帰ってきた二人

 私の最強の技、誘いの千手が分身の大蛇を押さえる。

「グレイプニルもあと4つ…これが壊れたら…」

 躊躇いながらもグレイプニルを嵌めるソフィアさん。

――もう直ぐでキョウが帰る!!それまで踏ん張れ!!

 フェンリル狼が大蛇の身体を駆けながら激を飛ばす。

 そう、枷は最早意味を成していない。呪いが外に飛び出そうとしているのを、辛うじて食い止めているだけ。

 それは、タイムリミットまであと僅かだと言う意味を差している。

 押さえ付けている私達には解る。師匠の結界がもう直ぐで崩壊するのだと。

 分身の暴れ方が尋常じゃない。

 本日これで3度目のグレイプニルを交換している。

 あの魔法の銀の枷が殆ど無力になっている。それは私の千手も同じ事だ。

「もう直ぐ…もう直ぐで北嶋さんが帰って来る!!」

 所々引き千切られた千手の腕が地に落ちる様を見ながら、私は自らを奮い立たせる。

「破損したグレイプニルの応急処置をしておきます!!」

 ソフィアさんも諦めてはいない。

 まだ私達には希望があるから。

 尚美の命がまだ尽きていないから戦う!!

 千手を物ともせず、フェンリル狼を追う分身の大蛇。


 ピキッ


「グレイプニルに亀裂が!!」

「たった今交換したばかりなのに!?」

 千手で鎌首を集中的に押さえる。


 ブチブチブチブチ


 千手が押さえる先から引き千切られる。

「だから何!?」

 構わずに冥穴から千手を喚び、増強する。

 その時亀裂が入っているグレイプニルが砕け散った。千手を増強しなければヤバかったと冷や汗を掻く。

「残り3つ…応急処置を急ぎます!!あっ!?」

 大蛇はその鎌首を私に向け出した。

――要があの女と気付いたか!!

 私の前に立つフェンリル狼。盾になるつもりだ。

「攻撃は駄目よ!!」

――承知!!

 唸るフェンリル狼。怯まず私に首を伸ばしてくる大蛇。


 バキィィィィ!!!


「グレイプニル残り2つ……!!」

 枷を壊して、結構な自由を得た分身は、フェンリル狼ごと私を飲み込もうと大きく顎を開けた。

「桐生さん!!ロゥ!!」

 すっかり日が暮れた庭にソフィアさんの絶叫が響き渡った。

「まだまだ!!」

 再び念を込める。魔法陣から新たな腕が現れて、その開いた下顎を突き上げた。

 口が一瞬閉じたが、その巨躯で構わず薙ぎ倒す。

――おおおおおお!!

 飛び掛かろうと重心を後ろに置いたフェンリル狼。その時、大蛇の動きが急に止まった。

――む!?

 フェンリル狼が後ろを振り返り、空を見上げた。大蛇も空を仰いでいる。

「な、何?この神気?」

 ソフィアさんが驚愕する。フェンリル狼も大蛇も、その神気に気を取られたのだ。

 その神気は空から。あれ程の神気の持ち主が、何の脈絡の無しに現れる訳がない。ならば答えはただ一つ。

 確信したと同時にその場にペタンと座り込んだ。

「桐生さん、大丈夫ですか?」

 空を気にしながら私に駆け寄るソフィアさん。

「もう大丈夫。私達の仕事は終わりましたよ。帰って来たんです。北嶋さんが…北嶋さんが帰って来たんです!!」

 私は笑顔を空に向けた。

 夜空から屋敷に向かってくる神気に向けて、軽く手を振った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 先程から黒い蛇が、神崎さんから休む間も無く湧き出ている。

 神崎さんの部屋から一匹たりとも表に出す事はしない。

 私と九尾狐は湧き出る蛇を片っ端から滅していく。

――女、もう退け!貴様の体力では半日も神刀を振り回すのは容易ではない筈!

 九尾狐の言う通り、神崎さんの身体から湧き出る黒い蛇は半日、休まずに現れていた。

「大丈夫!もう直ぐ北嶋さんが帰ってくる!そうでしょう!?」

 神崎さんを蝕んでいる呪いの暴れっぷりが尋常じゃ無い。恐らくは神崎さんの命は、あと僅かなのだろう。

 だが、北嶋さんは絶対に間に合う。

――無論だ!誰一人として勇が間に合わないとは思っておらぬ!!

