第21話 注意喚起②

 サリーナの灼けに気合いの入った声にジェドとシアはちゃかすような事はせずに神妙な顔で頷く。


「まず、冒険者として絶対に犯罪行為に荷担しないこと」

「「はい」」


 当たり前の事なのでジェドとシアは当たり前だとして返事をすることに何の戸惑いもない。むしろここで戸惑うのは確実に人として何かが壊れている証拠だ。


「そのためには自分達で独自に依頼をとらないと言う方がはるかに無難よ」

「?」


 ジェドとシアの反応にサリーナはその理由を話す。


「理由はあなた達が犯罪に巻き込まれるのを防ぐためよ。もし違法な物を運搬させられたりして犯罪の片棒を担がさせれた場合、まずそれで話は終わらないわ」

「罪に問われるという事ですか?」

「それも勿論あるけど、何も知らない冒険者に犯罪の片棒を担がせ、それを元に脅迫する事も十分にあり得るわ。『お前が犯罪をしている事をバラすぞ』とか言ってね」

「なるほど『俺が捕まればお前も破滅』という論法を持ち出してくると言うわけですね」


 ジェドの言葉にサリーナは微笑む。『先生、飲み込みが早い子は好きよ』と言った表情をしているのは別に思い違いではないだろう。


「その通りよ。ところが冒険者ギルドから斡旋された仕事だったらどう?」

「う~ん…あ、冒険者ギルドが冒険者の身の潔白を証明してくれると言う事ですか?」


 シアの言葉にサリーナはまたしても微笑む。シアの頭を良い子良い子と撫でるのではないかという感じだった。


「そう、但しこれは推奨されるのであって、もし独自に依頼を受けたいというのなら余程信頼のおける相手からだけにしなさい。極端な話、『この人になら欺されても構わない』というレベルで信頼している相手ぐらいじゃないといけないと思ってね」

「「はい」」


 サリーナはジェドとシアの反応を見て気を良くしたらしく。機嫌良く次の項目の説明に移る。きちんと話を聞く姿勢は学ぶ者にとって必要最低限のマナーだ。それが出来ない者に教えを乞う資格など無い。教える側も義務以上の事をしたくなくなるだろう。


「次は任務失敗に対する罰則よ」

「え?」


 サリーナの言葉にジェドとシアは驚く。確かに依頼を達成できない事に対して罰則があるのはいい加減な依頼の受任を控えさせるという面から考えれば当然の事だが、今までのジルベ村の冒険者ギルドでは罰則が適用された事はなかったのだ。


「まぁ、そんなに心配しないで罰則と言ってもそんな大した物じゃないわ」

「どんな罰則なんです?」

「依頼には冒険者ギルドがランク付けしてるから、任務を失敗すると言う事は単に実力不足という事よね」

「はい」

「任務を失敗した場合はその下のランクの依頼を一定数こなさなくてはいけないのよ」

「なるほど、実力をつけさせるというわけですね」

「そういうこと」

「他にどんな罰則があるんですか?」

「依頼にもよるけど違約金を取られる場合があるわ」

「違約金ですか?」


 ジェドとシアのように資金が潤沢でないような者にとって違約金というのは結構な痛手というものである。


「ええ、でもそんなに心配しなくて良いわよ。違約金などが求められるときはあらかじめ依頼文書に記載されているし、ギルドの職員からその旨は絶対に知らせる事になってるからね」

「でも、それじゃあ後で言った言わないの水掛け論になったりしませんか?」

「それも大丈夫、依頼について説明した段階でサインをする事になってるし、きちんと説明した事を示す記録もしてるから」

「なるほど…」

「さて…」


 サリーナは居住まいを正してジェドとシアをまっすぐ見つめる。そしてこれからが本番ともいうような真剣な表情で二人に伝える。ジェドとシアはその雰囲気を感じたのだろう緊張の表情を浮かべる。


「王都の冒険者ギルドに所属する以上、次の事は絶対に守ってもらう事があるのよ」


 サリーナの言葉にジェドとシアはほぼ同時に緊張のためにゴクリと唾を飲み込む。


「ある意味、さっきまでの事は冒険者として当然の事だけど、この王都の冒険者ギルドに所属する以上、特別な注意事項があるのよ」


 ジェドとシアは先程の冒険者の言葉を思い出す。先程の冒険者は『国営墓地』と『アインベルク家』についての注意事項は絶対に話半分に聞くなと言っていた。


「あなた達はこの王都の『国営墓地』があるのは知ってる?」


 サリーナの言葉にジェドとシアは頷く。


(なんで、国営墓地に対してそんなに神経質なんだ?)

