第11話 逃れられない永遠

それから安井さんの口から語られた話に奈村は驚きを隠せなかった。


店長の考えで開かれる森の道、店長のアイデアの数々で日数をかけて突破する山、休憩する小屋、足のどちらか片方を水面に浸けていれば沈まない湖、敢えて一番下まで降りて進む崖道、転ばないように髭ダンスの要領で移動する氷の大地、点ではなく面で歩けば刺さらない針の山…


安居さんの話す奈村は確かに奈村らしい奈村なのだが話を聞いている奈村にその記憶はない。


「そして、辿り着いたあの樹の前で店長は糸の切れた人形のように倒れたのです。樹は言いました…」


『これが最後の試練だ。この中からお前が信じる本物の店長とやらを見つけてみろ』


安居さんの目の前に突然物凄い数の奈村が無表情で並ぶ。

どれを見ても全て同じ店長…

表情から背格好まで全て同じ…

安居さんは悩んだ…

そして、一人を選んだ。


「これです、間違いなく店長です!」


だが返ってきた言葉は無情にも…


『残念ハズレだ。』


その一言と共に浜辺に立ってました。

それから何度も、何度も、何度も、同じことを繰り返し最後の店長探しで同じ言葉を受け再び浜辺へ…


「途中で店長に全部ぶちまけた事もありました。すると全てが文字に変わって地面の底に流されて気が付いたらまた浜辺…」


安居さんは泣いていた。

よくぞここまで耐えてくれたと奈村はいつもの笑顔を向けて…


「分かりました。では進みましょう!」

「えっ?」

「今度こそ帰るんです。私達の店に!」

「はっハイ!」


安居は確信していた。

目の前の奈村こそが間違いなく本物の店長だ!

思い返せば一度も一緒に連れていた糸の切れた奈村を選んだことは無かった。

今度こそ…


安居さんは拳に力を込めて小屋のドアを開ける奈村の後ろを進んだ。

そして、空いたドアの外を見て驚いた。

そこは針の山を越えた先にある真っ暗闇の通路であった。

先に歩き出す奈村の後を安居さんは踏み出す。

すると突然前を歩いていた奈村が振り返り眼鏡の耳にかける途中にあるツルを指差したと思ったらその姿が突然目の前から消えた。


「えっ…てん…ちょう…」


唖然とする安居さんの正面にあの巨大な樹が現れたのであった。

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