富士山への道中

 富士山に向かう為に高速に乗る前に、俺達は晩飯を食っていない事に気が付き、途中の牛丼屋に立ち寄った。

「何で元旦にお前みたいな暖かそうな奴と牛丼食わなきゃならないんだ…」

 北嶋が不満を口にする。

「うるせぇ!こっちの台詞だ!900円しか持ってなかったくせによ!!」

 俺は口走った事を悔いた。俺も1000円しか持ってなかったからだ。

「仕方ないだろ。俺は給料5万しか貰ってないんだから」

 牛丼特盛りつゆだく卵付き味噌汁付きをつまらなそうに突っつきながら北嶋が言う。

「給料5万だ?テメェあんなに稼いでんじゃねぇか?」

 北嶋に来る依頼は、この業界ではトップクラスの多さだった筈だ。稼いでないなんて事は絶対にないだろう。

「裏山によぉ~…聖域作るとか何とかでよ~…婆さんが勝手に業者に手配してよ~…」

 北嶋の愚痴が始まった。

 豚丼大盛り味噌汁付きゴボウサラダ付きを食いながら、北嶋の愚痴に付き合う。聞けば聞く程気の毒になる話だった。

「つか、お前も1000円じゃんか?しかも小遣いって?お前パツキン美人と結婚したのか?」

 北嶋が食い入るように聞いてくる。結婚の二文字がそんなに気になるのかよ。

「まだ籍は入れてねぇが、俺の金はソフィアが管理してんだよ」

「金の管理を任せてんのか?あの薄汚い爺さんが管理してんのかと思ったぜ」

 自分の師匠を薄汚い爺さんと言われても、全く腹が立たないのは何故だろうか?

 そんな思いが頭を過ぎるが、兎も角質問に答えよう。

「金入ると単車買ってしまうからよ。ソフィアがキレて、金の管理をしてんのさ」

「カツカツ…お前…モグモグ…バイク買ってしまうって…カツカツカツカツ…何台持ってんだよ?…ズズズッ!!」

 せめて食うか質問するか、どっちかにして貰いたいもんだが、再び質問に返す。

「おう。ハーレーとかドゥカティとか…30台はあったかな…」

 売られて3台しかなくなったけどな…

 ブブーッと北嶋が味噌汁を噴く。

「うわっ!?汚ねぇな馬鹿野郎!!」

 幸いに俺にも豚丼にも掛からなかったが、かなりムカついた。

「馬鹿はお前だ馬鹿野郎!なんでバイクをそんなに買う必要があるんだよ!」

「うるせぇ!俺だって反省しているから、ソフィアに管理任せてんだろうが!」

 俺達は牛丼屋で人目も憚らずに罵り合った。


 牛丼屋から出た俺達は再び高速に向かって走る。

「北嶋、テメェ寝るんじゃねえぞ?」

 音楽をガンガンかけて北嶋を眠らせないようにする。

「ははは!!流石に俺もそんなに失礼じゃないよ!!安心して安全運転しろよ」

 笑い飛ばす北嶋。まぁそりゃそうだ。この仕事は北嶋の案件、更には北嶋の女の命が掛かっている。

 テメェが世話になったババァからの依頼に加え、テメェの女の命が掛かっている時に眠るような馬鹿じゃないだろう。

「それならいいんだ。音楽のボリューム下げるか?」

「………」

 反応が無い。

 音楽がうるさいから、俺の声が聞こえないのか?

 再び訊きなおす。

「北嶋、ボリューム下げるかって聞いてんだよ?」

「………」

 やはり返事をしない北嶋。構わずにボリュームを下げる。

「北嶋、ボリューム下げたぜ」

「………グ~…グ~…」

 俺は思いっ切りブレーキを踏んだ。

「うおっ!?」

 北嶋が前につんのめる。

「テメェ!!話終わって5秒で寝るんじゃねぇよ!!」

 先程の音楽よりデカい声で俺が怒鳴る。

「ばっ!!寝てねぇよ!ただ目を瞑ったら夢の世界に行っただけだ!!」

「それを寝ているっつーんだよ馬鹿野郎!!」

 俺は北嶋の口にガムを10個ほど無理やり詰め込んだ。

「クッチャクッチャ…お前…クッチャクッチャ…シュガーレスのガムにした方がいいぞ…クッチャクッチャ…」

「うるせぇ!!文句言わずに黙って噛んでろ馬鹿野郎!!」

 この馬鹿がこんなにイラつく奴だとは思わなかった。あの女は、よくもこんな馬鹿に従っているもんだ!!

