第12話 平津加ジュニア

 体育祭のダンス練習で意気軒昂しては部活で意気消沈するという、強烈なスピンボールの如く浮き沈みの激しい日々が続いた。その間、抜かりなくチャンスを窺い、堀川さんが新たに持ってしまったかも知れない俺に対する誤ったイメージの軌道修正に腐心した。

『つまり、そういうわけだから、その、まあ、村口先輩が言ったままで捉えられると、語弊があるというか……とにかく、ごめん』

『うん、気にしてないよ』

 と言った堀川さんの気にしていそうな顔を気にしないようにして、彼女の言葉だけを気にするようにしたが墓穴を深くしている印象は拭えなかった。

 夏休みはまだ始まったばかりなので、ダンス練に時間を費やそうという者は、よほどの行事熱を持つ者か、よほどの余暇を持つ者か、よほどのペアを持つ者くらいである。最後の理由に該当すること大声で触れ回ることは自粛したが、自転車での登校に際して通学路を立ちこぎで走破して己が気合を表現することは辞さなかった。

 ダンス練習の参加者は少ない人数で固定されてきたが、それはアッキーにとって幸いだったようである。唯一の一年生であり、またその放っておけない容姿と性質で先輩たちから存分に可愛がられた。そのおかげで日を追うにしたがい、推奨テンションを遥かに超えて固まっていた彼女の口は徐々に解れて、よくしゃべるようになっていった。自身を発狂寸前まで追い込んでアッキーを励ました俺の努力が報われたのだ。詩織先輩たちと楽しげに話すアッキーを見て、危うく感涙にむせびそうになった俺を誰が変態と言えよう。

 しかしアッキーは未だに恥ずかしがり屋な面は失っておらず、それは顔が赤くなるという形で外に表れるので、見事に長所を残しながら短所を克服しつつある。バックハンドスライスの練習をしていたら、せっかくいいバックハンドストロークを持っていたのにスライスしか打てなくなってしまった、というようなドジを彼女は踏まなかったのだ。

 そんなアッキーを横目に一進一退のデュースゲームのような生活を送っていた俺は、ついに追い込まれた。平ジュニ当日である。

 受付を済ませた俺は、桃浜コートの駐車場でぼんやりと試合を待っていた。ほどなくコートに入ることになるだろう。何せもうシード下の試合は終わっているのだ。

「目が死んでるぞ」

 大場があくびをしながら言う。

「気のせいだ。俺は今精神統一をしている」

「そないに気張ることもあらへんやろ」

「ま、リラックスだな」

「かつ集中だね」

 こいつらに言われると何一つできない。まるで相性が合わないコーチが四人もいるみたいだ。うんざりしていると、携帯が震えだした。画面に目をやるとアッキーからである。

『試合頑張ってくださいね。応援してます』

 文末には絵文字が連なっている。そういえば昨日のダンス練でそれとなくアッキーに試合のことを言ったんだっけ。

「何、にやけてんだ?エロ画像でも見てんのか?」

「お前と一緒にするな。俺はエロ画像でにやけたりしない。むしろ真顔で観賞する。今のは有望な新人からの応援メールだ」

「何に有望なんだよ?」

「まあ、気にするな」ガットの切れたラケットのように役に立たないこいつらの言葉は早々に忘れ、アッキーからの応援メールと共に戦い抜くとしよう。「それでは諸君、我が実力を示してくるとするよ」

 試合を終えた選手がコートから出てくるのを見て言った。

「やけにテンションが上がってきよったな」

「空回りの予感、か」

 受付で対戦者と一緒にボールをもらい、Aコートへ向かう。

 コートに入り、早速プシュッと小気味よい音を立ててボールの缶を開ける。中から出てきた新品のボールは蛍光イエロー輝いていて、目に痛いくらいだ。そのボールをラケットにのせて俺は即座に言う。

