真っ向勝負

 枷が外れて屋敷を締め付ける力を強める事が可能となった分身。

 赤い瞳を俺に向けて、悪意と憎悪を放っている。

「的がデケェなら外す事もねぇな!」

 分身の脳天にミョルニルをぶち込むべく、その巨大な身体を駆ける。

――シャァァァァア!!!

 大気が震える程の威嚇音を発しながら、俺を飲み込もうとその口を開けた。

「ハッ!!いきなり喰われてたまるかよ!!」

 ジャンプして躱す。バグンと口を閉じた分身。脳天ががら空きだった。

「うおおおおおおおおおおお!!」

 凄まじい打撃音が辺りに響き渡る。分身の頭は潰れ、焼けただれ、頭部の肉片が下に落ちていく。

「やったわ!!」

 ソフィアが右腕を曲げてガッツポーズを作った。

「ハッ!!デケェだけか!拍子抜けだぜ!!」

 そのままの姿勢で落下する俺。ぶっ潰して無くなった頭部付近に差し掛かる。

「まだじゃあ!!気を抜くなガキぃ!!」

 ジジィがデケェ声で俺に警告を発した。

「頭潰したんだからよ!終わりだろ!」

 勝利を疑わない俺。肝心要の頭をぶち壊したんだ。もう終いだろう?

 油断していたのだろう。簡単に事が運んだのだから。だから潰した断面から『ボン!』という音と共に、新たな頭が生えた時の俺の驚愕も理解できるだろう!!

「な、なにぃ!?」

 まさに絶叫。ここは空中、逃げ場もねえ。

 そして当然ながら、新しい頭は再び俺に口を開いた。

――超速再生か!?

「言わんこっちゃない!!」

 ロゥとジジィが慌てふためく。

 さっきも言ったが、俺は空中。逃げる事は不可能。だが、このまま向かってくれば、またミョルニルをぶち込む事はできる。

 その時に備えて構える俺。

 しかし、新しい首は、俺に向かってくる事は無く、何かを俺に吐き出した。

「何だこりゃあ!?」

 吐き出した後、俺に向かってくる分身。

「来たか!!」

 振りかぶると、凄まじい激痛が俺を襲った!!

「があっ!?」

 咄嗟に身体を丸めてしまった。後悔した。戦闘中に間抜けを晒した。我に返り、顔を上げると、頭が俺の目の前にいた―!!

「しまっ…」

 口を開いた首!だが距離が足りず、鼻に接触、いや、激突する!!

「ぐああっ!!」

 身体が跳ね上がり、物凄ぇスピードで地面に叩き付けられる。

「かはっ!!」

 いきなり襲ってきた痛みと、叩き付けられた痛みが重なり、俺は一瞬動けなくなった。

「な、何ださっきのは!?いきなりよ…ぐっ!!」

 鬼神憑きの俺にこれ程の痛みを感じさせるとは…トールや北嶋以来か?

「ガキ、毒を浴びたな!!」

 毒…?

「あの吐き出した液体か!?」

「鬼神憑きで、致命傷にはならんだが、ガキ!生身なら、貴様死んでおったぞ!」

 ジジィが背中から金剛を出す。

「な、何をするつもりだジジィ…?」

「知れた事!皆で掛かるのじゃ!行くぞロゥ!ソフィアはグレイプニルを嵌めてくれぃ!」

 ジジィに促され、ロゥが戦闘体制に、ソフィアは応急処置をしたグレイプニルを取り出す。

「ふざけんなジジィ!!お前等も退け!!」

 俺は痛みを堪えながら立ち上がる。痛みで眉根を寄せながら。

 毒ってのはこんなに痛えもんだったのか。なかなかいい経験をしたぜ。次からは絶対に喰らわねえぞ!!