 憤りながら運転を再開する。

「…クッチャクッチャ…葛西、安全運転…クッチャクッチャ…でな…クッチャクッチャ…」

「クッチャクッチャうるせぇ!!」

「お前が…クッチャクッチャ食わせたんだろう…クッチャクッチャ…もう忘れたのか?…クッチャクッチャ…痴呆か?…クッチャクッチャ…青魚食え…クッチャクッチャ…DHAって知っているか?…クッチャクッチャ…」

 この馬鹿と問答していたら、富士山に着くまで疲労困憊してしまう。北嶋を無理やり起こした事を激しく後悔した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 葛西に無理やり起こされ、ガムを無理やり食わせられた。

 俺が寝るのが気に入らないらしいが、俺は寝る時は寝る男。ガムの味が無くなったら寝てやろう。

 フハハ!!暖かそうな葛西の慌てふためく顔が想像できて愉快だぜ!!

 ガムの味が無くなったらと言う所が貧乏性な俺だが。

 俺は葛西をチラッと見る。

 葛西は真っ直ぐ前を向き、黙々と運転していた。

 つまらない。

 いつもは神崎とラブラブトークで盛り上がっている車内だが、暖かそうな男とラブラブトークで盛り上がる訳には断じていかないからな。

 ガムの味が無くなるまで、この暖かそうな男と仕方ないから会話する事にした。

「お前、あのポメラニアンどっから貰ってきたの?」

「ポメラニアンじゃねぇよ。あれは狼だ」

 ムスッとしながら俺に返答する。少し義理で聞いてみるか。

「その狼はどっから貰って来たんだよ?」

 俺の問い掛けに、葛西が遠い目をして答えた。

「あれは、ソフィアの最後の仕事、北欧の魔狼、フェンリル狼の幼生だ。ソフィアはフェンリル狼を何とか飼い慣らそうと頑張っていたが、苦戦していたんだ」

 暖かそうな葛西がパツキン美人と付き合っています自慢し出した。

 ムカムカする!あんなに美人で可愛いパツキンを物にしたっつー自慢話は聞きたくはない!!

「おい!俺はポメラニアンの話をしてんだよ!」

「だから今話してんだろうが!テメェ耳おかしいのか!」

 いきり立つ葛西。

 俺は憮然としながら腕を組み、助手席を目一杯使って横になる。

「最初、俺は手出し無用と言われてたんだが、テメェが九尾狐を飼ったと聞いてな、俺がテメェに遅れを取る訳にはいかねぇだろう?」

 ニヤッと笑い、俺を見る。

「お前、タマみたいなペット欲しかったのか?」

 とても動物好きには見えない、悪人面の暖かそうな葛西の一面を見たような気がして、俺は少し驚いた。

「それ前にも聞かれたが、ペットとしてじゃなくだな!あーこの馬鹿!九尾狐を飼った事がどれ程の事か、理解してねぇのか!」

 声を荒げながらも、俺にうやうやしく説明し出した。

「いいか馬鹿、よく聞け。九尾狐は日本最強、いや、アジア最強と言われている大妖だ。倒すのは愚か、封じるのも命を掛けなきゃならねぇ相手だ。その化け物をテメェは難なく従わせているんだ。何の術も用いずな。この業界の奴等は腰を抜かした事だろうさ!!」

 誉められているのは理解した。誉められるのは嫌いじゃない。寧ろ好きだ。

 いっぱい誉めても構わないぞ、と俺が言おうとした出鼻を挫き、葛西が続けた。

「そんなテメェに対抗するには、だ。北欧最強の魔物を使役するしかねぇだろう?」

 意味深に含み笑いをする暖かそうな葛西。

「なんだ。お前俺に対抗心燃やして、わざわざポメラニアンを貰いに行ったのか」

 俺はつまらん、と伸びをする。

「この業界でテメェは有名になり過ぎた。テメェが最強だと言う声も出ている。そんなの俺が許す訳ねぇだろ」

「いや、普通に最強だから俺は」

 誰が強いなんてあまり興味はない。俺が一番な筈だし。

「ハッ!!そんなテメェと並び称されるのは、同年代では数少ない訳だ。その一人が俺だ!!」

 いきなり葛西が自分の自慢話をし出した。

 メッチャクチャに興味はないが、とりあえず暇だから、ってか、ガムの味がまだあるから聞いてやろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 北嶋が九尾狐を飼った事を聞いた俺は、ソフィアの最後の仕事、フェンリル狼の捕獲の手伝いにスウェーデンに飛んだ。

