第40話 国営墓地②

「なぁ、アレン」


 ジェドがアレンに問いかける。


「さっきのアンデッドってデスナイト…だよな?」


 ジェドの問いにアレンはあっさりと答える。


「ああ、デスナイトだよ。やっぱり有名なアンデッドなんだな」


 アレンの声には特別なアンデッドを駆除したという雰囲気が微塵もない。ということはデスナイトやリッチが毎晩のように発生するという話は決して誇張ではない事になる。


「ああ、やっぱりそうなんだな。一つ聞いて良いか?」

「ああ」

「さっき、アレンは厄介なアンデッドは滅多に発生しないって言わなかったか?」


 ジェドは実際の所、この質問にアレンがどのように答えるかは大体の目処はついていた。どうやらアレンの認識は俺達とかなり違っており、言葉を額面通り受け取ると大怪我する感じがしたのだ。


「ああ、禁忌の騎士タブーナイトはよっぽどの条件が揃わなきゃ発生しないし、首無し騎士デュラハンのような騎乗するタイプも滅多に発生しないな」


 アレンの口からとんでもない単語が飛び出る。禁忌の騎士タブーナイトは最高レベルのアンデッドである事はジェドとシアも知っていた。ある先輩冒険者は『デスナイト』に遭遇したらとにかく逃げろと教わったが、禁忌の騎士タブーナイトに遭遇したら諦めろと言われた。

 禁忌の騎士タブーナイトは死を受け入れざるを得ないようなアンデッドなのだ。


 いや、一般的には『デスナイト』でさえ死を受け入れなければならないようなアンデッドなのだが、アレン達はその『デスナイト』を1分もかからず瞬殺してしまった。


「なぁ…アレンお前らにとってデスナイトは厄介なアンデッドに入らないのか?」


 ジェドの言葉にアレンはまたも一切の動揺を見せずに返答する。


「ああ、以前は面倒なアンデッドだったんだが、今はフィアーネ、レミア、フィリシアが手伝ってくれるからな。1分かかる事は、ほとんどないから、厄介な相手とは言えない」

「そっか…基準が違ってたんだな」


 ジェドは苦笑しながらアレンに言う。


「?」

「つまりな、世間一般ではデスナイトなんてアンデッド自体が厄介を通り越して『絶望』の相手なんだ」


 ジェドの言葉にアレンは少し考えて納得したような表情を浮かべる。


「そっか、俺達はデスナイトなんて見慣れてるからな」


 アレンの言葉にジェドとシアは頷く。


「というよりもデスナイトだけじゃなくアンデッドには中々、世間一般の人達は出会わないからな」


 ジェドの言葉にアレン達も納得したようだった。


「ま、それはそれ、これはこれ…という事で見回りを続けることにしよう」


 アレンの言葉に全員が頷いて見回りを続ける。


「おっ、また出たな」


 アレンの視線の先には、またも強力なアンデッドである『リッチ』がいる。


 リッチはアンデッドの中でも特に厄介なアンデッドとして周知されている存在だ。リッチの厄介な点は、魔術を使うことである。


 リッチには、魔術師、呪術師が死を超えるために、自ら儀式を行いアンデッドと化すタイプと魔術師、呪術師などが瘴気を利用して生み出したタイプ、そして、瘴気の中に含まれた魔術師、呪術師の残留思念により自然発生するタイプの三つに大きく分類される。


 この国営墓地においては、圧倒的に多いのは当然ながら『自然発生』するタイプだ。様々な訳ありの死体が運ばれてくるこのローエンベルク国営墓地において魔術の素養のあるものの思念が含まれるというのは珍しいことでは無いのだ。


「よし、いくぞ」


 アレンが一声かけて走り出そうとするのをフィアーネが声をかける。


「待って!! アレン、あそこ」


 フィアーネが指差した先にはもう一体の『リッチ』がいる。そして、その背後にアンデッドの集団があった。


 フィアーネの指差した『リッチ』はアンデッド達に手振りでなにやら指示を出している。どうやらあのアンデッドの集団のリーダー的存在らしい。


「リッチ2体にスケルトンソードマン、ウォリアー、グール…え~と、1,2,3,4…全部で11体か」


 アレンが冷静にアンデッド達の数を数え始める。その姿にジェドとシアはリッチ2体に対してアレン達が逃亡という選択肢を持っていない事を察する。

 『リッチ』が一体いるだけでも軍の出動が要請されるというのに、アレン達はまったく恐れていないのだ。それどころかアレン達にとって単なる駆除対象でしかない事を察した。


(うん…またも俺の常識が音を立てて崩れていくな)


 ジェドがそう思っていると、アレンから声がかかる。


「フィアーネ、レミア、フィリシア、ジェド、シアでまずはあっちの集団を始末してくれ。俺は一体でいるリッチを始末してからそっちに加わる」


 アレンの提案にフィアーネ、レミア、フィリシアは快諾する。ジェドとシアも快諾とまではいかないがアレンの提案を了承する。


「シア、支援を頼む」

「わかったわ」


 ジェドの言葉にシアは頷く。


 ジェドが剣を抜いた所でアレン、フィアーネ、レミア、フィリシアが動く。急激な開戦にジェドとシアは目を丸くする。


「え?」

「へ?」


 ジェドとシアが一瞬の自失から立ち直り、ジェドがフィアーネ達三人の後を追う。ジェドはまっすぐにアンデッド達に向かおうとはせずにアンデッド達の横に回り込もうとしていた。シアは手早く詠唱を終えると魔矢マジックアローと氷矢アイスアローを連射する。


 キャサリンの指導のおかげでシアが魔術を放つまでの時間は並の魔術師とは明らかに一線を画している。リッチはシアの放った魔矢マジックアローと氷矢アイスアローを防御陣を形成して防ぐ。


 シアの魔矢マジックアローと氷矢アイスアローはリッチの防御陣を貫くことは出来なかった。防御陣に当たり魔矢マジックアローと氷矢アイスアローは砕け散る。


「く…やっぱり駄目か…でも…」


 シアの口から悔しさが滲むが、それでも最低限度の仕事はしたとシアは自分を慰める。


 ここでの最低限度のシアの仕事とは、もちろんリッチに防御陣を形成させたことだ。シアの魔術を防ぐために防御陣をリッチが形成したために迎撃の魔術の展開が十数秒遅れることになったのだ。


 だが、その十数秒は大きかった。


 リッチは理不尽の塊ともいうべき存在の蹂躙を受けることになったのである。

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