第22話 熊肉のステーキ
「おやおや、そんなに急いでどちらへ?」
眼鏡をかけた見るからに博士ってイメージの男と見るからにボディガードというイメージの黒服の二人がそこに居た。
そして、黒服の一人にルーシーが拘束されている。
「くっ、もう来ていたのか…」
「はははは、こんな場所にお住まいだから熊なんぞに襲われるのですよ」
何がなんなのか分からないルーシーは黒服に腕を捕まれてて成り行きを見守っている。
「それにしても話が違うじゃないですかケビンさん?そこの人間もこっちのエルフもここにいるじゃないですか」
「そのルーシーは違うんだ離してやってくれ」
「いいえ、違わないですよ。このエルフは変異していますからね」
全員の目がルーシーに集まる。
「変異?」
「おっと、貴女が人間さんですね。初めまして、この国の国家研究員の責任者ハルマと申します」
「国家研究員?!どういうことケビン?!」
ルーシーが喚くがハルマはチラリとルーシーを見るだけで話し始めた。
「最初はケビンから出された論文と貴女の髪の毛でした。ケビンはこの山で人間の化石を見つけて復元したと言ってましたが調べたら見たこと無い黒髪黒目の女性が山を駆け巡っているのが直ぐに目撃されましてね、直ぐに貴女の存在は確認されましたよ」
さやかのダイエットを見られてしまってた。
それがさやかの存在を国に知られる原因だった。
「そこのルーシーさんもご存じの通り現在エルフは絶滅の危機に瀕しています。寿命が長いのに出生率が低すぎるからです。それでこの国家プロジェクトで人間の繁殖力に目をつけたのです。80年くらいしか生きられないのに昔50億を超える数まで増えた我らの先祖、その繁殖力があればエルフも絶滅せずに済む」
それはさやかも予想もしていなかった壮大な話であった。
「しかし、貴女の遺伝子からクローンを作ろうとしても何故か失敗する。過去の記録でも人間だけはクローンが成功した事例は無いらしいから次に目をつけたのはそこのエルフでした。」
全員がルーシーを見る。
「ケビンから提供された体液の中に人間とこのエルフの体液も在ったのだが問題はその体液が変異していたって事だ。簡単にいうとこのエルフは人間化し始めている」
これにはケビンすらも驚いていた。
そして、本人のルーシーも話されている内容が理解できてない。
「なのでケビンはこいつだけは逃がすつもりだったんだろうがこいつも研究対象なので逃がすわけにはいかないんだよ」
それを聞いてルーシーはケビンが突然態度を変えた事を思い出しケビンが自分を逃がすために怒らせた事を理解した。
「それじゃ…まさか…でも…」
ルーシーの心が揺れる。
「そんな訳で2人は国で預からせてもらいますよ」
ケビンは何も言わない。
いや、言えないのだ。
少なくてもここで抵抗した所で自分は殺され二人は連れ去られる、それくらい黒服の実力は本物だ。
それに下手をすれば二人に危害を加えられる、奴等は生きてさえいればいいのだ。
ケビンは最善を尽くしたとは言えないかもしれないが常に二人の事を考えて行動していた。
熊に追われた時も二人を助けるために自ら囮になり二人のために熊を誘導しながら戦った。
だからこそ彼は血が出るほど拳を握りしめ耐えていた。
もし研究が終わって二人が解放されたとしたら帰る場所を守るために生き残ろうと考えたのだ。
例えそれが何年後になるか分からなくても彼は二人を待つつもりだった。
それは婚姻の魔法でさやかにも伝わっていた。
3人のうちの誰も欠けないために抵抗しなかった。
そして、二人は連れていかれた。
残されたケビンはその自らへの怒りを台所で死んでいる熊にぶつけるのだった。
こいつさえ…こいつさえこなければ…
その日の夜は久しぶりの一人での夕飯に熊肉のステーキにかぶり付くのだった。
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