(国営墓地には何があるのかしら?)


「そう…じゃあ、興味本位で近付いちゃ駄目だという事も知ってるわよね?」

「すみません、俺達はさっき他の冒険者の人から『国営墓地』と『アインベルク家』について注意事項があるからしっかり聞いとけよと言われただけなんです。なぁ」

「うん、私達が知ってるのは名前だけなんです」


 サリーナの言葉にジェドとシアは答える。ここまで冒険者ギルドの関係者が口酸っぱく言うと言う事はただ事でない。


「そうなのね。じゃあ最初から説明するわね」


 サリーナの言葉にジェドとシアは頷く。


「この王都のはずれに『国営墓地』があるんだけど、その墓地に葬られる人はね訳ありの人が多いのよ」

「訳あり?」

「そう、一番多いのは刑を執行された死刑囚よ。そういう人は当然遺族が引き取るなんて事はほとんどないから国営墓地に葬られるの」

「はぁ」

「そんな人達を遺族が弔うと言う事はまずありえないでしょう?」

「「はい」」

「そのために国営墓地には瘴気が溜まりやすいのよ」

「瘴気…」


 サリーナの説明にジェドとシアはゴクリと喉を鳴らした。瘴気はアンデッドの素である事をジェドとシアは知っていたのだ。ここまで来ればジェドとシアも国営墓地がどのような場所であるかが察する事が出来た。


「その反応を見ればわかってるのね。あなた達の想像通り国営墓地にはアンデッドが出没するわ」

「…どんな種類のアンデッドが出るんです?」

「本当に様々なアンデッドが出るみたいよ。スケルトン、ゾンビなどはもちろん。信じられないかも知れないけど『デスナイト』『リッチ』だって出没するって話よ」

「え?」


 ジェドとシアはサリーナの言葉に呆けた返事をする。


(今、サリーナさん…『デスナイト』『リッチ』とか言わなかったか?…まさかね)

(いくらなんでも王都にそんなアンデッドが出没するなんてあり得ないわ)


「信じられない?」

「はい、正直なところ『デスナイト』『リッチ』なんてアンデッドが出没するなんて、あり得ませんよ」

「私もです。いくら何でもそんな危険な場所が王都にあればどうして王都に住んでいる人達は普通に生活しているんです?」


 サリーナの問いかけにジェドとシアは反論する。


 『リッチ』は、魔術師がアンデッド化したものであり高い知性と魔力により他のアンデッド達を支配する存在だ。余程の腕利きの魔術師であっても『リッチ』と戦えば敗北するのは常識だ。


 また『デスナイト』というアンデッドもその凄まじい戦闘力で知られている。シアの身長に匹敵する大剣を片手で振り回し生者を斬ると言うよりも叩きつぶすという異常な戦闘力をもっているらしい。


 どちらも出没しただけで軍の出動が要請されるというアンデッドだ。そんなアンデッドが出没でもすればそれこそ王都は阿鼻叫喚の地獄絵図となるだろう。にも関わらず、王都の人々の顔にはそんな死と隣り合わせの悲壮感はないのだ。


「それらのアンデッドはね。国営墓地の外には出てこれないの」

「え?」


 サリーナの返答にジェドとシアの二人はまたしても呆けた返事を返す。国営墓地には特別な結界でも張られているのだろうか? だが、それでもデスナイトやリッチを閉じ込めておく事が出来るとは二人には思えなかった。


「それらのアンデッド達は国営墓地の管理者であるアレンティス=アインベルク男爵が毎晩斃してるのよ」


 サリーナの言葉にジェドとシアは今度は呆けた返事すら出せずに絶句したのだった。

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