第11話 リンゴ

「どうして…こんなことに…」


りあらは警察署で頭を抱えていた。

今日の事だ、会社帰りにりあらは角を曲がった所で走ってきた男とぶつかった。

その拍子に男が横を走っていた車の方によろけ轢かれてしまったのだ。

直ぐに近くに居た人が叫び声を上げで携帯で連絡して救急車と警察が来たのだが警察を呼んだ通行人が「私見てました!あの人が男性を道路に押し出したんです!」と言い出したのだ。

勿論りあらは否定したが男性と接触したのは事実で警察はとりあえず任意同行と言うことでりあらを警察署まで連れていきその日は何度も何度も同じ説明をさせられ帰して貰えなかった。


翌日、突然解放されたりあらに警察は…


「男性が意識を取り戻して君とは偶然ぶつかっただけで急いで走っていた自分が悪い、当たる時に怪我をさせないために無理な姿勢で踏み止まったからよろけたせいで車にぶつかった。と話しているそうだ。イイ人で良かったな、そこの病院に入院してるから一度挨拶をしてあげるといい、自分の怪我より貴女が怪我をしていないかを凄く気にしていたそうだぞ」


そう言われりあらはその足で病院に向かった。

ぶつかったのは事実なのに全部自分が悪いと言い放ったその人にお礼を言いたくなったのだ。

受付で話を聞くと事故の時の女性が来たら構わないから通してあげてほしいと聞いていたようで部屋番号を教えてもらい病室へ向かった。


そして、ドアをノックしようとした時に大声でそれは聞こえた。


「すみません社長!」

「すみませんじゃすまねぇんだよ!お前が昨日の商談先に現れなかったから先方は大変ご立腹で今回の取引は無かったことになっちまったんだよ!」

「そんな…俺のせいで…」

「おぅそうだ!今回の損失の5000万円はお前にキッチリ払ってもらうからな!」

「そ…そんな5000万円なんて大金…」

「払えないならお前の体をバラバラにして売るからどっちでもええぞ」

「っ!!!?」

「とりあえず月末に30万用意しろ、そしたら分割も考えてやるよ」

「は…はい…」


そう言って一人がドアの方に向かってきたのでりあらは少し離れて場所まで移動して複数人の男が去るのを待ってからりあらは病院のドアをノックした。


「はい、どうぞ」

「失礼します」


中に入るとベットの上で寝ているおの男性が居た。

足が折れているのか天井から左足が吊るされており痛々しいその姿を見てりあらは固まった。


「すみません、どちら様ですか?」


男の声で我に返りりあらも話し出す。


「昨日ぶつかってしまったりあらと言います。…ごめんなさい!」


開口一番名のって直ぐに頭を下げて謝る。


「あぁ、あんたがそうか。聞いたよ、俺のせいで一晩辛い思いをさせてしまったな、すまなかった。怪我はなかったかい?」

「私はなんともありません、それよりも貴方が…」

「あぁ、俺は本当にドジだよな。巻き込んでしまって悪かったな」

「でもさっき5000万円って…」

「あー聞いちゃったかぁ、まっ気にしなさんなって。金で解決できる問題ってのは意外となんとかなるもんだから」

「私にも何か手伝わせて下さい!」


りあらは自分で言っていて驚いていた。

気が付いたら目の前の男に惹かれていたのだ。

何があってもりあらを庇い自身がこんな状態にも関わらず優しく語る目の前の男にりあらは恋していることに気付いていない。


「じゃあ、一つだけ頼まれてくれるか?」

「なんでも言って下さい!」

「そこのリンゴ剥いて喰わせてくれないか?」


男の方も女性は守るものだ。

例え自分がどんなに酷い状況にいようともそれを怠ったら自分でなくなると男は考えていた。

二人は自然に牽かれ合いその日、切ったリンゴ通して間接キスを交わした二人。

さやかがりあらを飲みに誘う前日の事であった。

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