第11話 佐伯健二再び歩み始める

母が死んだ。

自分のせいで死んだ。

健二は苦悩の日々を送っていた。

中学3年になったが今までと一転し学校に行かなくなり部屋から殆ど出なくなった。

父と兄は何も言わなかった。

部屋から出ない健二は知らなかったが兄の健一は高校を中退し就職した。

僅か1年しか通わなかった高校を辞めるときに父と言い争いがあったのを聞いて健二は二度目の人生でも自分のせいでと深く苦しんだ。


母の死因は転落死、被災地に入って健二を探している最中に地面が崩れそのまま帰らぬ人となったと聞いた時の事が健二の頭の中を延々と巡り続け健二は生きているのが嫌になり自殺を考えた。


夏休みに入った有る日の事、一人の男性が健二を訪ねてきた。

昼間に来たときは健二しか家に居なくて居留守を使ったのだが夜になり再び訪れたその男性は父が応対し二人揃って健二の部屋を訪れた。

何も考えるのを放棄していた健二にその男性は頭を下げお礼を述べ始めた。

その男性は被災地で健二が助けて治療を行った一人の子供の父親で健二の治療が無ければ息子は生き延びれなかったと語られた。

その言葉に健二は救われた。

自分の行動の結果助かった命がある。

父は母の死は事故だと言い切りこれ以上悩むのは誰も喜ばない。

そう伝え封筒を渡してきた。

それは兄からだった。

兄が高校を中退し働きそのお金をずっと貯めてくれていたのだ。

そして、その金を健二の夢である医者になる為に使って欲しいと手紙が添えられていた。

健二は枯れたと思っていた涙を再び流すと共にその日から医者を目指す志をしっかりと父に伝えるのだった。

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