第15話【あたふたキッチン】




自分の喫茶店を持ちたい。

そんな新しい目標を胸に

心を入れ替えて春が終わりを告げる暖かな陽気の中で決意した日から数日後の朝日の木漏れ日が残る通勤タイムのこと。人々は世話しなく店内を出入りする風景が広がる。

「すいません、サンドイッチとホットコーヒーお願いします。」

「分かりました。少々待ち下さい。」と奈緒子は華麗にオーダーを取る。

『マスター。サンドイッチのオーダー頂ました』


「ちょっといい。奈緒ちゃん。頼まれて欲しいんだけどいいかな。」マスターは奈緒子をキッチンへと連れてくる。そこには下ごしらえされた

野菜などの食料の数々。

「マスター。これは.」奈緒子が困惑して数々の食材とマスターを交互にを見る。「にかっと笑い.「フード作りを奈緒ちゃんに頼みたいんだけどいいかな」


「なん、やと。」

ピンと耳が立つ。

やっと接客以外の仕事が、キタ━ー。

内心ウキウキで耳を傾けて聴く。

「駄目かな、この時間帯は特に忙しくて猫の手もかりたいくらいなんだよね。ほんとに大変で...」

「だ大丈夫かなー。」

はっ、思わず声に出てしまった。


「なーに大丈夫大丈夫。リサが居るんだから

手順は、あの子に訊いてねー」とマスターはその場を離れる



「ううっ…」



「できたら呼んでねーじゃ。」

「はい...」

行っちゃった...

「気を確かにね」

再び後ろを振り向いてエールを送る。

『はい、頑張ります。』

意気揚々と応える。

「それじゃあ、これで行くから..行くからね。」

「マスター...早く行くなら行って下さい。」

「ごめん。ごめん、じゃあ出来たら呼んでね。」と本当にカウンターに戻ってしまった。



「よし、やるぞ。」

初めて接客以の仕事を任せて貰えた

初めて接客以の仕事を任せて貰えたんだからその期待に応えたいからと気持ちを奮い立たせる。

「えーと、まずは食パンを用意してと。あれ、どのパンを使うんだろう。

いろいろある角形の食パンが並ぶのを前に戸惑う。

「これを切るのかな?」

「あっ、奈緒ちゃん違うよ。このスライスしてあるのを使って。」

「ありがとー、リサちゃん。」奥からスライス食パンをお皿の上に用意してリサちゃんが

差し出してくれた。

「はい。あと、適当に選らばないことだよ」

「ごめん。」

キッチンには一緒にリサちゃんもいるんだし二人居ればなんとかなる

そんな根拠のない自信が湧いてくる。

「リサちゃん、この続きはどうしたら...」と隣に視線を傾ける。

が、いつの間にか居なくなっていることに気付く奈緒子。

『遅いぞー。ここの喫茶店はサンドイッチ一つに何時間待たせるだー』

とカウンターからお客さんの怒鳴り声が聞こえてくる。

ピピピピッピピピピと調理タイム終了を告げるアラームが鳴り響き、更に

頭の中がごちゃごちゃになる。

『あー、どないしょー。』頭の中が真っ白になる奈緒子だった。


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