第4話

「そこまでよ、ギル」


 あどけなさの残る、しかし凛とした声が響く。

 見上げれば、甲冑は斧を自分の肩に担いでいた。今ここで俺を殺すつもりはないらしい。

 そしてさらに驚いたのは、甲冑に命令を下した主のことだった。

 俺の肩に手を載せている少女。まさにこの少女こそ、俺が前回見かけた小柄な人物だった。


 歳は俺よりも幼く見える。十二、三歳といったところか。淡いブルーのワンピースに、似合いの群青色のヒール。髪は肩にかかるか否かといったところで、美しい銀髪だった。


「お、お前は……」

「質問の時間はちゃんと取る。だから今は私の話を聞いて」


 すると少女は俺の前に回り込み、その両手を俺の両肩に載せた。目線を合わせるために、彼女も屈み込む。


「あなたにお願いがあるのよ、石崎剣斗」

「ど、どうして俺の名前を……?」

「いいから!」


 すると甲冑はこちらに背を向けた。見張りに立っているようだ。


「剣斗、あなたに頼みたい。私たちの宇宙を救って」


 そのグリーンの真摯な瞳に、俺は吸い込まれそうになった。自らの使命を誰よりも自覚している、強い瞳だ。それに気圧された俺は、


「な……何だって?」


 と情けない声を上げるのが精一杯だった。


「信じてもらえないでしょうけど……。私は遠い未来から来たの。いえ、過去かもしれない。とにかく、違う世界から来たのよ」

「何故……? いや、どうやって? お前は……」


 俺が満足に口を利けないでいる間、少女はずっと俺の顔を見つめていた。正確には、目を覗き込もうとしていた。

 やっとのことで目を合わせた俺に向かい、彼女は


「私の名前はメリナ。メリナ・ユニヴァ」


 それから振り返り、


「彼女はギル・シャンティス。私の親友でボディガード。この世界においてはね」

「その甲冑……。え? 今『彼女』って言ったのか?」


 俺が少女、改めメリナの目を見返した時、


「ご挨拶だな」


 という声が甲冑から聞こえてきた。低くて重量感があるが、確かに女性の声だった。こんな姿で悠々と戦えるなんて、屈強な男性のイメージしかなかった。

 それはともかく、


「私の目的はね、剣斗。『この宇宙』から『私たちの宇宙』に親和性の高い戦士を募ることなの」

「な、何? 『宇宙』? どういうことだ?」


 あまりにも突拍子のない遣り取りに痺れを切らしたのか、甲冑、もといギルが


「説明は後回しにしましょう、メリナ。今すぐ彼に決めてもらう必要はありません。無理にでも一旦連れ込めば――」

「焦っちゃ駄目だよ、ギル。でないと、また反乱者を増やすことになるかも」

「……」


 沈黙した甲冑姿は、それでも何か言いたそうな雰囲気を漂わせていたが、メリナは無視した。


「これは私たちだけの問題じゃない、あなたも――『この宇宙』にも関わることだから」

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