第13話 安居さん戦う!

グシャッ!


最後の奈村の眼鏡を確認して外して踏みつけて満足気に溜め息を吐く安居さん。

少し汗ばんだ肌が大人の色気を感じさせる火照った体の熱を逃がす深呼吸を数回繰り返してからキッと鋭い眼光を樹に向ける。


『答えは決まったか?チャンスは一度だけだ』


安居さんは迷いを捨て樹の方をしっかりと見据えながら口にした。


「全部偽物です。この中に本物の店長は居ません!」


言い切った。

少しの静寂の後、樹はゆっくりと答えた。


『残念ハズレ…』

「違わないわ!」


安居さんはオペラ歌手の様に通った声を発した。

観客全部へ伝える為に使われるそのテクニックは無意識ではなく安居さんの心の迷いがないからこそ出た人生で一番美しい奏となって樹に届いた。

遠くへ囁く、言うは易しである。

その勢いに樹は先程までの勢いを無くし話す。


『な、何故言い切れる?』

「全て確認したから」

『馬鹿なお前達の記憶を完全に再現したのだぞ!』


樹は気付かない、安居さんの気迫に押され自白している事を…


「奈村さんの眼鏡はその名の通り『7無裸』の眼鏡!そのナンバーには7が無いのよ!」

『そ、そんな筈はない?!』

「だからここにいるのは全て偽物!」


安居さんの叫びと共に奈村が消えた場所の闇の空間に亀裂が入った!

そして、砕けたそこには奈村が大きな黒い扇子を持って立っていた。


「安居さんお見事です!いやぁ~中々レアな体験させてもらいましたよ」

「て、店長!?無事なんですか?」

「おかげさまで助かりました。さて、初めましてですね人皮装丁本さん!」


奈村のその言葉に樹が恐れるように揺れる。

安居さんは奈村の発したその単語に聞き覚えがあった。

そう、かの有名なハーバード大学のホートン図書館に在ると言われている人間の皮膚を使って作られた本の事である。

奈村の眼鏡がキラリと光る!

今にも口にしそうだ…


『真実はいつも一つ!』っと

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