東洋文化史論(没原稿)
ルース・ベネディクトは『菊と刀』で、世界の文化を「罪の文化」と「恥の文化」との二つに分けたが、現在先進国の文化はこの二つのどちらの文化にも属していないように感じる。
罪と恥の根本的な相違点は、真の罪悪文化が内面的な罪の自覚に基づいて善行をなすのに対して、真の恥辱文化は外面的強制力に基づいて善行を行う。
恥は他人の批評にたいする反応である。この相違点の見地からベネディクトは日本の文化を「恥の文化」に属するものとした。
しかし、「恥の文化」の見地からすると日本より中国のほうが「恥の文化」の大元といえる。
ベネディクトは、人間が何か悪いことをした場合にそれを「罪」として認識する文化圏と、それを「恥」として認識する文化圏とに分けたわけだが、これらはどちらが優勢でどちらが劣性なものなのかは決めることが出来ない。
宗教的に見れば、「罪とは、神の命令に違反した」という意味である。
では恥は神の命令にではなく人の何かにたいして感じるのかというとそうではない。
恥は宗教的なものではなく、生活に関係する日常的、現実的なことにたいして感じるものなのだ。
ただ、「善行」にたいして両方ともその性質が発揮されるため同等のものとして感じられ、考えられてしまうのではないだろうか。
私個人の恥を感じるときというのは、自分の我侭により、他人に迷惑をかけたときである。また、罪を感じるときは自分の行いが他人を傷つけたときに主に感じているといえる。迷惑をかけたのと傷つけたのではその行いに大きな違った意味が出る。憶測ではあるが私と同年代の人間はそう考え感じているのではないかと思う。
また、罪や恥は人間の深層心理に深く関わっている。現代では社会変化の中で罪や恥を感じる場合という事が目まぐるしく変化しているように感じる。
現代の日本人はほとんどの人が無宗教で本来の意味での罪を感じる人はいないと思う。だが、社会生活の規範となる法則に背くと罪を感じるといったこともどことなく違っているように感じる。また、恥にたいしても特にはっきりと感じることはなくなったと感じる。
本来、日本は東洋文化圏内のはずなのだが今日西洋文化に押され変化してしまっている。極端に言えば文化侵略とも言える事実が罪と恥双方の本質を変化させていったようだ。
現代の恥の認識は、面目を失うこと。または不名誉なこと。そして名誉を重んずることでまさに自己中心的にものを考えた時に起こりえる事柄である。
この事をみると罪や恥にたいして昔の方が、見栄や欲などがなかったように見える。現代人は豊かすぎて欲深になっているようだ。
中国においても最近の情勢を聴くあたり、中国人の罪や恥の考え方が変化していると思う。中国思想の面から中国人はものごとを現実的に見て、考える種族であると言えよう。もともと現実的である彼らは神にたいして思い入れが浅く、儒教などに代表されるような思想は大半が生活に関わるような事柄である。しかし中国においてはその昔は恥よりも罪の意識の方が強かった。『書経』では恥に相当する言葉は少なく10回程度しか出てこないのだが反対に罪は5倍以上も出てきている。たんに回数というだけでなく機能的な面で見ても内容的に見ても罪の比重が圧倒的に大きいのだ。しかもその場合罪はいつでも“天罰”に対応するものとして出てくる。やはり罪の本質は「神に対する命令違反」を表していたのだ。
現実的な考えを持つ中国人が罪をこう理解していたということは、罪というものは本来、無いものであって人が考えることを始めた時に生まれた文化であると思う。
まさに理論上の文化である。これに対し恥は、人が何かを意識した時にはすでにもっている文化であるといえるのではないだろうか。こちらは文化は理論上ではなく現実的問題として存在しているのだ。人は生きている限り、必ず恥をかく。しかし罪は周りの環境、生活などの情状から感じることがない場合があるのだ。
罪と恥は似ているようで異質なものである。だからこそ両方存在し、互いに影響しあっている。
この微妙なバランスの上で人間は自分の存在を感じ、自分の中にある罪や恥を無意識のうちにその内へと抱えるのではないだろうか。
日本人と中国人の文化は多方面にわたり似ているが政治思想などのその国独特のものによって変化してきた。そしてこれからも変化していく。
それは人間が考える生き物であるからだ。人間が考えることをやめるまでこの「罪の文化」「恥の文化」は変化し続けると思う。この二つの文化は人間に取って何より大切でなくしてはいけない文化では無いだろうか。
このふたつの文化の変化を見つめて行くには長い時間がかかるが、二つの文化を見つめることは人の成長や思想の変化を身近に感じられる手段なのではないだろうか。
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