第26話 花の唐揚げ

数千年前は地球温暖化が騒がれていたがこの時代では気にする必要もないほど気候が安定していた。

人口数と反比例するかのように自然は増え緑が溢れる森の中、ケビンはルーシーに呼び出されていた。


月明かりだけでなく蛍のように光る花の照らす道を二人は歩いている。

言葉を発すれば止まらない、そしてケビンと居られる最後の時間が終わる…

ルーシーは後少し…後少しだけ…っと何も言わずケビンの横を歩く。

皮肉なものでさやかが来るまでケビンとこうして二人っきりで歩けることなど無かった。

さやかのお陰でこの夢のような時間は実現したというのにさやかのせいでケビンを諦めなくてはならない。

『人』という字は人と人が支え合って出来ていると言うがそれは違う。

『人』という字は一人がもう一人を支えることで出来ているのだ。

すなわち二人を支える事は出来ないのだ。


風が吹いた。

冷たい風はルーシーのポニーテールを揺らし二人の間を通り抜ける。

特に決めていた訳ではない、だがルーシーにとっては決断する切っ掛けになった。

永遠に終わらない散歩をするつもりは無い、既に彼女は決断をしていたのだ。


「ケビン、こんなところまでごめんね」


言葉を発したら止まらない。


「あのね、ケビン…今日は伝えたいことがあるの」


決めていた事なんだ。


「私ね、子供の頃からケビンとずっと一緒に遊んでたでしょ?」


一度も伝えられなかった言葉。


「大きくなって疎遠になったけどさやかが来た時に連絡貰って凄く嬉しかったんだ。」


頭の中を今までの事が巡る。


「こうして一度でもハッキリ伝えていれば何か変わってたかも知れないって思うけど」


過去の自分が伝えられなかった言葉を今こそ。


「それでもこのままじゃ何も変わらないし何も進まない」


言ったら終わる、今は辛いだろうけど先に進める。


「だから聞いて!この私の、私だけの想い!」


あれ?私泣いてる?


「ちょっと待った!」


そこで割り込むようにケビンが叫んだ。


「やっぱりこういうのは男の方から言うべきだと思う、だから先に俺に言わせてくれ」


気付いたら虫の音も消えケビンの声だけが響いていた。


「俺はさやかが好きだ!愛してる!」


あぁやっぱり…


「だけどルーシー、お前の事も愛してるんだ。だからどちらか一人なんて選べない、俺にとってはどっちも大切な人なんだ!」


現代日本であればとんでもない発言だがここでは意味合いが違う。


「だから二人とも一生大切にするから俺と結婚してくれ!」


それはルーシーだけでなく、離れてこっそり付いてきてたさやかにも聞こえる様に大きな声で伝えたのであった。

国が違えば考え方も違う。

ケビンのこの発言は二人の妻を平等に愛し永遠に一緒に居ると宣言しそれを聞いたさやかは嬉し涙を流していた。

しかし…


「私の事も愛している?」


ルーシーは固まっていた。


「ケビンの口から…私を愛している?」


壊れたラジオの様にルーシーは呟き続ける…


「分かったわ、ケビン…」

「ルーシー」

「さやかに勝てば私と結婚してくれるのね!」


こいつ話最後まで聞いてねー!?



そうである、さやかもケビンも忘れていた。

ルーシーが人の話を最後までちゃんと聞かない事を…


「いや、あのなルーシー」

「大丈夫よケビン!私勝つわ!貴方のためにさやかに勝ってみせるわー!」


ケビンを一人置いてそのまま走り出したルーシー。

一人置いていかれたケビンの元へ出てきたさやかの方を向いて首を横に降るケビン。

こうして、さやかとルーシーのライバル関係が出来上がった。


家に帰るとルーシーは居らず小腹が空いた二人は夜食代わりに花の唐揚げを摘まんで二人して…


「「どうしてこうなった~」」


っと頭を抱えるのだった

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