赤
拷問には色々な種類がある。
水を眉間に垂らし続けるもの
水の音をずっと聞かせ続けるもの
体を縛り、目隠しをし、放置し続けるもの
くすぐり、三角木馬、その他は歴史上よく知られた残虐極まりない数々の有名なものがある。
ロンドン塔や一昔前の東京タワーの蝋人形館でそれらを見た時、私は何故か異様にその光景に惹きつけられたものだった。
私はその余韻を楽しむべく、記憶を呼び起こして絵を描いたり、人知れず自分の体を縄で縛ったりもした。
そうすることによる興奮は底知れなかった。
拷問をする側、される側、どちらが良いかと言うとされる側だった。
する側というのは情緒がないし、主役性に乏しい。
される側と言うのはどうにも運命に苦しめられ、窮地に追いやられ、動物へと戻っていく過程の再演のようで、無性に劇的なエモーションナルに駆り立てられる。
しかしこれは知られてはいけない私の性癖である。
だから私は他人を傷つけるという事に関して、それによって自分が傷つける結果になるという事に重きを置くことにした。
とはいえ、これは一種の見えない監禁拘束的な任務であり、本意ではない。本意ではない事が拷問される側のようなエモーショナルな一面があることを自身は理解していたが、本当にこれでいいのかという不安が何度も往復してはよぎる。
Aの飼育については以下のプランを考えた。
・Aがいつも使う通りで数人の通行人を配置し、彼らが一斉にAとは背を向けた方向で立ち止まる。それぞれが全く知り合いではないかのように装う
・Aの家の付近に集まり、何かをヒソヒソ囁く。その後Aを見て、無表情に立ち去る
・Aが使用する交通機関について、Aが乗る少し前に他の乗客をAから避難させる。そして通行人を装い、こちら側の人間を2~3配置する。彼らはAと決して目線を合わせない
・それらにAが反応を示し始めたら、次はAがいつも使う通りで数人の通行人を配置し、今度は一斉に笑ったり手を叩いたりする
・Aの家付近から3メートルほど離れた路上で、Aの履歴などを聞こえるように呟く。
・Aの職場の入り口にて、不審者がこれから来るので注意してくださいとAに聞こえるように言う。それを毎日ではなく、1か月に2~3度行い、また半年後行う
プランはその後も続く。
気が遠くなる。
でも考えるのは結構楽だった。何故なら以前私も同じ目に遭い、その遭わせた相手の手下になって働いているのだ。
彼は私をコントロールするためにそうしたのだという。
そのコントロールを施すことにより、私は本当の父親の事を知り、そしていつしか父の生きていた世紀を超えたあの場所へと向かえるのだった。
私の夢はそこで若き父と再会し、会話を交わし、そこで死ぬまで暮らす事だった。
Aも僕のように立派な人間になるのだろうか。
数日後、ほどなくしてAは地下鉄に飛び込んだ。
雇用主は言った。
「地下鉄の下には隠し扉があって、そこに逃げられた。」
そういえば、Aは飛び込んだ後電車は駅に停止し、特に何事もなく人を乗せて出発したのだった。
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