「スムース」

 トスアップで自分のラケットを回すのはめんどくさい。こう言ってしまえば相手が回すしかないのだ。何事も先手必勝である。そしてこれは決してみみっちいことなどではなく、こうした小さいことの積み重ねが試合に影響として表れるのだ。多分。

「ラフです。サーブで」

 相手は目の前でラケットを回してから拾い上げた。

「じゃ、コートこっちで」

 片側二本ずつのサーブ練習をする。

 うむ、サーブの調子は悪くない。相手はスピンかスライスかどっちつかずの回転か……

「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ・サービスプレイ」

 最初のポイント。相手のサーブがフォア側に来る。

 どのくらい跳ねる?このくらいか?

 ガシャッ。

 ボールはベンチの方へ飛んだ。新球のフレームショットは痛い。

「アウト」相手はコールをしながらボールを取りに行く。「15―0」

 二ポイント目のファーストはやけに薄い当たりの音。ネットにかかる。セカンド。ほぼファーストと差がない。横にステップ。フォア。

 スイートスポットで捉えたボールは、キン、と新球独特の高い、金属同士のぶつかるようなインパクト音がする。少し飛んだか。

「アウト」やはり。「30―0」

 三本目はファーストが入ってくる。

 よし、しっかりと捉えた。

 今度こそ深めにボールが入る。相手は返してきたがボールは大きく流れた。

「アウト。30―15」

 サーブがバック側にくる。よく見ろ。これくらいか……よし、入る。慣れてきた。あまりコースを狙ってこないな。シコラーか……あっ。

 フォアがネットにかかった。

「40―15」

 ファーストが予想外にワイドに切れる。

 まずい、届くか、届くな。

 しかし当てるようにして返した球はネットを超えなかった。

「ゲームカウント0―1」

 サーブは……よし、悪くない。

 パス。

 相手のリターンがネットにかかる。

「15―0」

 入る。真正面か。これはやばいか。ん?またネット。リターンが苦手なのか?

「30―0」

 サーブがいいテンポで入る。

 相手の打球はまたもネットにかかる。

「40―0」

 ファーストを打つ。今度は相手のリターンが入ってくる。

 焦らず、脚を動かして、よく見て、打つ。ステップ、見て、打つ……

 パチン。

 相手の打ったボールがネットの帯に当たり、上へ飛ぶ。

 落ちたボールはもう一度ネットに当たり、向こうのコートに戻った。

「1オール」

 六月以来、初めて取ったゲームだ。しかし感慨に浸る暇なく試合は続く。

 試合は決してレベルの高い内容ではないが、お互いのサービスキープが続き、テニスらしい膠着状態へと突入していった。2オール、3オール、4オールとポイントが重なるにつれて安堵と充足感が広がる。見ろ、ちゃんとテニスができているではないか。それもブレーク合戦などではなく、キープ続きという模範的な試合だ。この調子なら俺はちゃんと実力を戻せるだろう、いやはや実に心躍る。

 しかし心が躍ったせいで俺の手元は狂った。4―5で迎えた第十ゲームに、俺はまさかの三連続ダブルフォルトをした。

「0―40」

 まずい、浮かれ過ぎた。

 相手のマッチポイントというプレッシャーで、自然に不自然な力が入る。 いつも通りの回転がかからない。サーブが浮いた。相手はここぞとばかりにこの試合で初めての強打をする。だがどうやら力むのは相手も同じらしい。球の軌道はそれまでよりやや低かった。

 パチン。

 お互いの力みが生み出したコードボールが宙を舞う。

 目を見開いてボールの行方を見守ったが、今度のコードボールは俺のコートへと沈んだ。

 ゲームセット。


 〇


 接戦の末、僅かな力の差で負けると、これは悔しいけれどもどこか清々しい達成感もある。しかし接戦の末、僅かな運の差で負けると、これは「こんチクショウ」としか思えない。

 我門たちに当たり散らしている間に日野の試合が始まる時間になったので、俺たちは受付のある建物の二階に上がった。日野の入るCコートはちょうどこのテラスの下にあり、角度的にはグランドスラムを中継で見るのと同じような位置から見られる。