「ふざけとるのはお前じゃガキ!!己の力量を知ろ!!」

「キョウ、気持ちは解るけど…」

 ジジィとソフィアは共にやるつもりだった。

――キョウ、あれは我が兄弟、大蛇ヨルムンガンドによく似ている。トール神ですら、相討ちが精一杯の大蛇だ。『今のお前』じゃあ、太刀打ちできぬ

 ロゥが俺を見据えながら、『今のお前』を強調した。

「ロゥ、テメェ何が言いたい?」

 ロゥは一瞬険しい表情を出す。

――この魔狼、フェンリルが付き従っている理由を忘れるな。出し惜しみするな。この戦い、勝たねばならぬのだろう

「…テメェより強い奴じゃねぇと従わないんだったな」

 アレを出せってか?しかしアレはなぁ…

 躊躇していたその時悪意が俺に接近してきた。

「うおっ!?」

 大蛇が口を開けて俺に突っ込んできたのだ。

「キョウ!!」

「ガキ!!」

 ジジィとソフィアが同時に叫ぶ、解ってんよ。ヤベェ事は誰よりもな。

「ああああ!!おらぁああ!!」

 ミョルニルを振り回す。

 ミョルニルは大蛇の上の牙にぶち当たり、その牙を折った。

――シャァァァァアァァァアア!!!

 大蛇は涎を流しながら、首を上げた。

「牙一本かよ…」

 そのまま下顎をぶち抜くつもりだったが、危機判断能力にも長けているようで、大蛇はあっさりと上に逃げたのだ。

「やっぱりスピードが足りねぇようだな…」

 北嶋とやり合った時にハッキリと解ったが、ミョルニルをぶん回すパワーの代償で、俺はスピードが少しばかり足りない。

 スピードが増せば鋭さも増す…

「やるしかねぇか…」

 対北嶋戦に温存したかったが、そうも言っていられねぇ…

 腹を括った俺は、空に指で呪を書く。

 それを両掌でパンと叩いた。呪を柏手で打ったと思ってくれればいい。

「今の呪は!?」

 ジジィが驚いた声を上げる。

「ガキ!!貴様何時の間に!?」

 構わずに唱える。

「地獄の象徴、鬼神共。咎は我が目の前也…その咎、結構な逃げ足也…」

 腰に梵字の魔法陣が浮き出る。

「テメェは毒も吐くんだったな!!」

 再び呪を書き、両掌で叩く。

「地獄の象徴、鬼神共。咎は我が目の前也…その咎、結構な毒を持っている也…」

 胸にも梵字の魔法陣が浮き出た。

「まさか!?そりゃ行き過ぎじゃガキ!!」

 ジジィが止めに入るも、詠唱は終わった!!

「もう遅ぇぜジジィ!!駿風はやかぜ陽炎かげろう、出ろ!!」

 腰から細身の一本角の鬼神、駿風が、胸から蒼い炎を纏った鬼神、陽炎が現れる。

「三鬼神憑依!!」

 俺の号令で憑依する鬼神。腰からは起動力が跳ね上がったような形の、バネの塊の駿風が、胸には蒼い炎が鎧のように纏わり付く陽炎が、それぞれ特性のみを俺に反映させていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ガキの使った術は、鬼神融合…鬼仙道の奥義中の奥義…!!

 始祖以来、鬼を複数憑かせる技を使用した者はいない。

 いや、厳密に言うと、複数憑かせる事ができないから使用できない。無論、ワシにもできぬ。

 何時の間にこんな術を…!!

 思えば始祖以来、羅刹を御せる者はおらなんだ。

 それをあやつは、勿論激しく努力はしたが、従えたのじゃった。

「完全にワシを越えおったか…」

 ワシは嬉しさが込み上げて来て、笑いを押さえるのがやっとの状態。顔を伏せ、微かに肩を震わせていた。

 やがて顔を上げ、ガキに笑いを崩さすに言う。

「ガキ!!短期決戦じゃぞ!よいな!!」

 ガキは振り返る事もせずに、右腕を上げて親指を立てた。

「行けガキ!!貴様が最強じゃあ!!」

「言われずとも…俺が一番強えぇ!!!」

 ガキは大蛇に飛び込んで行く。

 先程とは比べ物にならぬ程の、恐ろしいスピードで!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 それだキョウ。それが、この俺が従った理由。

 初めて出会った時に見せたキョウの力だ!!

「遂に出したわ…」

――これで負けは無い!!