 黒い蛇に纏わり付かれながらも尾を振るう九尾狐は、私達の思いを口に出した。

 誰も北嶋さんが間に合わないとは思っていない。当然私も。

「じゃあもう少しだけ頑張ればいいだけでしょう!違う!?」

――違わぬ!それで間違いは無いのだ!!

 ならば私は迷わず剣を振るうだけ。群がる蛇を薙ぎ倒すだけだ。

 半日も十拳剣を振り回して、握力も体力も無くなっている。

 だが、私は剣を振るうのをやめない。

――振りにキレが無くなってきておるぞ!

 それは退けと同じ言葉。足手纏いになっているのか。

「あっ!!」

 それは一瞬の気の緩みで起こった。

 膝がカクッと落ち、床に付いた。

 好機を感じたのか、黒い蛇が全て私に襲い掛かってくる。

――ちぃ!!

 九尾狐が私の前に飛び出す。

 私は慌てて体制を建て直す。

 何千、何万の黒い蛇が一斉に私に飛び掛かって来た!!

「くうううう!!う、うん?」

 蛇に対応するように構えた私だが、蛇は時が止まったように動かなくなった。まさに固まったと言っていい。

「な、何?」

 戸惑った。それとほぼ同時、蛇は後退りをし出す。何かを怖がっているように。

――勇!!何という者を連れて来たのだ…!!

 九尾狐が襖の方を振り返りながら、呆然とした。

「北嶋さんが帰ってきたのね!!」

 私も襖の方を振り返えった。だが、同時に腰が抜けそうになった。

「な、何!?この神気!?」

 思わず十拳剣を落としそうになる程の存在感のある神気!!

 北嶋さんは一体何と共に帰って来たのだろうか?

 神気は黒い蛇を脅かし、私達すらも近付く事すら許さない。

 そんな神々しさを際立たせていた…


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「きゃあああああああああ!!!」

 結奈が身体を固めながら転げ回る。

「右腕だけじゃなくなってしまったか!!」

 鬼神で結奈を拘束している松尾先生が眉間にシワを刻む。

「もう少しで魂まで到達するようですね…」

 お札で結奈の痛みを緩和していた石橋先生も、俯きながら、首を横に何度も振った。

 それは、尚美の命がもう直ぐで尽きる事を意味している訳だが…

「北嶋さんがもう直ぐで帰ってくるから、それまで頑張って!!」

 霊視で結奈の容態を見ながら励ましていた私。それは半日も続いていた。

「何が北嶋 勇が帰ってくるよ!!本当に帰ってくるの!?霊も見えない奴が、幻中の幻と言われている万界の鏡を持って来られるの!?」

 結奈は涙を流しながら、北嶋さんを否定する。

 昨日までは北嶋さんに両手を合わせながら拝んでいた結奈。

 信じると言ったのに、結局は信じてはいなかったのか。

 哀しくなって涙が出てきそうになる。

「はっ!!」

 涙で掠れている目に、蛇が結奈の魂に入り込む寸前の様子が視えた。

「いかん!!」

 松尾先生が叫んだ。感じたのだろう。結奈の魂が捕らわれそうだと。

「…え?」

「え?…え?」

 石橋先生と結奈が固まる。今まさに魂に入り込まんとしている蛇が、その動きを止めたのだ。

 何が起こったか把握する為に霊視する…いや、霊視の必要も無かった。

「北嶋さんが帰って来た!!凄い…物凄い神気の持ち主を連れて来たんだ!!」

 その神気に怯んだ蛇は動きを止めたのだ!!

「しかし、この神気は…」

「ええ…かなりの神格ですね…」

 戦慄すら感じている松尾先生と石橋先生。

 私は迷わず言う。

「鏡を取りに行ったのは北嶋さんですよ!!」

「ま、まぁ確かに…」

 お二人は困惑していた様子だ。

 だが、私は結奈には言い切る。

「助かったわ結奈!!北嶋さんは約束を守ったわ!!」

 結奈は涙でぐしょぐしょに濡れた顔を私に向けながら、静かに頷いた…


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 真っ暗闇の空間の中、こちらを観察していた赤い瞳が、私に触れる所まで接近していた。

――いよいよじゃな…

 師匠は赤い瞳を見据える。

「そうですね。もう直ぐで北嶋さんの元に三種の神器が揃いますね」

 呆れながら笑う師匠。

――お前さんが一番小僧を信じておるんじゃなぁ

 私も笑いながら応える。

 少し笑った後、師匠は真面目な顔で私に言った。

――7日間よう頑張った。お前さんはワシの力を全て受け継いだ。呪いから解き放たれたら、小僧の力になってやれ

「それは北嶋さん次第ですよ師匠。セクハラを続けるなら、この授かった力でボッコボコにしてやりますから」

 笑いながら、本心で返す。

――ガハハハ!災難じゃな小僧は…む!!!