「ま、えらい進歩やないか、4―6やろ」

「陣子、頑張ったもん」

「せやな。ご褒美あげんとなぁ」

「ご褒美ですか?」

「ご褒美のマッサージや。使った場所はしっかり解しとかんとケガのもとや」

「やあん、コーチ、だめ、そこは使ってないですぅ」

 せっかくいい席を確保したのに吐き気を催して階下のトイレへ直行する羽目になる。戻ってくると日野と対戦相手はすでにサーブ練習を終えていた。

「どや、相手は?」

「なかなか打てそう」

 はて、どこかで見たような。

「だが、知らん奴だな。一年か」

「そうみたい。岸田雄太だって」

 大場がドロー表を見ながら言う。

 岸田……ああ、青松の個人戦でやったあいつか。

「桜南高校じゃね?そいつ」

「あったりー。陣、知ってるのか?」

「青松の一回戦であたった。結構上手かったぜ。何せこの俺が0―6」

「今のお前じゃ参考にならん」

 試合は岸田のサーブで始まった。

 岸田は自ら積極的にコース変更をし、ラリーの主導権を取りにいくという攻めのテニスを展開しており、ちょっと見にもその実力が半端じゃないことは明らかである。なのに、あまりにも岸田のポイントにつながらない試合を目のあたりにして、俺は図らずも日野のことをすごいと思ってしまった。

 日野は拾った。とことん拾った。しかも一球一球がしっかりと回転のかかった深い球であり、その打球に追い込まれた岸田が上げる甘いボールを逃さず突いてカウンターで決める。その地道なプレーで日野は岸田が2ゲーム取る間に、5つものゲームを積み上げた。

「相変わらず基本に忠実や」

「相手の一年生が可哀そうになってくるな。いいテニスしてるのに」

 それにしても日野はミスらない。ああいう相手とやると、まず心が折られそうである。

「俺の、対日野の戦績は?」

「三十七戦三十七勝〇敗。勝率百パーセントだな」

 4ゲーム取ったことで俺の胸の内に漂っていた満足感は、外れやすい振動止めのようにいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。


 〇


 男女別日程のため、男だらけの会場の暑苦しさときたら筆舌に尽くしがたいものがある。そんな中、胸中では常に『早く負けろ』と願っていたものの、先に帰宅せずに部活仲間の試合が終わるまで待っていた俺は誰が見ても紳士である。しかし日野も木戸・大場も決勝まで残り、見事にその恩を仇で返してきた。なんと紳士からかけ離れた奴らなのだろう。

 日野は決勝で北上に負けたが木戸と大場は二連覇を遂げ、今は三人とも表彰されている。それをぼんやりと眺めていると、ふと、素朴な疑問が湧いてきた。

「あいつらはあれだけテニスができるのに何故テニス部がない大原高校に入学したんだ?」

「さあな」我門は聞いているのかいないのか分からないような返事をする。

 考えてみれば妙な話だ。最近は努めて考えないようにしてきた過去を、久々にほじくり返して三人を勧誘した時のことを思い出してみる。確か最初に声をかけたのは木戸だったか。試合は思い出せないが、終わった後に向こうから話しかけてきたことは覚えている。

『まさか一回戦で負けるとは予想外や。坂上くん、テニススクールでも行ってるん?』

『ああ、行ってるよ。木戸くんもか?』

 何でこいつ関西弁なんだ、と思ったものだ。

『おお、行っとるで』

『木戸くん、ダブルスの方が得意だろ?』

『分かるか』

『ボレーのセンスには驚いた』

『しっかし、シングルはボレーだけじゃ勝てんものやなぁ』

『俺、男子テニス部をつくろうと思ってんだけど、一緒にやらない?』

『ホンマに?』

『ホンマに』

『うーん、どないしょ。高校ではテニスあんまりガチでやるつもりないんやけどな』

『俺もそんなつもりはねぇよ。まずはマネージャーに可愛い子を入れて仲良くなる。そしてお次は女子テニス部とご近所付き合いで親密になる。さらにそれなりに結果を残して全校集会で表彰され、その他の女の子たちの関心も引く。これが狙いだ』

