第26話 レミア④
「全員停止!!」
先頭の方からの言葉に冒険者達は戸惑った。この場所は当初の予定の位置から大分手前になる。それに1回目の休憩からさほど時間が経っているわけでは無かった。そのため、ここで停止する理由がまったく思い浮かばないのだ。
ジェドとシアは顔を見合わせる。レミアは何やら考え込んでいる。
(レミアったらどうしたのかしら?)
(俺がさっき持って帰った情報がレミアにとって何か引っかかるものがあったということか?)
しばらくすると前方の方から各冒険者のリーダーを集めるように指示があった。それぞれの冒険者達のリーダー達は指示通りに前の方に移動していく。
「レミアはいかないでいいの?」
シアがレミアに尋ねるとレミアは言い辛そうに答えた。
「内容はわかっているからいかなくていいわ」
「え?」
「多分、ここで野営するという内容よ」
「ここで?」
レミアの言葉はジェドとシアを戸惑わせる。
(どういうことだ? レミアは俺達が見落としている何を見ている?)
ジェドはレミアの言葉に戸惑う。この疑問をはらすためにはレミアに聞いてみるのが最も手っ取り早いと考えたジェドは疑問をレミアにぶつける。
「どうしてここで野営すると? 当初の予定の半分も進んでいないぞ」
ジェドの言葉にレミアは答える。
「さっきのジェドの持って来た情報から考えてみたのよ。その結果、このあたりで魔将を迎え撃つ事になりそうよ」
レミアの言葉にジェドもシアも驚く。確かに戦闘には実際の想定外の事が起こる事は常識だ。当初の予定だけに拘っていたら痛い目に遭うというのも常識だった。だが当初の予定の半分も来ていない段階で魔将と遭遇するというのは想定外の度合いが違っているのだ。
「このあたりで?」
シアの言葉も固くなり始めている。
「ええ、おそらく約200人で3000程の魔物と戦わなければならないわ」
「なぜ、そうなる?」
ジェドの言葉もシアと動揺に固くなり始めている。
「斥候がここに現れた以上、本隊もそう遠くないところにいるわ。となるとあの『オリハルコン』の人達がここで迎え撃つ判断をしてもおかしくないわね」
(俺の持って来た斥候の話からの予測か…。確かにレミアの言うとおり斥候がここにいたという以上、本隊もここにいると考えるのは当然か…)
(確かに…レミアの言うとおりだわ。斥候が現れたという事に対してあまりにも私達は危機感がなかったわ)
ジェドとシアの中にいつの間にか判断を他者に預けていた事に気付き二人は恥ずかしくなる。自分達は今まで頭を使うことで生き延びてきたのだった。だが周囲に冒険者達がいることでいつの間にか油断し判断を他者に預けているという緩みに気付いたのだ。
「それにしても…」
レミアの苦渋に満ちた声にジェドとシアは意識を自然とそちらに向けた。
「魔将は決して私達を舐めていないわね。おそらく王都にいる時から私達の動きを把握していたはずだわ」
レミアの意見にジェドとシアは戸惑う。
(まさか…王都にいるときから?)
(どうして?いくらなんでも…それは)
「どうして…?」
シアは戸惑いに満ちた声を発する。本心を言えば心配しすぎだと笑い飛ばしたかったのだがそれは出来ない。
「だって、いくらなんでも斥候に出会うのが早すぎるわ。おそらく騎士団の作戦も筒抜けだったはず」
「でも、どうやって?」
確かに斥候に出会う時間が早いのは事実だが作戦が筒抜けというのは飛躍しすぎでは無いかという思いがあるのだが、レミアの言葉には妙に説得力があった。さらにレミアは話を続ける。
「こちらは魔将達を単なる魔物としてとらえていたから、王都の人間は大部分が作戦内容を知ってるわ。だって、この仕事を受けた時に、大まかな説明を受けたじゃない」
「確かに…」
「私は、この場に来ていない仲間に『騎士団が挟み撃ちして、打ち漏らした魔物を冒険者で斃す』って伝えたわよ。他の冒険者も酒場とかで当たり前の様に離したんじゃないかしら…」
レミアの言葉に今更ながらジェドとシアはその危険性に気付いた。確かに今回の作戦に秘匿性というものはまったく感じられなかった。相手が人間であれば作戦を広めるような事は一切しなかっただろう。だが、今回は魔物であり王都の中にスパイを紛れ込ませるなんてしないと勝手に決めつけていたのだ。
(レミアの言うとおりなら…俺達は魔将の手の上で踊っていたと言う事になる…)
(これはマズイんじゃないかしら…)
「魔将は王都にいても違和感の無い小動物みたいな配下の者を潜り込ませておいて、作戦内容を把握し、王都を出た私達を尾行したとしたら?」
レミアの言葉にジェドとシアは答えない。いや、答えられない。
「私が魔将なら一番数が少なくて、統率のとれていない冒険者をまず襲うわ。各個撃破というやつね」
レミアの言葉にジェドとシアは顔を見合わせ、ジェドが一応反対意見を言ってみる。
「でもレミア、魔将達は単なる魔物だ。そこまで知能があるか?」
ジェドの疑問にレミアは答える。
「わからないわ。でも知能があると考えて行動した方が傷は浅く済むと思わない?」
(確かに…最悪のケースを想定しておくべきだ…)
(レミアの言う事は正論だわ。私もジェドも周囲に冒険者が揃っているからって完全に油断してたわ)
三人がそこまで話したところで、周囲の冒険者のリーダー達が話が終わり戻ってきたようで、周囲から『ここで野営する』という話が聞こえて来た。
(本当にレミアの言ったとおりになったな)
(という事はここで魔物達を迎え撃つという事になる訳ね…)
ジェドとシアはレミアの言うとおりに事が進んでいる事に気付き、この場で魔将率いる3000もの魔物と戦うという事が現実味を帯びてきたのだ。
その後、ジェド達は野営の準備を行い、ジェド、シア、レミアは食事を簡単に済ませると早めに休むことにする。いつ魔将達が現れるかわからないが、早めに休んでいた方が無難という判断だった。
周囲の冒険者達の中には酒盛りを始めるものもいたのだがジェド達はそれを窘めること無く眠りにつく。言っても聞くはずはないし、酒によりいつもの実力が発揮できなくてもそれは自己責任というものだった。
ジェドとシアは夜中にレミアの言葉で目を覚ます。
「シア、ジェド…起きて…来たわよ」
レミアの声は静かであったがジェドとシアに与えた衝撃は決して小さいものではなかった。
魔将との戦いが始まろうとしていた。
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