「ハァイキョウ。待っていたわ」

 俺がソフィアの家の扉を開けた瞬間、ソフィアが抱擁してくる。俺も少しばかり力を入れて返す。

 そしてソフィアの両肩を掴み、そっと離した。

「フェンリル狼はどこだ?」

「久しぶりに会ったのに、もう出掛けちゃうの?」

 少し頬を膨れさせるソフィア。そんな顔をしてもお前が美人だって事実は変わらねえぜ。

 まあまあ、惚気は此処までにしておいて、つうか俺の心の中での呟きみたいなもんだが、一先ず俺は真剣な顔を拵えてソフィアに顔を向ける。

「フェンリル狼捕獲が終わったら、一緒に日本に来るんだろ?」

「……解ったわ。出掛けましょう」

 ソフィアは溜め息を付いて支度をしようと背を向ける。

「ゆっくりでいいぜ」

「ゆっくりさせてくれないのはキョウでしょ!!」

 少しキレている感が見えるソフィア。

 俺は口を閉ざし、聞いていない振りをしながらテーブルに置いていた雑誌をパラパラと捲る。

 全く読めなかったが。なんだこの雑誌?日本語が一つもねえじゃねえか?

 それは全く以て当然の事だが。


 出掛けるとは言っても、以前トールをぶっ倒した地下空間だ。

 この空間は北欧の神話の存在と繋がっているらしく、神具の材料などもここから探してくるらしい。

「日本に行っても、ここは閉鎖できないわね」

 神具の材料が取れる場所だから仕方ない事だが、管理が大変そうだ。金が掛かるだろう。

 ジジィがくたばったら、生命保険で賄ってやるか。

 俺が罰当たりな事を考えている間、以前トールを葬りに入った扉の前に到着した。

「じゃあ行くか」

「ええ」

 扉を開ける。

 暗闇の中、俺達は進んで行く。

 よくこんな暗闇を怖がらずに進めるもんだ、と感心する。

 やがて、以前トールをぶっ倒した場所に辿り着くも、そこには何もない。トールを繋いでいた枷が転がっているだけだ。

「おい、フェンリル狼は?」

「こっちよ」

 そこを通り過ぎ、暫く歩くと、岩が道を塞いでいた。

 ソフィアが岩に何か文字を指でなぞる。

「これはルーン文字と言って、北欧の神々の文字よ」

 文字をなぞり終えると、道を塞いでいた岩が地面に沈んで行った。

「ほぉ、大したもんだな」

 感心する俺だが、岩が無くなったと同時に凄まじい気を感じる。

「やはり気を許してないわね」

 その気は拒絶の気。

 ソフィアに戦う意思は無いとは言え、グレイプニルで繋いでいる状態らしい。暴れて話にもならない状態だったからだそうだ。

「ハッ!!力付くで押し切るさ!!」

 やる気満々の俺の肩をそっと抱くソフィア。

「ダメよキョウ。フェンリル狼は力づくで主従させちゃダメ。あれは万が一、北欧の神々や巨人が 蘇った場合のこちらの切り札になるんだから」

「解っているよ。力付くなら、あっちも俺も殺し合いになっちまうからな」

 手加減はできないって訳だ。手加減できる相手じゃねえし、手加減したら俺が死ぬ。

「俺もつくづく馬鹿だよな。北嶋と張り合う為にフェンリル狼を飼い慣らそうって言うんだからよ」

 ボソッと呟く俺。

「フェンリル狼を主従させられる可能性があるのは、やはりキョウよ」

 世辞でも嬉しいもんだ。惚れた女にそう言われるなんてな。

「本当よ?恐らくそんなに難しくはないわ。さっ、行きましょう」

 ソフィアは俺の手を引いて歩き出した。


………ゴラアアア…


 地の底からマグマが噴き上がるような唸り声。俺の手の平が汗ばむ。

「近いな…」

「もう少しよ」

 対してソフィアは意外にも余裕だ。グレイプニルの力を信じているからか?

