第19話 梨味の果実水
「よいしょっと!」
さやかは運んできた大岩を金属でできた柵の中に放り込む。
そして柵についているスイッチを入れて首に巻いていたタオルを胸元から引き出して頬や顔の汗をぬぐう。
日に日に運んでくる大岩のサイズが大きくなっているのが本人にとっても面白いらしい。
「お祭りかぁ~」
さやかはプアールから貰ったチラシを見ながら呟く。
日時は来月末とまだまだ先の話ではあるがこういうイベントに参加をあまりしたことの無いさやかは悩んでいた。
学生時代から苗字が尹小田口絵という特殊すぎる名前だった為に異性からはからかわれる事が多く友達としかイベントに行ったことがない。
更にそのお祭りも逆三角形の有名な建物で薄い本を売り買いするものばかりだったのでさやかはお祭りの経験値が非常に低いのだ。
「とりあえずケビンに話してみるかな」
悩んでも結局そこに行き着くのは分かっていたので早々と自分の考えに結論を出してさやかは金属柵の中を見詰める。
この中はケビンの話では物を振動で壊して硬い物だけを取り出す事が出来るらしく初めて見た時はちょっと怖かった。
詳しい話は理解していないが分子を振動させて分子同士の繋がりを断つとか言ってたかな?
今一理解できてないがそれでも使い方が分かっていれば普通に使える、携帯電話が何故通話できるのかその理由を知らなくても使えるように注意点だけ守れば問題は無いのである。
「おっ!?今日のは当たりだ!」
金属柵の中に入れてあった大岩が徐々に砂に変わって風で吹き飛んでいく中から黒い石が出てくる。
あれが魔光石でこの柵の機動中は魔力が漂ってるので昼間でも分かるくらいに光り出すのだが今日のは赤く光っている。
赤く光るのは魔光石じゃなくて火の魔石で魔力を込めると熱を持つ性質がある。
お風呂や料理に暖房器具と幅広く使われているので買取り価格が魔光石よりも高いのだ。
「へへへ~やっぱり大きい岩だと多いな~」
まるで子供の様にはしゃぐさやか、女の子はいくつになっても童心を忘れないのである、既に歳がにじゅ…
「んっ?!」
なんでもありません。
スイッチを切り柵の中に入って落ちている石を集めて種類毎に計りに乗せてから重さを控えて小屋の中の保管場所に置く。
ここまでがさやかの一連の仕事だ。
「さぁ、そろそろ森からケビンが帰ってくるはずだから戻るかな」
ここ数日で運ぶ岩のサイズは大きくなっているのにさやかの仕事が終わる時間はどんどん早くなっていた。
なのでまだケビンが戻るまでそれなりに時間があるのだがさやかは気付かない。
本人の知らない間に本人が考えている以上に成長してるなんて…さやか、恐ろしい娘!
ケビンの家に着いたさやかは先にシャワーを浴びて汗を流し梨味の果実水を飲む。
爽やかな梨の風味を堪能し喉の乾きを潤した時にケビンが帰ってきた。
さやかは早速チラシを持ってケビンの元へ向かうのであった。
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