第10話 始まりの物語

「すみません、もう大丈夫です」


安居さんは落ち着き語り始めた。



時は奈村が厠へお花を摘みに行った時まで遡る… 







「ごめん、安居さん。ちょっと厠へお花を摘みに行ってきます」


本人は急いでないつもりだろうけど後ろ姿を見れば少し曲がった腰に少しでも早く行こうと力強く握られた手、大股になってるにも関わらず腹部を揺らしたくないと言うことが見てとれる動きはいつもの店長であった。


「クスッ店長可愛い」


その後ろ姿を見送り戻ってくるまでは自分が森の番なのだと心を引き締めレジ裏に回りお客さんを捌いていく。

直ぐに最後のお客さんがお帰りになって忙しかった店内に流れるBGMが癒しをもたらしてくれる。

この間にガラスケースでも拭こうかと振り返った時に手か当たり一冊の本を床に落としてしまう。


「あっやっちゃった。ん?でもこの本なんだか…」


その本は奈村が先程見付けた表紙のない本であった。

それを拾ったところまでは良かったのだが手に取り台の上に置いた時に違和感に気付いた。

毎日本を扱っているからと言うよりかは女性だからという事の方が確かであろう。

特に男性と女性では見える色の種類が違ってて女性の方が細かく色を識別できるという研究結果も発表されているのである。

表紙に何も書かれてないその本の表紙にうっすらと薄い色で何かが書いてあったのだ。


「やっぱりこれ、文字…だよね?」


ギリギリ見えなくもないそんな目の錯覚とも言えそうな色の違いで何とかそれを口にした…


「I want to become a book…私は本になりたい?」


安居さんが口にした次の瞬間閉じられていた本が勝手に開きそこから光が溢れ出した!

身の危険を直感的に感じた安居さんは逃げようと振り返ったが次の瞬間本が安居さんに襲い掛かるように飛んできて安居さんは本に吸い込まれるように消え安居さんの立っていたレジの下に本は落ちるのだった。

奈村が眼鏡の微調整を終えてトイレから出る時の事であった。



「それから気が付くと私は浜辺にいました。当りを見回しましたが人一人居らず…」


その後は迷いながらあの森に入り出れなくなり諦めて一晩そのまま寝たら森の出口に居た。

道なりに歩いて山が在ったので途中まで登ったがとても無理だと判断したので下山したら反対側に何故か出ていた。

降りた先の小屋で休んでその後も湖、崖道、氷の大地、針の山、様々なあり得ない光景に諦めた時にそれは表れた。


「大きな、とても大きな樹でした。その樹は心に直接話しかけてきて…」


僕は本になりたい、このまま消えるのは嫌だ。

ここの本達は人に読まれると言う役目を終えたのに再びその手に取られて読まれる幸せの可能性を持っている。

自分もそうなりたい、だから僕に物語を下さい。

気付いた時には安居さんは一人で再び砂浜に立っていた。


「そして、気配を感じて振り替えるとそこには店長が居たんです。」


奈村は自分の記憶と出会った形が違う事に疑問を持ったが安居さんの話はまだまだ終わらなかった。

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