 師匠が振り返る。赤い瞳が、遂にその姿が解る位接近していたのだ。

「これがナーガ…」

 赤い瞳は、やはり蛇。悪意と憎悪を以て私を見ている。

「残念だけど、喰われてあげられなくなっちゃったわ」

 憎悪を向けている赤い瞳に笑いながら言う。

――来たか小僧!!

 師匠の表情も晴れやかとなった。

「ええ、凄い神気を連れて来ました。海神様に引けを取らない程の神気です」

 全く北嶋さんは…鏡の他に、とんでもないオマケを連れてくるなんて…いや、オマケ扱いはとっても失礼過ぎる。

――ガハハハ!流石小僧!ワシの予想を遥かに超えよる!!

 とっても愉快そうに笑う師匠。その手をそっと握る。

「師匠、有り難う御座いました。私…戻ります」

 師匠は目を細めながら微笑み、頷いた。

――皆によろしくな

 そんな私達を、赤い瞳の蛇は大きく口を開けて飲み込もうとする。

 その時、私の視界は真っ暗になる。

 だが、それは飲み込まれたからではない。

 私の身体から呪いが引き剥がされて、夢から覚める序章だ。

 だから私は安心しながら微笑んでいた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おおー!!桐生が手を振って出迎えているぞ!!」

 北嶋が手を振り返そうと身を乗り出す。

「危ねぇだろうテメェ!!ここで転落して怪我でもしたらどうするんだ!!」

 死と再生の神の背中で揉め出す俺達。

――いい加減にしてくれないか君達!富士からずっと小さな喧嘩を…

 死と再生の神は俺達に叱咤しながら地に舞い降りる。

「漸く到着か。上空は寒かったな」

 ヒョイと飛び降りる北嶋。その後に続く俺。

「北嶋さん!!」

 桐生って女が北嶋に向かって飛び込んできた。

「よく耐えた。偉いぞ桐生」

 桐生の頭をポンと叩き、鏡を屋敷に翳す。

「お前が呪いか…」

 険しい顔になり、ロゥを睨み付ける北嶋。

「そ、それはロゥですよ!!」

 慌ててソフィアがロゥを庇うよう、前に立つ。

「テメェは本当に馬鹿だな!!蛇だろ呪いはよ!!」

 北嶋を小突く俺。だが、この野郎はそれをひょいと躱しやがった。全く可愛げのねえ野郎だな!!

「キョウ…おかえりなさい…」

――神まで連れてくるとはな…

 ロゥが死と再生の神を見上げる。恐れを抱いている様に。

――なに、鏡を回収するのを容易にするためだよ。それにしても、君達の相手は巨大過ぎるね…

 死と再生の神は、屋敷に蜷局を巻きながら威嚇している分身を見て呟いた。

「デカい蛇だなぁ」

 北嶋は鏡を覗きながら、特に怯んだ様子も無く感心している。胆が太いって言うか、なんて言うか。

「おい馬鹿。テメェの相手は中にいるだろう。デカブツは俺に任せてとっとと行け」

 北嶋の相手は女に憑いた本体だ。こっちじゃねえ。

「じゃあ任せた暖かそうな葛西。ヘマしたら俺がやるから気楽にやれ」

「テメェはどれだけ上から目線なんだよ!!いいからさっさと行きやがれ!!」

 俺に促されて屋敷に駆け込む北嶋。両手で鏡を頭上に上げながら急ぐ。

「わ、私も!!」

 桐生も北嶋の後に続き、屋敷に入る。

 北嶋が入ったのを確認してから俺は鬼神憑きを発動させ、ミョルニルを構えた。

「よし、ソフィア。グレイプニルを外せ」

「え!?何を言っているのキョウ!?」

――そのまま叩けば良いではないか!?