 俺より強い者が本気を出したのだ。負ける訳がない。

――あれが彼の隠していた力か。成程ね

 死と再生の神が感心して唸る。

――北欧の神話の時代より、あれより強い者は存在せん

 断言した。

 トール神も完全に超えた力。ヨルムンガンドすら、あのキョウの前では無力だろう。

 しかし、死と再生の神が信じられない事を呟く。

――漸くこれで互角か

――互角!?

 あのキョウと互角だと!?

 俺は再び大蛇に目を向ける。そして改めて大蛇の力を探った。

 奴の最深部まで目を向ける…

 奴の力の源…憎悪…

 それを凌駕する力を以て挑まなくてはならないのだが、憎悪が巨大過ぎるのか!!

――まぁ、互角と言う事は、勝ちも拾えるって事さ。心配いらない。まだ彼には隠し玉があるみたいだしね

――隠し玉!?あれ以上持っていると言うのか!?

 再びキョウに目を向ける。

 キョウはミョルニルを大蛇に向かって振り下ろそうとしている最中だった!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 鬼神を三体、その身に憑かせたか…

 彼の負担はかなりのものになっただろう。

 老人が言ったように、短期決戦でなくば、彼は力が尽きて倒れてしまう事だろう。

 だが、かのナーガと漸く五分となった程度。

 そして、まだ彼は力を出し惜しみしているようだ。いや、最後の最後にとどめとして使うつもりか?

 どちらにせよ、一気に勝負を付けないと、彼は負ける。

 それにしても、彼の選択…戦って勝つは、やはり人間。

 まぁ、大抵の人間は彼のように力で挑むだろうが。

 私は空間に作った窓を見る。

 あっちの彼は、苦戦らしい苦戦はしていない。

 驚きだ。彼には底が無いのか?

 分身と遜色のない力の本体、ナーガを、全く物ともしていない。

 そして、その気になれば、いつでも倒せる筈なのに、彼の取った選択…

 ナーガの本質を鏡で視たからか……

 鬼の彼にも興味が行くが、彼方の彼が、私の心を捕らえている。

――ナーガの本質は悪意。だが、悪意は後から産まれた物では無いのかな?

 鬼の彼に向かって呟くも、彼の耳には届きそうもない。

 彼は他に意識を逸らす暇など無いからだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おおおおおお!!」

 気合い全開でミョルニルを脳天に振り下ろすと、潰れた肉が空に散らばる。

「テメェは直ぐに再生するんだよな!!」

 頭が生えてこないよう、ミョルニルを乱打する。


 ボゴボゴボゴボゴ


「ち!!」

 散らばった肉片がナーガとなり、俺に向かって来た。しかし、ふざけんじゃねえ。

「駿風のスピードを舐めんじゃねぇ!!」

 襲ってきた小型のナーガを全て躱して、カウンター気味に全てミョルニルで叩き落とした。

「ぐあっ!?」

 いきなり後ろから凄まじい衝撃が走る。

 何かにぶん殴られたような?

「頭だけじゃねぇ、尻尾も使うようになったか!!」

 それはナーガの尾。屋敷を締め付けていた力を俺に向けて来たのだ。

 つまり奴も本気になったって事だ。

「ハッ!!テメェも他に気が回らなくなったか!!」

 尾をミョルニルでぶん殴る俺。同時に聞こえてきた咆哮。

「ち!いくらなんでも早すぎるんじゃねえか!!」

 頭もすっかり再生していた。驚くべき再生速度!!

 その再生した頭で、俺に毒を吐き付ける。

「陽炎!!」

 纏った蒼い炎が激しく燃え上がり、毒を焼き尽くす。

「毒も封じたぜ!!」

 ミョルニルを担ぎ、高速でジグザグに大蛇に向かう。

「む!ステップを?」

 向こうの事に気を取られている暇はないが、ジジィが目を剥いたのが解った。

「あああああああ!!!!」

 それはフェイントを交ぜて高速で向かって行った副産物だが…!!

――見事に分身したね。術でも幻でもなく、単純な脚力で

 死と再生の神が驚嘆する。神に感心して貰えるとは光栄だ!!

