第27話 レミア⑤

「シア、ジェド…起きて…来たわよ」


 レミアの声にジェドとシアはすぐに起き出す。二人はレミアの言葉を信頼して警戒しておりいつ魔物が来ても大丈夫のように身構えていたのだ。二人も職業柄、野宿することは多々あり、いつ襲われてもすぐに行動を起こせるように自然となっていたのだ。


「レミア…来たの?」

「本当に来たのか…」


 ジェドとシアは武器を用意しながらレミアに尋ねる。


「ええ、もう少ししたら、他の見張りの人達が気付くはずよ」


(レミアって本当に何者だ? 起きて警戒していた人達よりも早く魔物の気配に気付くなんてあり得ないだろ)

(レミアが今までどんな活動をしていたのか本当に気になるわ。どう考えても普通の体験はしてないわよね)


 ジェドとシアがそう思っていたときに周囲の見張りが話し始め、そのうちの一人が敵襲を告げる大声を出す。


「敵だ!! 魔将が魔物を率いてやってきたぞ!!」

「起きろ!! 敵だ!!」

「魔将が来たぞ!!」


 一人の見張りの声が周囲に伝染し一気に野営のあちこちで冒険者達が跳ね起き戦いの準備を始める。先程までの鼾いびきしか聞こえない雰囲気は一気に吹っ飛び冒険者達の人智は騒然となる。


(囲まれている…)


 ジェドが周囲にある魔物達の気配を察知しゴクリと喉を鳴らす。


(シアだけは何が何でも守らないと…)


 ジェドは次いで視線をずらしシアを視界にうつす。


 周囲の冒険者の間から恐怖の声が漏れ出している。いかに魔物との戦いが日常である彼らであっても約3000もの魔物に囲まれるという経験は初めてのことであり動揺を抑えるのは甚だ難しかった。


「みんな、構えろ!!」


 そこに『オリハルコン』のシグリアが冒険者達の間を叫びながら走り、動揺を抑えようとする。シグリアの姿を見た冒険者達は自分達の陣営には『オリハルコン』クラスの冒険者がいることを思い出したのか動揺が僅かながら収まったのをジェド、シアは感じた。


 冒険者達はすかさず【照明イルミネーション】の魔法を展開する。文字通り光源を空に放ち、照明にして周囲を照らすという魔術である。比較的少ない魔力で発動することが出来るため、冒険者達の中ではかなりの人数が習得している。


 魔物達よりもはるかに夜目の利く魔物達と夜間の戦闘になった場合に心強い魔術である事は間違いない。だが、今回の【照明イルミネーション】によって照らされた周囲を見て冒険者達は顔を青くした。


 なぜなら冒険者達をぐるりと魔物達がすでに取り囲んでおり、自分達がかなり追い詰められているという状況である事を嫌が応にも察したのだ。


「おいおい、すっかり囲まれてるじゃねえか!!」

「数が多すぎる…」

「おい、後ろに下がれ」

「くそ!!こんな所で終わってたまるかよ!!」


 冒険者達の口からは現状に対して様々な言葉が口から発せられた。威勢の良い言葉を吐く者も弱音を吐く者もいる。だが共通している事は魔物達の数に動揺しているという事だろう。


「シア…援護を頼むぞ」

「うん、ジェドも気を付けてね」


 ジェドとシアの互いを気遣う声がレミアの耳にも入ったようでレミアが微笑ましいものを見る目で二人を見ている。それからすぐにレミアの目は魔物達に注がれている。


「…なるほど」


 レミアの声がかすかにジェドとシアの耳に入る。


(何か気付いたのか?)


 ジェドがレミアに尋ねようとした時に、魔物達が行動を開始し、闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみと呼ばれる肉食の獣型の魔物達が徒党を組んで冒険者達に襲いかかった。


 闇犬やみいぬも黒狼くろおおかみも冒険者達がいつも駆除している魔物達である。普段なら恐れるような魔物達ではない。あくまで『普段』ならばだ。今回の闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみは数が違う。いつもよりも桁が一つばかり違うのは明らかである。


「シア、俺は前線に立つから、シアは援護を頼むぞ」

「わかったわ」


 ジェドとシアがそう言葉を交わしてすぐに冒険者達から魔術師とアーチャー達が襲いかかってくる闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみに魔術と矢を放つが。機動力に優れた闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみは回避行動をとると放たれた魔術と矢を避けたために大きな損害を与えることは出来なかった。


 その様子を見て冒険者達の中から驚愕の声が漏れた。


「避けやがった…」

「信じられん…」

「くそ!!来るぞ!!」


 冒険者達の言葉に恐怖が込められているのをジェドもシアも察していた。そこにレミアの声が二人にかけられた。


「シア、ジェド、あいつらには戦術がある。これはやはり狩りじゃないわ」


 レミアの言葉はジェドとシアにとって相手を舐めないという戒めのように聞こえた。相手が魔物だから人間よりも知能が劣ると見下す事は死に直結する思考回路だ。レミアは魔物達を一切見くびっていない。だからこそ、戦術を行使した魔物を見ても動じることはないのだろう。


 ジェドとシアはその事に今更ながら思い至る。同時に自分達が増長していた事を密かに恥じたのだ。


「わかってる」

「わかったわ」


 この言葉は魔物に戦術があるということに対して答えたのではなく、レミアからの戒めに対しての返答であった。もちろん、レミアはそんな事は思っておらず単なる二人の思い込みかも知れないがそれでも二人にはそう思うべきだと思えたのだ。


 闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみが冒険者の前衛に襲いかかる。前衛の盾を構えた冒険者達は何とか闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみの侵入を防ぐことに成功した。


 キャン!!キャン!!キュウゥン!!


