第2話

翌朝の土曜日、元は九時過ぎまで寝ていた。

「お父さん、まだなの」

三女の瞳は何度も寝室を覗き起きるのを待っていた。そんな事も知らずに元は寝ていた。

「お父さん、起きてよ」

瞳はたまらずにベッドの上に乗って揺らした。

「ねぇー、早く。十時に出ると約束したでしょう。お父さん」

瞳は再びベッドを揺らしながら寝ている元を起こした。

そこへ見かねた香が寝室に入ると起こしに来た。

「おなた、子供達と約束したでしょう」

元としてはもう少し寝ていたいと思っていた。

しかし子供達の約束も忘れていなかった。


パジャマ姿のままで台所に行くと恵も瞳も用意が出来ていた。そのまま元はリビングに行きガラス戸を開けてベランダに出ると、数組の親子連れが車に乗って出かけるところだった。

「お父さん、早く支度してよ」

それを見ていた瞳も再び催促をした。

「パパ、お弁当作ったわよ」

香が朝早く起きて作った三人分のお弁当を皆に見せた。

「これだとどこにでも行けるでしょう」

皆が香の作ったお弁当を注目した。

「ところでどこに行くの」

何も聞いていなかった香は聞いた。

その日の外の天気は朝から晴で雲一つない天気だった。

「お父さん、どこに連れて行ってくれるの」

何も考えていない瞳は、元の方を見ると再び催促した。

「恵、どこへ行くと言ったっけ」

元は、今度は恵に聞いた。

「お姉ちゃんが考えていたの」

椅子に座っている瞳が尋ねた。

「この間、お父さんに話したでしょう。お母さんも一緒に教えたよ」

その時は二人とも忙しくて忘れていた。確かに恵が調べた事を聞いてはいたが覚えていた。二人とも上の空で聞いていただけで覚えていなかった。

「どこに行くと言ったかな」

元は恵に聞いてみた。

「もうー、忘れたの。天気が良ければ登山でそれも近場の。悪ければ水族館、思い出した」

恵は数日前に約束をしていたことを話した。

「それなら天気が良いから登山に決定だ」

この様な事は全て父の元が決めることになっていた。しかしそれは今年まで。来年からは子供達を尊重しようと二人は考えていた。


最終的に決まったのは車で四十分ほどにある新しく出来たハイキングコース。数年掛かりで市が整備したもので、この地域に住んでいる住人であれば誰でも知っている観光地だった。

車も停められ、近くには野草公園も整備され、そろそろ春の花が一斉に咲く頃だった。


元も子供達もこの新しいハイキングコースに行くのは初めてだった。

「パパ、ガソリンは満タンよ。昨日、入れてきたんだからね」

香は朝食を食べている元に話した。

「私も一緒に入れに行ったのよ」

瞳は母の香とガソリンスタンドに行った事を話した。

「パパ、そろそろ出かけないと二人とも待っているんじゃない」

「恵に瞳、そろそろ行こうか」

元は重い腰を上げた。

「ではお母さんと愛、行ってくるからね」

恵は二人に言うと続けて言った。

「お土産を買ってくるからね」

張り切っている瞳は嬉しそうに話した

「お父さん、運転だけは注意してね。来週は私の番だからね」

今度は愛が玄関先から元に言って二人で見送った。

「お母さん、行ってくるからね」

瞳は大きな声ではしゃぐような声で玄関を後にした。残った二人はベランダに出て車を見送ると、そこからは恵と瞳が後部座席に座り窓を開けて大きく手を振っているのが見えた。


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