家の壁は割れている。殆ど廃屋のようだ。廃屋のようだが普通に生活している。

崩落を防止するための緑色のシートが貼られている。足場がずっと組まれたままでジョイント部は茶色、オレンジ色の粉が吹いている。


時々その粉で遊んでいる自分に気が付く。

何を考えるでもなしに、指に塗りたくり、その匂いを嗅いでいた。

やたらと鼻につく匂いだ。今にも胸を悪くしそうだ。喉が渇きそうだ。

乾燥してるようなにおいだ。でも部屋にはカビが生えている。


キッチンの壁の後ろに見える空は白色。

すすけたコンクリートに反射するハレーションの延長のような白色。

コンクリートが劣化するとどんどん城に近くなっていく。

新しいものは死んでいるように冷たい灰色だ。

地層の奥底の始祖鳥が閉じ込められたような硬くて動かない灰色

押しつぶしてマグマやマントルに変化していくのだ。


蝉が一匹だけ、壁の割れ目に止まって鳴いていた。

私の人生も一夏が過ぎればもう終わりの頃かもしれない。

地下鉄に飛び込んだ男は小さくなって扉の向こうへ消えていった。

このキッチンの向こうの白い空の中に煙のように消えていきたい。


風邪や空気に憧れるように考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る