西洋服飾史雑記

17世紀~18世紀のヨーロッパ文化


 ルネサンスのあとをうけた17~18世紀のヨーロッパ文芸は、王侯の権威をかざるのに役立てられたが、 他方では、市民階級が成長するのにともない、その生活や感情を反映しながら国民的な性格を強めていった。

 絶対君主の威光をもっともよくあらわすものは、17世紀のスペインやフランスで流行した、 豪壮で華麗なバロック様式で、ルイ14世のヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」に代表される。

 絵画ではフランドル派のルーベンスが名高く、 スペインのエル=グレコ・ベラスケスらも数々のすぐれた肖像画や宗教画をえがいた。

 独立後のオランダではレンブラントが活躍した。

 バロックとはポルトガル語のbarroco (歪んだ真珠)という意味で、 16世紀末から18世紀中頃にヨーロッパ全土で成行した芸術様式である。

 それまでのルネサンス様式の均整と調和に対する破格であり、感覚的効果をねらう動的な表現を特徴とする。

 本来、劇的な空間表現、軸線の強調、豊かな装飾などを特色とする建築についていったが、 激しい情緒表現や流動感をもった同時代の美術・文学・音楽などの傾向、さらには時代概念をさすに至った。

 18世紀になると繊細で優美なロココ様式が広まり、王侯貴族や富裕市民に愛好された。

 プロイセンのフリードリヒ2世がポツダムにたてたサンスーシ宮殿は、ロココ様式の建築として名高い。

 また、アマリエンブルグ荘の「鏡の間」も有名である。

 バッハやヘンデルのバロック音楽が流行したのはこのころである。 文学では、ルイ14世時代のフランスにコルイネイユ・ラシーヌ・モリエールらがでて、 調和を重んじる古典主義戯曲の傑作をうんだ。

 また17世紀につくられたフランス学士院(アカデミー)は、国語の統一に大きな役割をはたし、 フランス語はヨーロッパ諸国の上流社会で広く用いられた。

 絵画ではフラゴナールの「ブランコ」などが有名で、 ルイ15世の愛人のポンパドール夫人はロココ文化の保護者であった。

 ロココは18世紀にルイ15世時代のフランスを中心に広まった装飾様式。 唐草・貝殻模様などの曲線を主にした軽快・繊細・優美な装飾性が特徴。 バロックと新古典主義の中間に位置する。

 絶対王政がはやく倒れたイギリスでは17世紀にミルトンが『失楽園』というピューリタン文学の名作を残したが、 18世紀になると、個人の感情を自由に表現する風潮がうまれ、貿易・植民活動がさかんになったことを反映して デフォーの『ロビンソン=クルーソー』、スウィフトの『ガリバー旅行記』のような小説が書かれた。



 バロック調の服飾


 バロック衣装は芸術性が強く女性は溢れるような装飾と流麗な布襞がたたえる波動と陰影は見る人を幻惑させ、 着る人を貴族的壮麗さにひたらせることになった。リボン、レース、シュニール、刺繍、 飾り紐などの装飾がローブ一面にちりばめられ華やかな装いであったと思われる。

 バロック様式はイタリアから伝えられたもので、反宗教改革的な性格を持っていたため、 新教徒の地味で簡素な様式に対して大胆で派手な様式で男子の服装はかつてないほど華やかなものであった。

 ルネサンスの威儀ばったスタイルが廃れ、17世紀半ばをすぎると、 フランスの貴族的文化様式の影響を受けはじめた。



 ロココ調の服飾


 ロココ様式の特徴は花、リボン結び、ループ、花籠など柔軟なモティーフが使用され繊細さをたたえながら生活のすべてをうるおしていた。

 曲線の連続はつきることない快楽のリズムのようなものを感じさせる。

 女性の服装は18世紀に入ってから、胴を細く締めスカートをふっくらと拡げ、 背に襞を畳んだ斬新なロープがフランスを中心に流行した。

 代表的なものにローブ・ヴォラントがある。 ローブ・ヴォラントはガウン形式で前開きから下重ねのスカートと美しい胴衣を見せながら着るもので、 歩くたびにひるがえるのがとても美しいものであった。

 男性の服装もビロードに刺繍をほどこした華麗なものを着用していた。



 バロック様式の服装


 私が講義中に学んだ西洋服飾史の中で一番興味を持ったのがバロック様式の装いである。

 なんと言ってもバロック様式のもつ国家や宗教の威信を高める使命を持つ激しく力強い動感、 劇的な感情表現、豪華絢爛たる装飾性・・・

 あの派手で大胆で華やかな装いが私の感覚では近世の代表すべき装いだと思う。

 歴史的に見ても17世紀はイギリスを中心に絶対王政を背景にして国王が専制政治を行い それを正当化するために王権神授説が説かれまさに王侯貴族の華やかなくらしが代表される 時代であった。

 16世紀はスペインの世紀だといわれている。 これに対し17世紀はスペインから独立したオランダの世紀であるといわれる。

 17世紀の前期のモードを支配したオランダの様式は1600年頃から少しずつ整えられ、 曲線から直線へ、鋭角から鈍角へ、緊縛から穏和へとむかった。

 17世紀の3、40年代になると、男女共に完成されたオランダ調の特徴をそなえることになる。

 しかし、この時代半ばに近づくころからオランダはマニュファクチュアによる安価な商品生産の独占を失い、 ヨーロッパにおける商業的中心的地位を失った。

 これに変わり、フランス絶対主義国家があらたに世界の中心的存在となった。

 フランス女子の17世紀後半を飾る衣装の特徴的上衣として、コール・バレネと呼ばれるものがあらわれた。

 これは装飾的な上衣とコール・ピケが融合したようなものであった。 この時代には、ローブのデコルテは大胆にひろげられ、乳頭をかろうじて覆う程度になった。

 そして、デコルテによって幅広いフラット・カラーをつけ、あるいは布襞を柔らかくたたんでカラーにしていた。 コール・バレネの開きは、前か背中でとめていた。

 スカートは、少なくても二枚は重ねてで、ローブのスカートはウエストで丁寧に襞取りしてあり、 床まで垂れていた。腰の脹らみが目立ち始めたが、まだ特別になにか道具を使用した形跡はない。 ローブのスカートは後ろでまとめて自然な曳裾になるようにし、 前は美しい裏布を見せ、リボンなどでとめていた。曳裾は長いもので5~10メートルにもなり、 王の前ではこれを曳き、歩くときは裾を左腕に優雅に抱えた。

 この衣装は、バロック調の大げさな男装に照応する代表的なものである。

 バロック様式時代の貴族たちは、男子も女子も手にマフをもったり、 ハンカチーフをアクセサリーにしたり、イヤリングやブレスレットをつけたりして、 宮廷生活を中心にその生活を楽しんでいた。

 とくに、顔をより一層白く見せるために顔の各所につけぼくろをつけるのが流行した。






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