『動機、全部女やないか』

『我々が青春に求めるものが、他にあるだろうか』

『おもろい、ノったで』

 木戸のにやにやした面が頭に浮かぶ。

 まったく人間の底が見え過ぎて正視に堪えない。しかし、あくまで勧誘のために俺が木戸の人間性に合わせたのである。確かに女の子は好きだが、俺の品性はこんな下卑たものではない。ゆっくりしたボールを打たれると、ついそのペースに合わせてラリーをしてしまうことがあるが、それと同じ事なのだ。

 二人目は大場だ。一回戦に続いて対戦相手の質が高いのに驚きつつ、俺は話しかけた。

『随分バラエティに富んだサーブを打つな。真面目にリバース打ってくるプレーヤーなんて初めて見たよ。大場くん、スクール生?』

『そうだよ、坂上くんもスクール行ってんの?』

『おお、行ってるよ。俺さ、男子テニス部をつくろうと思ってんだけど、一緒にやろうぜ』

『マジで言ってる?』

『マジで言ってる』

『あまり部活とかやるつもりないんだけどな。どんな感じでやるの?インターハイとか目指しちゃう感じ?』

『まさか。放課後はテニスで遊びつつ隣のコートにいる女子テニス部と楽しく談笑し、練習で疲れた後は部室で可愛いマネージャーに癒してもらい、試合で活躍しては学校の女の子たちへの知名度を向上させる。男子テニス部の目指すのはこんなところだ』

『全ての活動が女に通ずるのか』

『我々の高校生活を色鮮やかにするものが、他にあるだろうか』

『ないね。協力しようじゃないか』

 受諾した時の大場は締まりのない顔であった。

 あまり繰り返して言うのも難だが、このやり取りから俺という人間を判断しては甚だ不正確である。あくまで勧誘。あくまで事を上手く運ぶためのゲームメイクである。俺は大場の趣味嗜好に合わせて言葉を配球し、最後にウィナーを叩き込んだだけなのだ。

 最後は日野だ。

『随分打てるな。ひょっとしてスクール行ってる?』

『うん』

 さすがに三人目ともなると間違えてどこかのテニストーナメントに出場しているのではないかと結構本気で不安になった。

『しかし、男子テニス部が無いんじゃあ、せっかくの腕前がもったいない。俺は男子テニス部をつくろうと考えているんだが、どうだい、参加しないか?』

『本気?』

『本気』

『メンバーとか顧問の先生とか決まってるの?』

 細かいことを気にする奴だな。

『メンバーは日野くんで五人だ』確か説得力を持たせるためにこの時すでに勝手に我門を数に入れた。『先生にも一応心当たりはある。まだ声はかけてないけど』

 これは嘘ではない。体育の授業で異彩を放っていた上杉先生の放任主義に目星はつけていた。

『そう。部活かぁ……』

『心配するな。テニスに燃えて、そのまま燃え尽きるとかいうような雰囲気じゃない。テニスを通して女の子たちに情熱を注ぐのが本分だ』

『いや、それはどうでもいいんだけど、塾との両立が難しそうだから』

 嘘つけ、このむっつりスケベ。ていうか、

『まだ一年なのに塾に行ってるのか?』

 殊勝を通り越して阿呆だな、こいつは。

『大学は選びたいからさ』

『まあ落ち着け。我々がこの学び舎で学ぶことが、レディの他にあるだろうか』

『あるだろ、たくさん』

 こいつ誘うのやめようかな。

『うーん……でも、やっぱり入るよ。塾との両立は努力しよう』

 日野はむっつりスケベらしい、むっつりした顔をしていた。

 こうして改めて記憶を探ると、あいつら三人はテニスのことなどあまり考えずに大原高校へ入ってきたようだ。その上、木戸と大場に至っては勉強する気もさらさらない。それに比べ、動機はともかくテニスをやる気で入ってきた俺の、なんと意識の高いことか。

