第7話 塩だけのオニギリ

「って事で5000万円の借金を返さないと駄目なの、もう払い始めているから4910万円だね」


さやか、金利の事を考えてない。


「そうか…そんな事が…」


りあらもまさか救急車を呼んだ時にさやかがそんな事になってるなんて夢にも考えてなかったから少し落ち込んだ。

それを見てさやか


「っでもりあらちゃんが来てくれなかったら私はもうこの世にいなかったかもしれない、だから遅くなったけど助けてくれてありがとうね」

「うう…さやかぁ~」


お酒が入っていつもより感情的になってるりあらはさやかの境遇に対し何も出来ない自分にも悔しくなり涙を流していた。


「それでね、りあらちゃんを今日誘ったのにはお願いがあってね。」


そう言って布でくるまれた一欠片の小さな紫の宝石だった。

布もよく見たら尹小田口絵の家紋が入った風呂敷だ。


「これを預かって欲しいの、お母さんの形見なんだ」

「えっ?!でっ、でもそんな大切なもの…」

「私これから身の回り全て清算してこの身一つで借金返済するために働くんだ。だから返済が終わって帰ってきたら返してほしいんだ」

「…本気?私、捨てたり売ったりするかもしれないよ?」

「それならそれでいいよ、どっちにしてもこのまま私が持ってても処分するだけだから」

「分かった、一応預かるけど無くなってたら諦めてよ」

「うん、ありがとう」


それは和井へのお礼でもあった。

いくら稼ぎがいい風俗とはいえ返済が終わる頃には身も心もボロボロになっているのは予想していた。

だからさやかは和井の元へ返して貰いに行くつもりは全くなかったのだ。

これは口には出さないが親友への今までのお礼と私の事を忘れないでと言うメッセージでもあった。


そして、二人は互いのこれからを祝って最後の乾杯をするのだった。





翌朝、最後に残っていた米で塩だけのオニギリを作って朝食として食べ自室を後にした。

大家に最後のお別れを言って部屋の鍵を返して部屋退去の立ち会いをしてもらいアパートを出る。

独り暮らしを始めてから世話になったアパートを少し離れた場所で一回だけ振り返りさやかは数点の下着と着替えが入ったキャリーケースを引いて約束している場所へ向かった。


いつもの黄色のスーツを着てサングラスをした永久乃が待つ車が停められてる場所へ

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