 

………ゴラアアアア!!


「もの凄ぇプレッシャーだな…」

「そりゃあ、北欧の神殺しの魔狼だからね」

 俺の手を引いているソフィアは手を離し、足早に唸り声に駆け寄る。

「おい!!」

 離れたら危険だ。そう言おうとした俺を逆に急かすソフィア。

「キョウ!!早く早く!!」

「何なんだその余裕は?」

 背中の羅刹が暴れ出す。

 敵と認識して、出たくて出たくて仕方ないようだ。

「まだだ。お前が出てしまったら殺し合いになっちまうからな」

 羅刹を宥めながら進む。ソフィアが立ち止まって何かを見上げている。

「これが神殺し…魔狼フェンリルか!!」

 釣られて見上げる俺の目に飛び込んで来たのは、確かに人間など一飲みできるであろう巨躯を震わせていた狼が居た!!


──ゴラアアアアアアア!!!あああ!!また来たのか女ぁ!!俺は人間などに主従せんと言っているだろうが!!

 大気が歪んだと錯覚しそうになる程の怒号をソフィアに浴びせているフェンリル狼。

「今日はね、私の大事な人を連れて来たのよ」

 そんな中でも微笑みを忘れずに話かけるソフィア。神崎もそうだが、女の方が胆が太くないか?

──貴様の大事な人間など知るか!!グレイプニルを解け!!女ああ!!

 ソフィアを飲み込もうと顔を近付けるフェンリル狼。

「危ねぇ!!」

 俺は羅刹を出してソフィアの前に立った。守る為に。

 しかしフェンリル狼の顎はソフィアには届かない。

 グレイプニルが効いて、それ以上近寄る事が出来ないのだ。

──貴様!!退け!!女を差し出せ!!

 フェンリル狼が俺を威嚇する。

「ハッ!!流石は北欧最強の魔狼!!俺のモンになるに相応しい迫力だぜ!!」

 俺はフェンリル狼に向かい歩みを進めた。

「キョウ、くれぐれも…」

「解っているよ。やり合うつもりはねぇ」

 俺はソフィアに向かって笑いかけた。安心させる為に。

 そしてフェンリル狼の顎が届く間合いで足を止めた。

──何を考えているのだ!!わざわざ喰われに来たのか!!

 フェンリル狼は予想通り俺を飲み込もうと口を開き向かって来る。

「羅刹!!」

 上顎と下顎が咬み合うが、羅刹が上顎の牙を受け止めて口を閉じさせようとしない。

──な、なんだこいつは!?

 羅刹のパワーに怯んだのか、フェンリル狼は俺から少し退がった。

「ビビる事はねぇさ。俺は喧嘩しに来た訳じゃねぇ。無論殺し合いもする気でもねぇ。俺はお前が欲しくて来たんだ」

 羅刹の両腕がビリビリと痺れているのが解る。

 フェンリル狼の顎を受け止めただけで、この痺れ……

 こいつなら北嶋の九尾狐に並ぶ…いや、それ以上だ!!

 ゾクゾクとしてくる。どうしてもこいつが欲しい!!

「お前、俺の物になれ。グレイプニルなら今外してやる」

 俺は笑いながらフェンリル狼に付けられた枷を外した。

──貴様…俺を自由にして恐ろしくはないのか?

 本当にグレイプニルを外した俺に驚いた様子のフェンリル狼。

「怖かねぇさ。いや、怖いかもな…」

 そう言いつつも、俺の顔からは何故か笑みが零れていた。

──グレイプニルを外してくれた礼に殺すのはやめてやろう。だが、俺は自分より弱き者の下には付かん!!