 そして三人の承諾を得た後は、我門を強制的に引きいれて国道一号線沿いのデニーズで顔合わせをしたのだ。

『諸君、よく集まってくれた。その意欲に痛み入るよ』ここまで言った時に我門が大きく舌打ちしたので、俺は睨んだのを覚えている。『さてまずは自己紹介といこうか』

 それにしてもいざ思い出してみると不思議に鮮明である。数ある記憶の内でも濃厚なものがこれとは大変残念だ。ともあれ自己紹介を終えた後は確か練習日の設定をした。

『諸君、これで今日から我々は大原高校男子テニス部というわけだ。まあ、やるからにはこれを最大限利用して、ここは一つ面白おかしく高校生活を送ってやろうではないか。そのために我々がなすべきことは何か。それは異性への積極的なアプローチに尽きる。テニスにおいて、サービスゲームはサーブから、リターンゲームはリターンから、叩いて、叩いて、叩きまくる。相手に守りの隙を与えぬ電光石火の攻めこそ勝利を呼び込む』

『それアンフォーストエラーも呼び込むやろ』

『その秘訣はそのまま日常生活にも応用できる。とりわけ男女間の恋の駆け引きは試合中のラリーとほとんど変わるところがない。ベースラインの内側に入り、ライジングで攻めに攻めて、会話のラリーで主導権を握るのだ』

『会話でライジングって、相手の話、聞いてないってことじゃん』

『そこでまずは誰と試合をするのか、ということを明確にしていかなければならない。さしあたりマネージャーの確保は焦眉の急だが、これについては俺の方ですでに当たりをつけているので問題ない。そこでだ。最初の相手は女子テニス部である。女子テニス部、何と甘美な響きなことか。勝手に素晴らしく可愛い女の子がイメージできるじゃないか。そんな彼女たちには今までご近所付き合いが可能な男子テニス部というものが何故だか無かった。女子テニス部のレディたちはひどく鬱々としていたに違いない』

『いや、コート三面使えるし揚々としてたんじゃない?』

『そこで我々の登場だ。ついに我らが大原高校に男女テニス部が揃う時が来た。これからは、ネットを挟んで仲間とボールを打ち合いつつ、コートを隔てて女の子たちと言葉をラリーするという、愉快な高校生活が始まるのだ。そういうわけで練習日は女子テニス部と同じとする。それでは諸君……』

 不意にたどっていた記憶がぷっつり切れる。

 あれ、最後には何と言ったんだっけ?まあ、いいか。それにしても、練習日の発表をするためにこれだけの前置きをしゃべれるとは、自分の才能が色々な意味で怖い。

 女子テニス部の練習日は毎日だったので、俺たちの練習も毎日となった。チャンスは十全である。しかし言うまでもなく女子テニス部との間にはオムニとハードを隔てるフェンス、そしてまだ部長になる前であったがその厳しさは些かも変わらない河内さんという璧があったので、部活中に彼女たちへ出した言葉のボールは、出すそばからボールパーソンに回収され、一つとして戻ってこなかった。

 練習が毎日なのでテニススクールに通っていた我門以外の四人はそれを止めた。それぞれ別のスクールに所属していた者たちが大原高校テニス部という一つのチームになった瞬間である。容易に想像ができると思うが、感動などは新品のテニスボールから飛び出した毛ほどもなく、ただただ汗臭いばかりであった。

 結局、試合で残した成績も思ったほどの効果を上げていない気がする。上手くいったのは四元さんをマネージャーにできたことくらいか。改めて記憶をなぞると、ファーストゲームからいきなり自分のサービスをブレークされたような展開だ。加えてブレークバックの兆しが見えてこないのは俺の思い過ごしであってほしい。

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