第39話 国営墓地①

 国営墓地の中に入った一行は墓地の見回りを開始する。


 墓地の中は思ったよりも殺伐としていない。国営墓地には外灯が設置されており夜であったも明かりは必要ないようだ。外灯には魔術を込める事の出来る魔石が備え付けられており、魔石に込められた【照明イルミネーション】をアレン達が発動させる事で十分な明かりをもたらしていた。


「思ってたよりも平和なんだな」

「そうね。入った瞬間にアンデッド達に襲われると思ってたのにそうでもないのね」


 ジェドとシアの感想にアレン達は苦笑する。


「おいおい…冒険者は国営墓地をどんな風に思ってるんだよ」

「え、ああ毎日の様にアンデッドが発生するって…」

「まぁ発生するけどそんなに厄介な奴なんて滅多に出ないぞ」

「そうなのか?」

「ああ、噂ってのは尾ひれがつくからな」


 アレンの言葉にジェドもシアも胸をなで下ろす。正直な話、噂の通りならここはまさに足を踏み入れたら最後の危険極まる墓地だ。そんな危険な場所が王都にあるわけがない。おそらくアレンの父親であるユーノス卿のあまりの剣幕に当時の冒険者達が恐れおののき国営墓地の状況を実情よりも大きく伝えたのだろう。


 この間のレミアの「デスナイト」しょっちゅう云々もその類だろう。ジェドとシアはアレン達が強大すぎる戦闘力を有している事に対してまったく疑っていない。だがデスナイトが毎晩というのはいくら何でも話を盛っていると思わざるを得なかった。


「そうだよな、厄介なアンデッドなんて早々出るもんじゃないよな」


 ジェドはアレンの言葉に「そうだよな」と自分に言い聞かせるように言う。


 ところがその認識が間違っていたことをジェドとシアはすぐに思い知ることになったのである。




--------------


 アレン達と国営墓地を見回っていると突然、アレン達が止まる。


「お、今夜はデスナイトからか…」


 アレンの言葉にジェドとシアは『え?』という顔をする。アレンが言ったデスナイトという言葉に対する反応だったのだが、しばらくしてアレンの緊張感のない声色が二人にさらなる衝撃を与えたのだ。


(アレンは今デスナイトって言ったよな? でもまったく緊張してないから聞き間違いだよな)

(アレンだけじゃないわ。レミアもフィアーネもフィリシアも何でもない顔をしている…うん、聞き間違いよね)


 ジェドとシアが顔を引きつらせながらアレンの視線の先を見ると異形の騎士がこちらを見て走り来るのが目に入る。


「ジェ…ジェド…あれって」

「ああ…初めて見るがあれって…だよな」


 こちらに走り来る異形の騎士は身長2メートル程度、右手に巨大な剣、左手に身長に匹敵するぐらいの巨大な盾を持っている。しかも異形の騎士の顔には薄皮が張り付いただけの死者の顔だ。明らかに生者ではない。アンデッドである事は明らかだった。


 こちらに向かってくる異形の騎士の名をジェドとシアはほぼ正確に把握した。こちらに駆けてくる異形の騎士の殺意、押しつぶされそうな圧迫感…間違いなくただのアンデッドではないことは確実だ。


 『デスナイト!!』


 ジェドとシアの頭の中に浮かんだフレーズだ。


「シア、後ろに!!」


 ジェドはシアに向けて厳しい口調で指示を出す。ガチガチと歯の音が鳴りそうになるが何とか堪える。ここで怯えていることがシアに察せられれば心配をかけるからだ。


「よし」


 アレンは一言言うと駆け出す。そこにフィアーネ、レミア、フィリシアも続く。そこに一切の逡巡はない。


「え?」

「ちょ…」


 ジェドとシアがあまりの事に呆けている間にもアレン達はデスナイトとの間合いを詰める。


 アレン、レミア、フィリシアは既に剣を抜き放っている。フィアーネだけは武器を持っていない。


 アレンの横薙ぎの一閃がデスナイトの剣を振り上げた右腕をあっさりと斬り飛ばす。斬り飛ばされたデスナイトの腕は元から存在していなかったように塵となって消え失せる。


 アレンが剣を持つ腕を斬り飛ばして間髪入れずにレミアがデスナイトに攻撃を入れる。


 レミアの武器は双剣だ。レミアはまず左の剣でデスナイトの右脇腹を切り裂き、一瞬の遅れて右の剣でデスナイトの首を斬り飛ばした。


 先程の右腕同様、斬り飛ばされた首は宙を飛んでいる間に塵となって消え失せる。塵となって消え去る瞬間のデスナイトは「え?」という呆けた表情をしていたようにジェドとシアには思われた。


 そして三人目のフィリシアが突きを放ち、デスナイトの心臓の位置に突き刺さる。するとデスナイトの残った体が塵となって消え失せる。


「出番なしか~」


 フィアーネの呑気な声が墓地に響く。


「まぁ、いいじゃないか」


 アレンが苦笑しながらフィアーネに返す。


「よくないわよ。私の格好良い姿をアレンに見せたかったのに」


 フィアーネが頬を膨らませながらアレンに抗議している。傍目から見ていると女心がわかってないと言わんばかりの態度だが、冷静に考えてみるとそういう問題ではない。


「なぁ…シア」

「な…に?」

「フィアーネの言っている事って何かおかしくないか?」

「ジェド…現実から目を逸らしちゃ駄目よ。フィアーネの言葉がおかしいのは同意するけど他にもっと突っ込む所があるんじゃない?」

「…いや、そこツッコんだら何か今までの常識が崩壊するんだけど…」

「気持ちはわかるわ…」


 ジェドとシアは呆けた口調で会話を交わす。もはやツッコミどころが多すぎて逆にツッコめないぐらいだった。


 デスナイトを片付けたアレン達はジェドとシアの元に歩いてくる。


「じゃ、続き行こうか」


 アレンの言葉にジェドとシアは頷くだけしか出来なかった。

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