第3話 無人島って発想には至らない

暖かい日差しに潮の香り。

水気を含んだ風に奈村は反応を示す。


「ん…んん…一体何が?」


目を開けるとそこは浜辺だった。


「へっ?」


美しい砂浜に波打つ海、照りつける太陽に爽やかな潮風…

そこはまさしく生命の源である海であった。

ここで「なんじゃこりゃー!?」って叫んだりするのがラノベの主人公なのだろうが紳士の奈村は違った。

まず今の時刻を時計で確認して太陽の高さそして季節と角度を計算する。

店仕舞いをしていた日本で発生した現象からここに至るまでの時間が僅か5分なのを確認し現在の太陽の高さからおおよその時差を考え出した結論が…


「ここが地球だとしたらエジプトかな?だけどそんな距離を5分で移動する手段もあり得ないし…やはりここは本の中?」


論理的に口に出さずに頭の中でも色々可能性を考えたがそれしか現段階で得られている情報では自分に起こっている事の説明が付かなかった。


「困りましたね、もっとホット亭で注文した『ノリ弁当ご飯は五目で』が受け取りに行けなさそうです」


こんな状況にも関わらず心配するのはそこかと突っ込みが入りそうだがそうではない、商売を生業としている奈村はもっとホット亭の店員さんの事を考えたのだ。

折角作ってくれた食材を駄目にする事もそうだがお客さんが注文して下さったのに受け取りにいらっしゃらないと言うのは何かあったのではないかと心配をしてしまう事に心を悩ませたのだ。

お客さまあっての商売人、お客様は神様だと言う言葉は店側が念頭に置いておかねばならない言葉なのだ。


「今日は忙しかったから自分へのご褒美にプラス30円で五目にしたのに…」


…き、きっと口ではそう言ってるだけだよもん…



「さて、迷子の鉄則はその場を動かない事ですが迎えが来る可能性は無いですしとりあえず探索しますか」


奈村は海沿いに歩き出した。


もしかしたらこの世界の何処かに安居さんが居るかもしれない、タイムカードをまだ切ってない彼女はまだ勤務時間中なので店長として守らないといけない。

そんな事を言ったら元の世界に帰るまで数ヵ月掛かったとしたら残業代が偉いこっちゃになるな…


そんな事を考えながら頭の中で安居さんは必ず無事と疑わない奈村は直ぐに再会を果たすのだった。


「おや、あの三角座りしている人が着けてる緑のエプロンは…」


奈村、夢だったり自分の考えが他人に影響を与える異世界だった場合を考慮して自分の思考すらも制御しており無事に安居さんを見付けるのだった。

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