルを回してみると

急に目の前の壁が回転するように開いて、そこに

研究室の様な部屋が現れた。少年は恐る恐るその部屋に

足を踏み入れた。西側の壁一面の大きな窓から差し込む

光が青い壁を照らしている。研究室の様なと言ったが

特に道具があると言うわけではなく、壁に取り付けられた

長机と流し台のついた大きなテーブルがあるばかりで

その上にも、窓際にも、一切何も置いていない。

しかし、そこが何か特別な用途に使う部屋である事は

間違いないような気がするのである。その部屋の奥に

さらにドアがあった。


少年がそのドアから外へ出てみると、そこは四角い池のある

美しい中庭であった。池の周りには柱が立ち並び、巻きついた蔦が

葉のついた枝を天井のように伸ばしていた。

彼はこんな庭があった事を今まで知らなかった。

ふと、少年を呼ぶ母の声がすぐ傍から聞こえて、彼は

辺りを見回したが誰もいない。すると、小さな金色の妖精が

すいすいと降りてきて少年の周りを飛び回った。

やがて彼の前で止まった妖精と目が合ったとき

少年は悟った。その妖精は母親であった。

次の瞬間、少年の体もいつの間にか小さな妖精になっていて

二人はその美しい庭を一緒に飛び回った。

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