 前衛の冒険者達の武器が容赦なく振り下ろされ闇犬やみいぬ、黒狼くろおおかみの哀れみを誘う声が周囲に響く。


 だが一方で…


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぎぃ!!離せ!!」

「ちきしょう!!」

「エムス!!」

「大丈夫か!!」

「治癒魔術をかけてくれ!!急いでくれ!!」


 冒険者達の悲鳴も所々から生じていた。


「ジェド、シアを守っていててね」


 レミアは一声ジェドに声をかけると駆け出す。


「え?ちょっとレミア待て!!」


 ジェドはレミアが駆け出すのを呆然と眺める。その自失から戻ったのはシアの呼びかけによってであった。


「ジェド、レミアを追いましょう!!」

「ああ!!」


 ジェドとシアはレミアの後ろ姿を追い前線へ向かった。


(速い…レミアってひょっとしてめちゃくちゃ強いんじゃないのか…)


 レミアの異常な速力にレミアの実力の高さを感じたジェドであるが、それが確信に変わるのにそれほど時間はかからなかった。なぜなら跳躍し冒険者達を跳び越えていった姿を目の当たりにしたからだ。


「な…」

「レミア…え?」


 ジェドとシアは人を跳び越えて行ったレミアに驚いたのだが、それは単なる前振りでしかなかったのだ。二人は前線に出てそこでレミアの戦いぶりを見て絶句する。そこではレミアが凄まじい戦闘力を発揮していたのだ。


 すでにレミアの足下には闇犬やみいぬの数匹の死体が転がっている。首筋や額に貫かれた痕があり、レミアの持つ槍に貫かれたことは明らかであった。


(何…レミアってこんなに強かったの?)

(すげぇ…)


 ジェドとシアは周囲の冒険者の顔を伺うが冒険者達も突如現れたレミアの戦いぶりに呆気にとられているようだった。あまりにも常識はずれの戦いぶりが展開されたかは冒険者の呆けた顔を見れば推測できるというものだった。


 レミアを敵と見定めた闇犬やみいぬの一匹がレミアにとびかかろうとしたがそれよりも先にレミアの槍が闇犬やみいぬの喉を貫き絶命させると次に飛びかかろうとした闇犬やみいぬの額を容赦なく貫く。


 闇犬やみいぬ達は為す術なくレミアの槍の穂先に掛かっていった。レミアの腕の凄まじさは貫かれた闇犬やみいぬ達が声を上げることなく絶命していることからも十分に伺うことが出来る。

 数瞬後にはレミアの周囲に闇犬やみいぬ達の死体が転がると、冒険者達を襲う闇犬やみいぬ達を背後から襲った。


 キャゥゥン!!


 一匹の背を貫くと絶命し損ねた闇犬やみいぬが哀れな声を上げ斃れ込む。レミアは四方から襲い来る闇犬やみいぬ達を容赦なく刺し貫く。しばらく闇犬やみいぬ達を貫いていたレミアは周囲を見渡し始めた。何かを探しているようだ。


(…? レミアは一体何を探してるんだ?)


 ジェドがレミアの様子を見て訝しむ。


「何を探してるのかな?」


 シアも同じ事を思っていたらしい。


 レミアはジリジリと周囲の闇犬やみいぬ達を槍で貫きながら少しずつ移動していく。


(ん? ひょっとしてあいつか?)


 ジェドがレミアの移動先にいる一匹の闇犬やみいぬを見る。その闇犬やみいぬは周囲に他の闇犬やみいぬ達がいるためジェドも気がついたのだ。


(ひょっとしてレミアが狙ってるのは闇犬やみいぬ達のリーダー?)


 ジェドがそう思った時にレミアはまるで瞬間移動をしたかのような急激な動きでリーダーと思われる闇犬やみいぬの顔面を刺し貫いた。


 キャゥゥゥン!!


 レミアに顔面を貫かれた闇犬やみいぬが哀れな泣き声を上げ絶命するととたんに闇犬やみいぬ達の統制が崩れた。どうやらレミアが狙っていたのは闇犬やみいぬ達のリーダーだったらしい。統制をなくした闇犬やみいぬ達をレミアは容赦なく突き殺すと黒狼くろおおかみ達が突入した場所に向かって駆け出した。


 冒険者達はその姿を呆然と見送りレミアの姿を見守る。黒狼くろおおかみの中に入り込んだレミアはそこでも槍を縦横無尽に振るうと黒狼くろおおかみ達が絶命していくのが見える。


 しばらくするとレミアが槍を投擲し黒狼くろおおかみの顔面に槍が突き刺さるととたんに黒狼くろおおかみ達の統制も崩れた。どうやらレミアが黒狼のリーダーを討ったらしい。


「今がチャンスだ!!闇犬やみいぬ共を殺せ!!」


 冒険者の一人が大声で叫ぶと呆気にとられていた冒険者達は雄叫びを上げ闇犬やみいぬ達に襲いかかる。黒狼くろおおかみ達に襲われていた冒険者達も黒狼くろおおかみ達に殺到する。


 ジェドも剣を抜き、闇犬やみいぬ達に容赦なく刃を振るった。


(この勝利はレミアのおかげね)


 シアは冒険者の陣営にもどるレミアを見つめ小さく『ありがとう』と言葉を送ったのであった。

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