 そしてミョルニルを乱打すると、大蛇の胴体が肉片となり散らばりながら地に落ちる。

「細切れならテメェも再生に手間取るだろうよ!!」

 ミョルニルを肉片目掛けてぶん投げる。

 ミョルニルは雷そのものだ。ミョルニルから発せられた雷は、肉片を容赦なく焼き尽くす!!

 そしてぶん投げたミョルニルは俺の手元に戻って来た。

「テメェでも焼き尽くされたら再生はできねぇだろう!!」

 俺が地に付いた頃には、焼かれた肉片が宙から降り注いでいる状態になっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 やった!!あのナーガを粉砕した!!

 流石に肉片全てやかれたのだから再生は出来ぬ!!

「やりおったなガキ!!」

 ワシはガキに直ぐ様駆け付けようとした。嬉しさのあまり。

――まだだよご老人

 死と再生の神が漏らした一言で、ワシの歩みが止まる。

「まだとは?」

 ガキの技で大蛇は肉片も燃え尽きて、再生は不可能な筈。屋敷に蜷局を巻いていた原型は最早無い。それでもまだだと言うのか!?

「か、仮にあそこから再生したとしても、少し時間が掛かるのではないですか?」

 確かにまだ燃え尽きていない肉片も多少あるが、ソフィアが言う通り、再生には時が必要な筈だ。

――肉片はね

 肉片は再生に時が掛かる。そこはワシ等と同じ見解の様じゃが…

 ワシは辺りを見渡した。まだ何か…!!

「ガキ!まだ尻尾が残っておるぞ!!」

 庭にめり込んだ形で尾が地面から少し覗かせていた。

「尻尾もあれだけだぜ。あんなのミョルニルで一発…」

 無防備に尻尾に近付いていくガキ。

 その時、ガキの足元から大蛇の頭が地面から現れた!!

「なっ!何ぃ!?」

 予想しなかった出現に後手を踏んだガキ!いや、ガキだけを責められぬ。死と再生の神以外、全員が勝ったと思っていたのだから!!


 バクン


 頭はガキを口を開けて飲み込んだ。

「ガキぃ!!」

「いゃああ!!」

――キョウ!!

 全員が絶叫した。

 迂闊だった。あの尻尾はガキがミョルニルを投げる前から地に落ちて突き刺さっていたのだ。尾から胴体、そして頭と、地の中で再生していたのだ!!

――残心を怠ったね

 死と再生の神が溜め息を付く。

「くっ!!」

 ワシは金剛を出す。やはり一人では無理だったのだと後悔しながら。

――ご老人、鬼神を出してどうするつもりかな?

「知れた事!ガキを救い出すに決まっております!!」

 更に呆れた死と再生の神。首を何度も横に振る。

――ご老人、あなたでは彼の足手纏いになるよ

 その弁では、ガキはまだ終わっていない?ハッとして大蛇に目を向ける。

 大蛇は閉じた口を徐々に開けていた。いや、ガキが口の中からこじ開けているのだ。

「つっ!!油断したぜぇぇえええ!!あああっ!!らぁああああああっ!!!」

 口が完全に開いた。

 ガキは転がるように口の中から出てきた。

「ガキ!貴様大丈夫か…うっ!?」

「キ、キョウ、アナタ…」

 ガキの身体から蒸気が上がり、駿風と陽炎が解かれて行く。

「タイムリミットかよ…!!」

 ガキは力尽きたように、片膝を地に付いた。

 駿風と陽炎が離れて行った今、ガキには羅刹しか残っていない。

 それはガキの負けを意味していた。

「はぁ!!はぁ!!はぁ!!」

 ガキの疲労がピークに達している。息遣いが此処まで聞こえてくる…

 このままでは、羅刹も離れてしまう。

「あ、あなたの御力で何とかならんもんか…」

――私に君達の戦いに参加しろと言うのかい?私がここに居る理由は、鏡を容易に回収する為。それ以下でもそれ以上でもないよ

 ワシはきっと苦虫を噛んだような顔をしていた事だろう。

 部外者に助けを求めるなど、愚の骨頂!!