 そりゃそうだ。誰が好き好んでテメェより弱い奴に主従するって言うんだ。

「早い話が、俺の力を見せれば納得するんだな?」

 羅刹が暴れ出しそうになる。フェンリル狼を喰いたいと言っているんだ。

「キョウ!!」

 声を挙げるソフィア。

「だから心配ない。やり合わないから大丈夫だ」

 俺は羅刹をその身に憑かせた。

 鬼神憑き。北嶋の馬鹿とやり合った時に出した俺の奥義だ。

──むう…

 フェンリル狼の眉間にシワが刻まれる。

「どうだ?納得したか?」

──確かに貴様は強いだろう…が…

 フェンリル狼が鼻を近付け、俺の匂いを嗅ぐ。

──気のせいか…貴様からトール神の匂いがするような…

「そりゃそうさ。俺がぶっ倒して取り込んだんだからな」

 俺がニカッと笑うと同時に、フェンリル狼が一歩退き身構える。

──貴様がトール神を倒しただと!?

 俄かに信じられはしないだろう。北欧最強神が倒される事など。

「そういや、お前の兄弟はトールと相打ちになってくたばったんだよな?」

 フェンリル狼の兄弟、ヨルムンガンドと呼ばれる巨大で凶暴な蛇は、ラグナロクの際に、トールのミョルニルをまともに脳天に喰らい、くたばったが、トールもヨルムンガンドの毒でくたばった。

 ヨルムンガンドはフェンリル狼と互角と謳われた程の強さを誇っていた。

 それでもトールと相打ちが限界だった。

 そのトールを俺が倒した事は信じられんだろう。

──貴様からトール神の匂いを感じるのはその為か!!

 匂いで信じたようだが、相変わらず身構えているフェンリル狼。

「何を警戒している?」

──俺が貴様の言う事を聞かなくば、再びグレイプニルで捕らえるつもりだろう!!

 その為の臨戦態勢って訳か。まあ、そう思っても無理もねえ。

「捕らえはしねぇさ。無理やりお前を物にしても、お前は言う事を聞きやしねぇだろう。だから主従するに値する奴かどうか、お前が見極めな」

 俺は鬼神憑きの他に、もう一つ術を出す。

──貴様!!何をするつもりだ!!

 今にも飛び掛かって来そうなフェンリル狼。

「何もしねぇよ!!黙って見てろ!!」

 この新技は発動させるだけでも精神力をかなり消費する。

 そして発動させたら肉体に多大な負荷が掛かる。

 故に術発動はなるべく控えたい所だが……

「お前に今の俺の最強を見せてやる!!!ぁぁあああ!!!」


 俺の新技が発動した直ぐ後に、フェンリル狼は大人しくなった。

──貴様は本当に人なのか…?その力、どこで誰に使うつもりだ?

 漸く絞り出したような声で訊ねてきたフェンリル狼。

「俺の最大の敵…つうか馬鹿と、また本気でやり合う事になったら使うさ」

──その相手に俺の力も必要なのか?貴様がその力を振るえば…

「必要だ。だから俺の物になれ!!」

 俺はフェンリル狼の前で握り固めた拳を突き出した。

──人に仕える…いや、人に有らざる者に仕える…か…

 フェンリル狼は諦めたように、俺の目の前で伏せた。

──俺の主ならば、貴様はこれから負ける事など許されんぞ

「ハッ!!そりゃ愚問ってヤツだぜ!!」

 俺はフェンリル狼の額に軽く手を当てて撫でた。


「こうして俺は北欧最強の狼を従えたって訳さ…ってオイ!!」

 ロゥを従えた話が終わり、北嶋の乗っている助手席を見た俺は思わず突っ込んでしまう。

「………カ~…カ~……」

「この馬鹿寝てやがる!!寝かせない為に話を聞かせてやったのに!!」

 しかもガムを丁寧にティッシュで丸めて、灰皿に突っ込んでやがった!!

「あああ!!この馬鹿!!ガムはゴミ箱に入れやがれ!!」

 北嶋を小突いて起こそうとするも、北嶋は微動だにしない。つうかこの状況下でも軽やかに避けやがるし!!こいつ本当に寝てんのかよ!?

「テメェどこまで自由なんだ!!」

 一旦停車して起こそうと思ったが、既に高速に乗った後だ。パーキングまで停車できない!!

「北嶋ぁ!!テメェ覚えてやがれ!!」

 俺は運転しながらガムを灰皿から取り出してゴミ箱に入れた。

 この案件が終わったら、もうこいつを車に乗せる事は絶対にしない!!

 そう心に固く誓った!!



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