『アインベルク』

第20話 注意喚起①

 エジル村から乗合馬車を乗り継ぎ、ジェドとシアがローエンシアの王都フェルネルに到着したのはエジル村を出て16日目だった。


 思いがけず時間が掛かったのは、途中の冒険者ギルドで依頼任務をいくつかこなしたからである。


 金はいくらあっても困ることがないので稼げるときに稼いでおこうという貧乏性の思考からの行動だった。それなりに苦労したがジェドとシアはその依頼を遂行し、路銀をちょっとずつ貯める事が出来ていた。


 そして、ついに王都に到着したのだ。


 はじめて見る王都の巨大さにジェドとシアは圧倒される。このローエンシア王国の王都フェルネルはまさしくこのローエンシア王国の政治、経済、文化の中心である。王城を中心として都市が形成されている。


 ジェドとシアは歩きながら行き交う人々の顔を観察する。少なくとも行き交う人々の顔に悲壮感を見ることは出来ない。いや、むしろ活気に満ちあふれた様子で生活しているようだ。


 当代のローエンシア国王である『ジュラス王』は名君であるという話はジェドとシアも知っていたがそれを目の当たりにした気分であった。


 政治、経済が上手くいっているかどうかは、その土地の人々の生活を見れば大概わかるというものだ。


「ジュラス王というのは本当に名君なんだな」

「そうね、街の人達が活気に満ちてるわ」


 ジェドとシアは言葉を交わす。いずれにしてもこの王都で冒険者として生きていくのなら行くべき所があった。


 もちろん冒険者ギルドだ。


 この王都を拠点とする以上、冒険者ギルドに顔を出すのは必須条件だった。


 ジェドとシアはそのために冒険者ギルドへと向かう。ジェドとシアは王都の冒険者ギルドを見て圧倒される。王都の冒険者ギルドは煉瓦造りのしぶい建物である。だが、ジェドとシアを驚かせたのはその巨大さだ。


 一辺が40メートル四方の広さに三階建ての巨大な建物だ。自分達がかつて拠点としていたジルベ村の冒険者ギルドとは比べるのも馬鹿らしい程である。


「い、行こうか」

「う、うん」


 ジェドとシアは顔が引きつる思いだったが冒険者ギルドの扉を押す。


 ギィ…


 扉は音を立てて開き、二人は王都の冒険者ギルドに遂に足を踏み入れる。


 中は様々な人達でごった返している。冒険者、ギルドの職員、商人風の男、騎士風の男様々な職業の人が喧噪を演出している。


 ジェド達がはいってすぐ左側には酒場が設けられており、そこでは何人かの冒険者達がすでに酒宴を開いている。

 その反対側には武器のメンテナンスを引き受けている職人や様々な消耗品を売っている商人もいたりしていた。


 ジェドとシアはその中を歩き出す。何はともあれ手続きをしなければ何も始まらないからだ。

 ジェドとシアは目の前の受付の女性に手続きを申し出ることにした。たまたま前の冒険者の手続きが終わり手が空いたように見えたからだ。


「あの、このギルドに拠点を移す手続きをお願いしたいんですが」

「はい、それでは名前とランクの方を教えて頂戴」


 20代成り立ての中々の美人だ。名札を見ると『サリーナ=ジーボ』とあった。


「はい、『ブロンズ』のジェドです」

「私も『ブロンズ』のシアです」


 二人は素直にサリーナの質問に答えると用紙にジェドとシアの名前を書き込んでいく。


「それじゃあ、以前の拠点としていたギルドはどこだったか教えて頂戴」

「はい、ジルベ村の冒険者ギルドです」

「え~とジルベ村っと」


 サリーナは再び手早く用紙に書き込んでいく。


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 サリーナはニッコリと笑うと奥の方に引っ込んでいく。何か確認事項があるのだろう。


 ジェドとシアはそれを見て、待合のために用意されていた椅子に座ってサリーナを待つことにした。


 ジェドとシアは椅子に座り周囲を見渡す。明らかに自分達よりもキャリアの長そうな冒険者達がいる事に二人は緊張した。結構な数の冒険者の顔に刀痕があったり、魔物の爪痕があったりして怖そうなのだ。


