St.Valentine's day:梨紗の場合
「
個別塾でのアルバイトを終えた
「おぅっ、お疲れ。何かいつもと雰囲気ちがくね?」
「うん。バイト先、スーツじゃないとダメなんだ」
「ふーん。何だかお堅い感じなんだなっ」
「そうなんだよねぇ。それより、どうしたの急に?何かあったの?」
「は?
一瞬の間ののち、航は顔を驚きで強張らせた。まさか梨紗からそのワードが飛び出すだなんて。
女子であるにも関わらず女子的な所から結構遠くに位置しているのが梨紗なのだ。
聞き間違いかと疑心暗鬼になりかけたが、梨紗がズイッと突き出してきた
「わ! ほ、本当に!?」
「何でこんなことで嘘つかなきゃなんねーんだよ。あ、言っとくけど義理だからな、義理。変に浮かれたりすんなよ」
「しないよぉ。でも、嬉しい、ありがと……」
ラッピング袋を開いた
姿を現したのは茶色の液体が入った三百五十ミリリットルのお手頃サイズのペットボトル。ご丁寧に首の付け根には黄色のリボンが結びつけられている。
率直な、
「あの……えと、り、梨紗ちゃん、これぇ、何?」
航の感想。
「ドリンク式のガトーショコラ」
得た回答に意識が遠のいていく。
ドリンク式のガトーショコラなんて聞いたことがない。仮にそう言う商品が存在しているとしても、この液体は見てくれからして何かがおかしいのだ。
ただ、ここで嫌な顔を見せれば梨紗にこの場で殴り殺され兼ねない。今繕える精一杯の笑顔を見せ、無理矢理航はテンションをハイに持っていくことを試みた。
「へ、へぇっ! す、凄いねぇ。初めてだよ。こう言うの、もらうのー」
「だろ?
航はさらに、無理矢理口角を引き上げた。
「へぇえーえぇ。ア、アレンジ、かぁ。
「それそれ! それな、タコ」
「んっ?」
遂には自身の聴覚の崩壊を航は疑った。
「
高速でまばたきを繰り返しながら航はおぞましい液体を吐きそうになりつつも隈なく観察する。梨紗の言う通り、浮かんでいるダマ達はタコと共に至上最低のコラボダンスを披露している。
「へえええぇえぇぇぇ。ざっ、ざんしーんだね!」
「
異星からの刺客(梨紗)に本心を読まれたか。見られているだけであるのに息の根を摘ままれたような気持ちに襲われた航は額に冷や汗を滲ませる。
「タコじゃなくて、イカがよかったのか?」
もう、いちミリも梨紗の思考についてはいけない。
そして勝手に解釈され話しは進められていく。
「だよなぁ、イカと実は迷ったんだよ。わりぃな。来年はより豪華にミックスにするからさ、今年はこれで我慢して。さ、飲んでくれっ」
「へ? 今?」
「いつ飲むの? 今でしょっ!」
こうして航は梨紗にその場で“
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