第14話 犯人は筆者昆布だった?!

『魔女狩り』


ヨーロッパで約4世紀もの間行われたそれの名前を殆どの人は聞いたことがあるだろう。

しかし、その実態はあまりに非人道的に一方的に行われた。

疑わしきは罰するのその根本の部分は人知を超えた者を相手にする時はやられる前にやらなければならないと言う考えがある。

未知の生き物が目の前に現れたとしよう、それが肉食か草食か分からない。

その時点で警戒をするであろう。

それと同じである。


だが魔女狩りを行われた中には本物の魔女が実は居たのだ。

次々に魔女狩りの名目で人々が追いやられる中、本物の魔女はこんなふざけた風習がいつまでも続くわけがない。

そう考え自らの命を別のなにかに宿らせると言う禁呪に魔女達は最後の望みを賭けた。

何人もの魔女達が犠牲となり遂にその禁呪は完成したのだがここで問題が発生した。

宿った者が意識を保てなかったのだ。

宿らせてその中に居たとしても意識が消えてしまっては居ないのと同じなのだ。


そこで考えられたのが意識だけでなく体もその物にしてしまえば良いのではないか?

そうして実験をする事になったまだ若い見習いの魔女は


「人に触れられる物が良い、そして人を喜ばせられる物になりたい」


その願いは叶えられ彼女は本になった。

だがその実験と同時に魔女狩りを行う一団が攻め混みその場に居た魔女は全て処理されてしまった。

彼女は見た目は本だがただの紙の束でしか無かった。

そうして忘れ去られた彼女は建物と共に浄化の名目で焼かれた。

だがここで奇跡が起こった。

焼け落ちた物によって床が抉られそこに本は落ちたのだ。

魔女が隠れ家としてその場所を選んだのには竜脈と呼ばれる土地の力を利用するためもあったのが幸いし彼女はその力を中に蓄えた。


竜脈の力を得て殆どその力と同じ存在になった時には彼女はその記憶を失っていた。

そして、自らの体を確認し木と言うものから出来ている何かと同化し現在の形になっていると理解した。

それは僅かに残ってた彼女の記憶から『本』であると理解した彼女は自らを本と考えていた。


長い長い年月を得て竜脈は世界中を巡る。

竜脈には埋葬された人の命が流れ込みその記憶や知識が僅かに流れ込む。

その中で彼女は本とは人に手に取られて読まれるものである事を知った。

自分は姿は本だがこれでは本とは呼べない。

そんな竜脈には関係のない明確な意思を持ったときに彼女は再び本として竜脈から抜け出した。

そこは水の中であった。

彼女は人に手に取られて読まれたい。

その思いだけで水の中を漂い続けた。

広い、とても広い場所だった。

だが海水ではない、湖だ。

彼女が実体化したその場所こそ日本最大の湖『琵琶湖』であった。


そして、偶然にもそこの遊覧観光フェリーを今度のデートで利用しようと下見に来ていた男性が居た。

男は時間のチェック等を入念に行い遠距離恋愛中の意中の相手を次のデートで射止めると決心していた。

心を落ち着かせるため琵琶湖を眺めていたその男を本は発見した。


『あの人に手にとって貰って読んでもらえたら…』


本は男に飛び付こうと飛翔した。

その時に男の口から出たその言葉に本は驚いた。


「さて、今日は本の森に寄ってから帰るとするかな」


本の森に寄る?!

なにその素敵な響き!

本になって初めて感じた胸の高鳴り!

彼女の人間だった時の心なのか本としての心なのか胸が踊る。

何処に胸が在るのか分からないが本はこの男に付いていくことにした。


男の後ろをストーカーし、車に隙間から乗り込み竜脈で手に入れた力を使うと言う事を覚えた本は無意識に数々の魔法を使いその姿限りなくして男に付いていった。

姿を消す魔法、気配を消す魔法、空を飛ぶ魔法…

様々な魔法を使い男に付いていった先で男を出迎えたその人物は言った。


「あぁ昆布さんいらっしゃい」


本は歓喜した。

店と思われる場所に並べられた本の数々。

そして、奥の机の上には積み上げられた本…

あそこに居れば私も…


しかし、本は表紙と裏表紙に何も書かれていないのを疑問に思った奈村の手に取られたが結局読まれることの無いまま机の上に戻される本…

その時初めて本は思い出し気付く…


『そうか、私は本になりたいだけで本じゃなかったんだ』


開いてもそこにあるのは白紙。

一体何を読むと言うのか?

そこで本は本となるために一つ考えた。


『中身を作れば良いんだ!』


その時だった。

何かにぶつかられ床に落ちてしまったのだ。

そして、自分を持ち上げる一人の人間が目の前に居た。

本は触られている手からその人物の記憶を読んだ。


『安居さんか…』


本は彼女の記憶の中にある様々な物語を混ぜ合わせ自身の中に世界を作り彼女に物語を作って貰うことに決めたのだった…

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