第41話 国営墓地③

 シアの放った魔矢マジックアローと氷矢アイスアローを防御陣で防ぐという隙を見せてしまった『リッチ』はその報いをうける事になった。


 というよりもあまりにも理不尽な仕打ちであったと見て良いのでは無いのだろうか?


 その理不尽さを体現した美しい少女達はアンデッドの集団を蹂躙した。


 先陣を切ったフィアーネは凄まじい速度で放たれた一撃で『リッチ』の頭部を粉々に打ち砕いた。リッチは魔術のみならず物理的な攻撃でさえ弾く防御陣を形成していたのだが、理不尽を体現する少女の一人目、フィアーネの拳の前には濡れた紙に等しかったのだ。


 頭部を打ち砕いたフィアーネは間髪入れずにリッチの胸部にある核を打ち砕く。二撃目を入れるときに防御陣がまだ反応していた。

 すでにリッチは擬似的な命を散らしていたのだが、防御陣が反応したと言う事はおそらくリッチ自身は自分がやられた事にすら気付いていなかったのだろう。その様がフィアーネの実力の高さと理不尽な戦闘力を有する者に出会ってしまったリッチの不運を浮き彫りにしていた。


 もちろん、二撃目も濡れた紙以下の防御力だった。その事を思いジェドは走りながらリッチに同情したぐらいだった。


 フィアーネがリッチを片づけている間に理不尽を体現する少女の二人目であるレミアはスケルトンソードマン、スケルトンウォリアーを一度も斬り結ぶことなく核を斬り裂く。スケルトンは痛覚と意識がない事を神に感謝すべきであったかも知れない。それらがなかったからこそ理不尽という絶望を味あわずに済んだのだから…。


 そして、最後の理不尽を体現する少女の三人目であるフィリシアもアンデッド達に理不尽な蹂躙を行った。

 フィリシアの長剣はアンデッド達に反応することすら許さず、グールの首を斬り飛ばし、間髪入れずに心臓の位置にある核を貫いた。ジェドの目にはいきなりグールの首が飛び、心臓の位置に穴が穿かれたようにしか見えない。フィリシアの剣を目に写すことすらジェドには出来なかったのだ。


 ジェドがアンデッド達の位置に到着したときには、すでにフィアーネ達によりアンデッドはすべて核を破壊され体を保つ事が出来ずに消滅していた。


「よし!!じゃあ、アレンを…って、終わってるわね」


 フィアーネがレミアとフィリシア、ジェドに声をかけアレンの応援に向かおうとした時にはアレンが『リッチ』の核を斬り裂いており、リッチを構成している人骨がガラガラと崩れ去っているのが目に入った。


(え? リッチってこんな簡単に斃されるようなアンデッドだったけ?)


 ジェドは間近でフィアーネ、レミア、フィリシアの戦いを目の当たりにして呆けていた。


「シア、ありがとう」

「え?」


 フィアーネに礼を言われたシアは戸惑う。


「うん、シアが魔術を放ってくれたおかげでリッチの迎撃が後回しになったから助かったわ」

「え、あ、うん」


 フィアーネの言葉にシアは内心首を傾げる。あの圧倒的な戦闘力を持ってすればリッチを斃すのは本当に容易なはずだった。


 もちろん、フィアーネ達はシアを元気づけようと思っての言葉ではない。本心からのことであった。シアが魔術を放ち、それをリッチが防御陣を形成して防がせた・・・・おかげで迎撃の魔術を放てなかったのだ。もし、リッチが魔術を放っていればそれを躱すか、防ぐかをしなくてはならなかった。

 それは間違いなく一手であり、その余分な一手が命取りになる可能性すらあったのだ。リッチは一手失い。フィアーネ達は相対的に一手を得たことになり、両者の間には二手の開きが生じていたのだ。フィアーネ達ほどの実力者にとって二手もの有利はほとんど勝敗を決定付けるものだった。


「確かにね。シア、絶妙のタイミングだったわ」


 レミアもシアを称える。


「ジェドも良いところに走り込んでくれてたわ」


 フィリシアはジェドの行動を褒める。


(気付いていたのか? まぁ、大した役に立ったとは思えないがな)


 フィリシアの言葉にフィアーネ、レミアも頷いたところを見ると、二人も気付いていたようだった。


 三人が気付いたジェドの行動とはジェドの陽動であった。ジェドは三人に追いつけないことを悟るとわざと大きな動きで迂回しようとしたのだ。それに一瞬だけグール達がつられたのだ。


 普通の使い手ではその事で戦いを有利に進めることは出来ないだろう。それだけ一瞬の出来事だったのだ。だが、フィリシアにとってその一瞬の隙は勝利への一手であったのだ。


 ジェドはジェドなりに自分の出来る事をしようとした結果だった。


「ジェドは俺を手伝ってくれればもっと俺はやりやすかったんだけどな」


 アレンはニコニコと笑いジェドを称える。


「でも、俺達は何の役にも立ってないぞ」


 ジェドの言葉にアレン達は首を振る。


「ジェドもシアも自分達の功績をきちんと把握していないな」

「「え?」」

「そうね、シアがリッチに防御陣を形成させなければ、ジェドがグールの気を引かなければ、明らかにアンデッド達を殲滅するのに、あと10秒は余計に掛かったわね」


 アレンとフィアーネの言葉にフィリシアがさらに言葉をかける。


「たった10秒と二人は思うかも知れませんが戦いにおいてその10秒はとてつもなく大きいですよ」


 レミアもさらに加わる。


「そうそう、私達なら10秒もあれば何十手も打てるわ。その証拠にアレンがリッチを斃すまでに私達がアンデッド達を殲滅した方が早かったでしょう?」


 レミアの言葉にジェドもシアも沈黙する。


「私達だけの時はアレンがリッチを片付けて、私達の応援に駆けつけるわ」


 レミアはさらに続ける。


「確かにな、俺がリッチを斃したときにはすでに終わったなんて事は初めてだ」


 アレンの言葉がジェドとシアにかけられる。


「そんなもんかね。まぁ俺達は俺達なりにアレン達の役にたつように頑張るよ」

「そうね。給金が出る以上は少しでも役に立ちたいわね」


 ジェドとシアの言葉にアレン達も微笑む。現在のジェドとシアの実力はアレン達に比べれば巨人と蟻以上の力の差があるのは明白だった。だが、これから努力を重ねていけば少なくとも巨人と人間の力の差まで詰めることも出来るかも知れない。


「それじゃあ、見回りを続けようか」


 アレンの言葉に全員が頷くと墓地の見回りを続けることにする。


 アレン達一行は周囲を警戒しながら墓地の見回りを行う。もちろん無言で行う様なことはせずに会話を交わしながらだった。


 すると、アレン達は会話を突然止めると警戒の色を濃くする。


(え?)

(空気が変わったわ…)


 ジェドとシアもアレン達の空気が変わったとことに気付き緊張を高める。


「【死の隠者リッチハーミット】か…」


 アレンの言葉にジェドとシアはアレンの視線の先を見るとアンデッドの集団を引き連れた一体の『リッチ』を見つける。


 周囲のアンデッドも『リッチ』『デスナイト』『スケルトンソードマン』『スケルトンウォリアー』などであり、数も40を超えている。普通の冒険者達ならば一目散に逃げ出すことは間違いないだろう。


 だが…


「さて…やるか」


 アレンの発した言葉は絶望とはほど遠いいつもの声だ。その声をきき、ジェドとシアの胸には安堵が広がっていった。

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