第30話 シチュー

「いいわね、さやか。これが最後の勝負よ!」

「ルーシーこそ、約束忘れないでね」


今日は運動会当日。

町で年2回行われるお祭りの徒競走に二人は出場していた。

勿論この時代にもこれを賭けの対象にギャンブルが行われていてそれが町の収益になっていると言うこともあり大賑わいだ。


「それでは魔壁を展開します」


アナウンスが流れ会場の魔力が作用しなくなる。

これで完全な肉体のみを使った勝負になる。

過去にはドーピングや魔法での身体能力の底上げとか様々なズルが行われた為対策に考案されたらしい。


さやかとルーシーは自分が走るレーンに立つ。

後はスタートの合図と共に走り出しゴールまで一直線に駆け抜けるだけだ。

さやかは何としても勝ってルーシーと二人でケビンの嫁になる事を決めていた。

そして、ルーシーは負けたら今度こそ二人の元から離れて何処かへ行こうと決めていた。

ケビンを巡るこの戦いにも遂に終焉の時が来たのだ!


「位置について、ヨーイ…」


クラウチングスタートを行うものは誰もいない。

普段から魔力で様々な運動を行うエルフには必要のない事なので時代と共に消え去ったのである。


「スタート!」


合図と共に一斉に走り出す選手達。

魔力を使えないさやかとそれに合わせて鍛えていたルーシーに敵うものは居らずやはり二人の接戦となった。

そして…


「ゴール!」


駆け抜けた二人。

振り返り審判の判定を待つ。

ラクリマに映し出された映像による判定の結果は…


「僅差!まさに僅差で…さやか選手の優勝です!!!」


終わった。

さやかとルーシーは見つめ合う。

例え勝敗が決まっても二人がここまで育ててきた己の過去に胸を張る。

お互いに同じことを考え笑顔で握手をする二人。

そんな二人を見て観客は更に大きな歓声と拍手を送る。


「終わったんだねさやか」

「えぇ、ルーシー。私の勝ちよ」

「うん、全力を出しきったもん。後悔はないよ」

「ルーシー…」

「それじゃ約束通り言って貰いましょうか」

「うん、ルーシーあのね…」

「優勝されましたお二人にはこの町代表として5日後の11区大会の選手として出場してもらいます!」

「「えっ?」」


見詰めたまま固まる二人…


「さ…三本勝負よ!二勝した方の勝ち!」


ルーシーが叫ぶ。


「プッハハハッ…いいわよルーシー」


吹き出すさやか。

握手をしたまま決着は5日後の11区大会に持ち越されたのであった。




「二人ともお疲れー」

「ママもルーシーお姉ちゃんも凄かったよ!」


ケビンとマヤの二人に祝われながらケビンの家でもうないと思っていた4人での晩餐。

ルーシーはその食事をしながら思う…


『本当にこの時間が続けばいいのにな…』


その日食べたシチューを思い出しながらルーシーはその夜、ある閃きに気付き次の大会に向けて気合いをいれるのであった。

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