 ソフィアとロゥが慌てて窘める。まあ、気持ちは解らんでもねえが…

「縛られて動きが制限された相手とやってもつまらねぇ…外せ!!」

 俺の勝負は真っ向勝負。力で叩き潰すのが俺の流儀だ。

「ガキ!!早まるな!!う…こ、こいつが神気の正体か…」

 ジジィが屋敷から慌てて出て来て、俺を止めると同時に死と再生の神にビビる。

「すこんでろジジィ。可愛い弟子の勝負に老婆心を出すんじゃねえよ」

「グレイプニルで縛られた状態で、皆で挑んで初めて勝負になる相手じゃ!!傲るなガキ!!」

 死と再生の神をチラチラと見ながら俺を説得しようとするが…

 全員で掛かって初めて勝負になるだと?ハッ!!そんな事言われちゃ、逆に漲って来るってもんだろうが!!

「北嶋は一人で本体を倒すだろう。俺も一人でやらなきゃ、北嶋に劣る事を証明するようなもんだ。外せ、ソフィア!!」

 俺に叫ばれたソフィアは驚きながら、戸惑いながらもグレイプニルを外した。ジジィは頭を抱えて顔を伏せてしまったが。

「それでいい。さて、北嶋は本体を抜いたか?」

 ロゥが分身に傷を負わせなかったのは、女に憑いている本体が暴れるのを懸念して、だ。

――確かにあっちも気になるね。どれ

 死と再生の神は、その翼を軽く羽ばたかせた。

 空間にスクリーンが現れ、北嶋の様子が此方からも見える。

『あれ?葛西?』

「テメェの方からも見られるのか。同時中継みたいだな。本体を女から引きずり出したかよ?」

『おー。抜いたぞ』

 北嶋が首をコキコキと鳴らす。向こうも準備は終わったようだな。

 俺達は同時に笑い、同時に言った。

「じゃあ戦闘開始と行くか!!」

 俺は大蛇を睨み付けながらミョルニルを前に突き出した!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 葛西にケツを押されて屋敷に入る俺。桐生も一生懸命に付いて来て可愛い。

「神崎ぃ!!い?」

 神崎の部屋の前に、有馬と石橋のオッサン、葛西の小汚い爺さん。そしてガヤ芸人が半泣きをしながら立っていた。

「北嶋!!ウチのガキは!?」

 いきなり俺に突っかかる小汚い爺さん。

「外でデカい蛇とやる気だぞ」

「なにぃ!?早まるなガキぃ!!」

 小汚い爺さんは慌てて外に駆け出す。葛西は弱っちいから心配なんだろう。

「北嶋さん…」

 有馬が泣きながら俺に何か訴えようと頑張っている。なんかあったのか?

 話しを聞くより視た方が早い。なのでヨイショと鏡を前に置く。

「それが万界の鏡かい…」

 石橋のオッサンが感心したように唸るが…

「デカいしボロいから、良い物には見えないけどな」

 正直これがそんなに価値あるものとは思えん。呪いを視られるのは有り難いが。

 鏡を覗き込むと、ガヤ芸人の腕から蛇が入り込んでいるのを視た。

「北嶋さん…!!」

 有馬が訴えようとしているのはこれか。

「誰も死なないぞ?」

 俺はガヤ芸人の腕を取り、蛇をブリブリブリ~っと引き抜いた。

「そんな事くらいで呪いが…あ、あれ?」

 ガヤ芸人は自分の腕を見て、俺が掴んでいる蛇も見て、周りに嘘だろ?と言う顔を振り撒いている。

 蛇を床に叩き付けて足で踏み付けると、蛇はプチッと音を出し、動かなくなり、やがて消える。

「う、嘘でしょう?」

「もういいだろ?どけガヤ芸人」

 呆然としているガヤ芸人を押しのけ、神崎の部屋の襖に手をかけた。

「待ってくれ北嶋君!!実は…」

 石橋のオッサンがトイレに流された蛇のミイラの説明をし出した。

「よし、解った。何とかするから、取り敢えずどけ」

 ホッとした様子の石橋のオッサンとガヤ芸人。

 有馬が泣きながら俺に抱き付こうとしたが、今は時間が惜しい。

 後ろ髪を引かれる思いで有馬を振り切り、襖を開ける。

「神崎っ!!」

「北嶋さん!!」

――勇!!