「おい、聞いたか?」

「何を?」

「勇者の話…」

「ああ、今頃かよ。みんなとっくに知ってるぜ」

「なんだよ、知ってんのかよ」


 ジェドとシアは周囲の話に聞き耳を立てている。あまり褒められた行為ではないのだが情報を仕入れるのは冒険者にとって重要な事だった。


「なぁシア、今聞こえて来た勇者の話って」

「うん、この国には勇者はいないのに何の事かしら?」


 ジェドとシアの話を隣に座っていた冒険者が聞いていたらしい。その冒険者は『あれ?知らないのか?』という顔をして二人に話しかけてくる。


「なんだ、お前ら知らないのか?」

「あ、はい、今日王都に着いたばかりなんですよ」

「ああ、ドルゴート王国の勇者がな、アインベルク家に喧嘩を売って返り討ちにあったって話だよ」

「え?」

「バカだよな~ドルゴートの勇者も、アインベルクに喧嘩を売るなんてさ」

「アインベルク? 何ですそれ?」

「ああ、お前ら今日王都に着いたって言ってたな。それじゃあ知らなくても当然か」

「はい、不勉強ですみません」

「良いって知らないのは別に恥じゃないからさ。あのなアインベルク家ってのはな…」


 男がジェドとシアにアインベルクの事を話そうとしたときに男の仲間から声がかかる。


「おーい、アルジス何やってんだ行くぞ!!」

「あ、わかったよ。すまねえな、時間のようだ。詳しいことはギルドの方から聞いてくれ。それからなギルドの方から注意事項があるから絶対にそれだけは守れよ。特に国営墓地とアインベルク家についての項目だけは絶対に話半分に聞くな」


 男はやけに真剣にジェドとシアに言う。あまりに真剣なので内心、首を傾げるがジェドとシアはそれを表面上に出すことなく頷いた。


「そっか、わかってくれたらそれでいいや。じゃあな。がんばれよ」

「は、はい」

「ありがとうございます」


 ジェドとシアが頭を下げると男はギルドの外に仲間達と出て行った。


「結局何だったのかしら?」

「正直わからん、わからんが、どうやらギルドの方から注意事項があるらしいな」

「わざわざ、ギルドが注意事項を言うなんてただ事じゃないわよね」

「ああ、しかもさっきの人もえらく念押ししてたな」


 ジェドとシアは先程から出てくる『アインベルク』という単語が妙に気になっていた。


 そこに戻ってきたサリーナがカウンターに再び座り、ジェドとシアを呼ぶ。ジェドとシアは返事をして立ち上がるとカウンターのサリーナの元に向かった。


「はい、確認しました。ジェドさんとシアさんに犯罪歴はなく、依頼主からのクレームもなしですね」


 サリーナが席を外していたのはジェドとシアの事を調べるためであった事がこの段階でやっとわかった。


「あの…」

「ん?」


 シアの問いかけにサリーナは少し微笑みながら返す。


「私達の事確認したというのはわかったんですけど、私達が嘘をついてたらそれを確かめる方法があるんですか?」

「もちろん、あるわよ。でもそれは教えるわけにはいけないのよ」


 あっさりとサリーナは言うがその方法を教えてはくれない。それは当然の事でその方法を知られると必ず対策をとられるからだ。するとまた別の方法を開発しなくてはならなくなるため結果、費用が著しく増加することになるのだ。


「あ、それもそうですね。変なこと聞いてすみません」


 シアが素直に謝るとサリーナはこれまたニッコリと微笑む。素直なシアに好感を持ったという事だろう。


「さて、手続きは終わったけど、これから二人には王都の冒険者ギルドに所属する以上、絶対に守ってもらう注意事項があるわ」


 サリーナが気合いの入った声でジェドとシアに告げる。


 サリーナの言葉に二人は息を呑むのだった。

 

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