第8話 ハッカ味のドロップ
「よー来たなさやかはんよ」
いつもの黄色のスーツにサングラスをした永久乃は口元をいやらしそうに歪めて挨拶をしてきた。
もう一人の紫スーツのチンピラみたいなのは今日は車を運転するようだ。
さやかは永久乃の立ってる横に停められている黒光りするその車に目をやった。
「これが夢の国へ連れてってくれるワシの愛車ベンツのポルシェ君や」
ベンツなのにポルシェって名前をつけられているその車の後部座席にさやかは乗せられた。
さやかの隣には永久乃が乗り込み永久乃の「オイッ」と言う言葉で車は走り出した。
「さて、まずは今日お前を買ってくれた人の元へ連れてくのにこれをちょっと見てくれるか?」
そう言ってカーナビのスイッチを操作してそこに映像が映る…
そこに出てきたのは家に居る筈の父だった。
その父の前に見覚えのある男が近付く…
「いや、まさかそんな…」
さやかはその人物に見覚えがあった。
いや、知らない筈がない。
いつも一緒に仕事をしていたんだ。
そこに映ったのはホワイト株式会社の課長であった。
その課長に父が土下座して何かを頼み込んでいる。
課長は暫くそれを眺めてから懐から小さな白い粉の入った袋を父に差し出した。
それを父はまるで奪い取るように手に持って画面外へ走っていった。
課長はそれを愉快そうに眺めた後カメラの方を向いて近付いてきた。
近づけば声が入る様で足音が聞こえてカメラの前に立った課長は話し出した。
「やぁさやか君、今この映像を君が見ていると言うことは私の部下達が君を連れ出してくれたって事だね」
何を言ってるのか分からない、連れ出す?部下?
「混乱していると思うから説明してあげるよ、我が社はね副業で人身売買も行っているのだよ。先方が欲しがってる人物像と君が丁度一致してね色々と趣向を凝らさせてもらったけど楽しんでもらえたかな?」
趣向?人身売買?
「君のお父さんには薬を餌に演技をしてもらって面白かったでしょ?お父さんももう薬なしでは生きていけない体になったし、雲竜山 四面楚歌さんは臓器提供を待ってる人達のために一足先にあの世に行って貰ったから君はなにも心配要らないんだよ」
薬?あの世に行った?
「しかし、君も粘ったね。中々諦めないから部下に泥棒までさせたのに翌日普通に仕事に来るから驚いたよ」
ワカラナイワカラナイ
「君は今夜から我が社の更正施設って名目の調教部屋で1カ月掛けてお客さんの好みの商品になってもらうから頑張ってくれたまえ。」
…………
「あぁそうそう、君の退職金は先程君のお父さんに渡した薬だからちゃんと支払ったし安心してくれたまえ。それではこれからのさやか君の幸せを願っているよ。さようなら」
そう言って画面は消えた。
いつの間にか車は町を抜け山道を走っていた。
車は運転席以外中からは開かないから諦めろみたいな事を隣の永久乃が言ってるがさやかの耳にはもう入らなかった。
信じられない、もう何もかもが信じられない…
絶望に沈んださやかは舌を噛みきって死のうとも考えたがもう何もかもがどうでもよくなりだしていた。
この数ヵ月は一体なんだったのか…
「まぁ、俺達にはどうすることも出来ない事だから何にも言えないがこれでも舐めてろ少し楽になる。」
そう言って手渡された白い飴のような物を見つめる…
口に入れれば楽になる薬か…もうどうでもいいや…
さやかはそのまま口の中に入れて舌で転がした。
「甘い…」
幼い頃の記憶が蘇る。
昔食べたハッカのドロップだ。
突然涙が溢れだしてきて小さく口に出す…
「誰か…助けて…」
助けなど来るわけがない、全て説明されたと言うことは絶対に逃がさない自信があると言うことだ。
さやかはこれが自らの運命なのだと完全に諦めた。
しかし、運命はさやかに奇跡を起こすのだった。
「うぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
運転手の叫びと共に衝撃が襲った。
そして、少しの浮遊感と共に世界が回る…
カーブを曲がりきれなかった対向車の大型トラックがぶつかり車は谷底に突き落とされたのだった。
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