 宝条とタマが俺に近付くも、俺は無視して鏡を前に置く。

「これは…」

 俺は唖然とした。

 これならわざわざ富士山に行かなくても良かったじゃないか!!

 一気にムカつき、八つ当たり気味に神崎から蛇をブリブリブリブリブリブリ!!と引き抜いた。

「うおっ!デカい!長い!」

 神崎から引き抜いた蛇は、約8メートルくらいの長さで、結構な太さだった。腕を回して届くか否か?って所だな。

 そして、生意気にも、赤い瞳を俺に向けて、シャーとか言っている。

「相変わらず見事だね…」

「ど、どういう事よ!?せ、説明してよ!!」

「少し黙りなさい!!」

 オッサンが称え、ガヤ芸人が説明を求めるも、宝条が何故かキレて口を噤んだ。

 まあ、外野が騒ごうが関係ない、俺は神崎の方に目を向ける。

「…ん」

 眉根を寄せて、少しだけ目が開く。

 俺は蛇をぶん投げて神崎の前に屈み、顔を見た。

「よう神崎。水でも飲むか?」

 神崎は漸く目を全開に開けて身体を起こした。

「おかえりなさい北嶋さん」

 普通に俺に笑い掛け、身体を起こして立ち上がる。

 そして、さっきまで自分を蝕んでいた蛇の前を堂々と通り過ぎ、備え付けてある小型の冷蔵庫から水を取り出し、それを一気に飲み干した。

「ふー!文字通り生き返ったわ!」

 まあ、半分死んでいたようなもんだからな。あながち間違いじゃない。

 その時、沈黙していた蛇が、鎌首を上げながら神崎に襲い掛かった。

「タマ!!」

 神崎の前に本気モードになったタマが立ち、神崎を守る。流石はタマだ。ガンくれただけでその動きを止めるとは。流石俺の愛玩動物。

 それは兎も角、俺は蛇をジーッと見て、皆に言ってやった。

「お前等、何故言わなかった!!」

 俺の怒気を察してか、皆が互いに顔を見せ合いながら戸惑っている。

「き、北嶋さん…な、何を怒っているの?」

 遠慮がちに桐生が俺に聞いてきた。

「この呪い、キングコブラのデカいヤツじゃねーかよ!!動物図鑑か何か見せてくれたら解るじゃねーかっ!!わざわざ富士山に鏡取りに行かなくても、簡単に抜けただろ!!」

 面倒な手間を掛けさせやがって!!こんなモン、普通にテレビか何かに映るじゃねーか!!

「た、確かにキングコブラだけど…」

「ほ、ほら、目も赤いし、大きさも…」

 俺は有馬と宝条をキッと睨んだ。

「言い訳すんな!!お前等も焦る事無かっただろうぐあっ!?」

 神崎が俺の後頭部にパンチをくれる。

「グダグダ文句言ってないで仕事する!!」

 後頭部を抑えながら踞る俺を余所に、神崎が術を唱える。


 キィン


「ん?」

 顔を上げた俺。部屋には俺と呪いしか居ない。

『空間転移よ。存分に暴れていいわよ北嶋さん』

 あのフランスのオッサンの時のアレか。

 俺は鏡を端に持って行き、願った。

「キングコブラの姿を頭に映してくれ」

 一瞬キラッと光った鏡。俺は生身じゃ見えないが、鏡が脳に見せてくれる。代替の目と同じ理屈だ。

『な、尚美、師匠じゃなきゃ触媒無しでは発動できないのに…』

『え!?な、何?このいきなり現れたスクリーン?』

『う!あれが死と再生の神…!!』

 何か外野が騒がしい。

 俺は空間に浮き出た窓みたいな物を見る。

「あれ?葛西?」

 葛西がいつぞやの鬼を憑かせて、格好付けて佇んでいる姿が見えた。

『テメェの方からも見られるのか。同時中継みたいだな。本体を女から引きずり出したかよ?』

 偉そうな態度だ。後で虐めてやろう。

「おー。抜いたぞ」

 俺は首をコキコキと鳴らす。戦闘準備が整ったのだ。つってもたかが蛇如きに準備なんか必要ないが。

「じゃあ戦闘開始と行くか!!」

 俺と同時に葛西が同じ台詞を言った。

 この俺と被るとは、やはり後で虐めてやろう。

 俺は心に誓い、草薙を喚んだ。



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