 そして後悔ばかりが頭を埋め尽くす。やはり皆で掛かるべきじゃったと。

「はぁ!!はぁ!!おい、死と再生の神!!北嶋はどうなっている!!」

 この期に及んで北嶋を意識するかよ…負けん気だけは世界一じゃな…

――彼は君と違う戦いをしている真っ最中だよ。彼は全く心配ない。それは保証しよう

「北嶋は楽勝ムードかよ…じゃあ…俺も、もう少し踏ん張らなきゃなあ…」

 片膝を付いたガキは、残りの体力を使って立ち上がった。そして目を瞑り、呪を詠唱する。

「…王牙の名において…」

「何!?王牙じゃと!?」

 耳を疑った。

 ガキが口にした名は、鬼神の王、王牙!!

「貴様王牙と契約を!?」

 駿風や陽炎を喚べたのも、王牙を介したおかげか!!

――鬼神の王の名を…その身に憑かせる事まではできないようだが…

 死と再生の神が初めてガキに興味を覚えた。そんな表情をしていた。

「渇く者、飢える者…」

「その呪は!!」

 いつでも力勝負のガキが、なりふり構わずに勝ちを拾いに行っておる。

「我が敵で腹を満たす者を…此処へ!!」

 ガキが目を開いた!!

無限餓鬼魂むげんがきだま!!」

 詠唱が終わると同時に大蛇の周りに黄土色の光が無数に纏わり付く。

 その光に、ぼんやりとだが、角と牙が確認できた。

「其奴等は餓鬼か!!」

 喰っても喰っても満たされる事の無い鬼。

 餓鬼魂は我先にと大蛇の身体を貪った。

――シャアアァアアアア!!!

 餓鬼魂に身体を喰われて暴れる大蛇。

 餓鬼魂は喰ったら呪いに当てられたか、もがき苦しみ、地に落ちる。

 しかし、餓鬼魂は無限に現れ、大蛇の身を喰らう。

「……ちくしょう………!!」

 ガキが拳を握り固めて震えている。

 握力によって握り拳から血を流す。

――力で勝ちを拾えなかった悔しさからかい?

「何としても勝たなきゃならねぇ勝負…俺のチンケなプライドなんざ、二の次だ…!!」

 ガキは顔を上げる事も無く、大蛇に背を向けた。

「残心を忘れるなガキ!!」

「王牙の代理と言う形で喚んだ餓鬼魂だ。喰らい尽くすまで終わる事はねぇ」

 ガキの言う通り、餓鬼魂は呪いに当てられ、相討ちと言う形ながらも、大蛇の身体を喰い尽くす。

 死んでは現れ、現れては喰い、喰っては死ぬ…

 まさに無限!!!


――シャアアァアアアアアア…ァァァ………


 大蛇は赤い目をガキに向けながら…

 喰われて消えた…

 最後の最後まで、ガキに憎悪を向けながら…消えた……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――終わったようだね

 鬼神憑を解いた俺に死と再生の神が呟いた。

「一応な。勝負には勝った」

 死と再生の神が頷く。

――君だけじゃない。人間ならば、あの戦い方が正確なのかもしれない

 正確?餓鬼魂に喰わせる事がか?

――君が喚んだ鬼は、命と引き換えに呪いを喰った

「…なにか奥歯に物が挟まった言い方だな?」

――だから人間にはあの戦い方が精一杯かもしれぬと言ったんだよ。呪いを倒すと言う、大義名分の元、使役した者の命と引き換えにする…

 俺は死と再生の神を睨む。

「力で押し切れなかった俺を責めるか?」

 首を振って否定する死と再生の神。

――君には聞こえていなかっただろうが、ナーガは初めから悪意を持っていたのかな?

 言わんとしている事は、何となく解った。だが…

「俺は聖職者じゃねぇ。救う為の戦いは知らねえ」

――だから人間にはあれが限界なんだと言ったのだ。向こうの彼は違うようだが

 俺達は空間に開いた窓を見た。

 北嶋も、間もなく呪いを倒す所だった…

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