第12話 奈村の眼鏡を踏んで破壊する!
『そこまでだ。』
安居さんの前に突如現れた樹は安居さんの脳内に話しかけてくる。
だが安居さんは本物だと確信していた目の前の奈村が突如消えてしまったという事実に唖然として樹の言葉が頭に入ってこない。
「て…てんちょ…う…?」
今まで何度も繰り返した世界をあの奈村だけが違う方法で解決し何かを知っているようだった。
その店長が消されてしまった。
もう助からない…
安居さんの頭の中でネガティブな思考が加速し絶望色に表情が染まっていく。
壊れる…自分が壊れる…安居さんは精神を壊し大声で笑いながら泣き続ける自分の姿を想像した。
だが、目の前にいる自分をここまで追い込んだ現況の樹の前でその醜態を見せるのだけは本人のプライドが許さなかった。
一矢報いたい、その気持ちだけが彼女の精神を支えていた。
ふとその時に自分の気持ちに気が付いた。
店長である奈村に対して気付いたら持っていた特別な感情。
それに気が付いたのだ。
もしももう一度会うことが叶ったならその時はぶつけたいこの想い…
こんな事に巻き込みやがって絶対謝っただけじゃ許さないからな!
気分がスーと晴れていく、自分の中にあった違和感が解きほぐされて安居さんは落ち着きを取り戻していた。
『ほう、人間とは本当に面白い存在だな。ならばこれが最後のチャンスだ。さぁこの中からお前の言う本物の店長を見つけてみせろ!』
安居さんの前に再び夥しい数の奈村が現れる。
だが安居さんは落ち着いていた。
最後の奈村との旅で彼が気付き実践していたそれに気が付いていたのだ。
安居さんは目の前の一人の奈村に近付きその眼鏡を手に取る。
そして、マジマジと眼鏡を観察し最後に奈村が指を指していた眼鏡の棒状の部分のツルに書かれたそれを見付けた。
『53□17-140 9062』
これはメーカーが眼鏡のサイズと型番を印字した物でこの番号はこの眼鏡にしかあり得ないのである。
これを見て安居さんは口元を大きく歪ませ勝ち誇った笑みを浮かべた。
そして、その眼鏡を床に落として踏みつける!
見終わった奈村にチェックを入れているのだ。
そして、次の奈村の眼鏡を外して同じ部分を見る。
『53□17-140 9062』
そして、再び床に落として踏みつける!
安居さんはそれを延々と繰り返した。
暫く黙って見ていた樹が安居さんの不可解な行動に疑問を持ち始め話しかけてくる。
『そんな事をしても無駄だ。』
だが安居さんは気にせず無視して延々と奈村の眼鏡を確認して落として踏みつけるを繰り返す。
それは永遠に続くかと思える作業で、安居さんは途中から人の眼鏡を踏んで破壊すると言う行為に人が持つ破壊衝動を重ねて楽しく気持ちよくなって飽きることなくそれを繰り返した。
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