第15話 因果応報⑤
「お前らこんな所で寝るな」
ジェドとシアを起こした人物は2人の狩人だ。
1人は年齢が30代半ば、もう1人は40代半ばと言うところだ。2人の狩人はジェドとシアに対して呆れた様な口調で言った。
「え?」
寝かけたジェドとシアはこの狩人の言葉に面食らっていたようだ。
なぜならまるで転移魔術で現れたかのようにジェドとシアはまったく2人の狩人の気配を事前に察知出来なかったのだ。
ジェドとシアにしてみればこれはあり得ないことである。
なぜならいくら眠りかけていたといってもジェドとシアは冒険者だ。しかも村の中ではなく野宿であり2人は気を張っており近づくものがいればすぐに気付くのだ。実際に昨晩は狩人がいたことにいち早く察知して動きに注意を払っていたのだ。
だが、今日はあり得ないほど接近を許したのだ。
「あ、すみません。でもこんな所とは?」
ジェドの言葉に40代半ばの狩人が苦笑いを浮かべて言う。
「いや、確かに何もない村だけどわざわざ村の入り口で野宿することもないだろう」
「「え?」」
狩人の言葉にジェドとシアは再び芸のない返答をする。狩人達の背後を見るとそこには村があった。
「「え…」」
ジェドとシアはありえない光景に言葉を失う。いくら暗かったとはいえ村の入り口で気付かずに眠ろうとすることなどありえない。
「ん?お前らひょっとして冒険者か?」
「は、はい」
「まだ若いのに頑張ってるんだな」
40代半ばの狩人がニコニコとして言う。狩人達の顔に悪意はまったく感じられない。感じられないが異様な状況にジェドとシアは表情が和らぐことはない。
(なんだ、さっきまで村なんてなかった。怪しすぎる)
(怪しすぎる…油断しちゃだめね)
ジェドとシアはこの異様な状況に気を引き締める。少なくとも表面上は動揺を見せないようにしている。
「いや~どうも疲れていたみたいでよく確認もせずに眠りこけちゃいましたね」
「そうね、私達もドジね。すみません。この村に宿屋はありますか?」
ジェドとシアがにこやかに狩人達に言う。こういう場合はどれだけ白々しくても笑顔を見せるのが重要だ。
「あ、ああ一応小さい宿屋だが一軒だけあるぞ。だが、まだ空いてないだろうな」
30代半ばの狩人の言葉にジェドとシアは警戒感を強める。この狩人は『まだ』空いていないと言った。『もう』ではなく『まだ』という言葉はジェドとシアにとって回れ右して村から出て行くのを決心させるには十分な言葉だった。
(怪しいを通り越して危険だな)
(これは確定ね。さっさと逃げるに限るわ)
ジェドとシアは一刻も早くこの場から立ち去りたいところであったがこの場からいきなり逃亡すればこの狩人達が牙をむくかも知れない。そう思うとさっさとやり過ごしてからこの村から逃亡する事にした方がはるかに危険が少ない。
「そうですか、それでは時間を潰してからその宿屋に行くので大体の場所だけ教えてくれませんか?」
「ああ、この通りをまっすぐ行くと大きな屋敷があるんだ。その屋敷の門から右に曲がってしばらく進むと看板があるよ」
「「ありがとうございます」」
ジェドとシアが同時に頭を下げさっさと向かう事にする。もちろんそのまま泊まるなんてこれっぽっちも思っていない。この2人の狩人と一刻も早く別れてから村を出るつもりだったのだ。
だが、その2人の計画はいきなり頓挫する。
30代の狩人が2人を呼び止めたのだ。
「な、なんでしょうか?」
ジェドは顔が引きつりそうになるのをなんとか堪えると、声をかけた狩人に返答する。
「いやな、すまないが2人に依頼したいことがあるんだ」
「い、依頼ですか?」
ジェドは何気なく返答していたが、心の中では『嫌に決まってんだろ!!』と叫んでいる。
「ああ、この村はなんでかしらないけど冒険者がまったく立ち寄らないんだ。おかげで本来冒険者に依頼するような事も俺達でやらなくちゃならん」
「はぁ」
「詳しい内容と報酬の件は村長に聞いてほしいんだが…どうだ?」
30代の狩人は明るく尋ねる。
ジェドとシアの中では『全力で拒否』だったのだが、もしここで拒否をすればこの2人の狩人がどのような行動に出るかわからない。ここはできるだけ危険を避けるべきだと2人は判断する。ジェドとシアは視線を交わすと頷き合う。どうやら危険は出来るだけ避けるべしという考えはお互いに共有しているらしい。
「ええ、良いですよ」
「村長の場所を教えてくれれば私達で行けますよ」
ジェドとシアの言葉だったが、狩人達には通じなかったらしい。
「そうかそうか、それは助かる。でもいきなり村長に君達2人では向こうも困るだろうから俺達で君達を紹介するよ」
2人の申し出にジェドとシアは顔が引きつりそうだったが、こればかりはしょうが無い。もともとダメ元で言ってみただけだったので、この返答は予想の範囲内だったのだ。だが予想の範囲内とは言っても少しは期待していたために顔が引きつるのは自然の流れだった。
「それは助かります」
ジェドとシアは2人に礼を言う。
「それでは案内しよう」
2人の狩人が2人を先導しながら歩き出す。ジェドとシアは自然と足取りが重くなるのであった。
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