第14話 因果応報④

 ジェドとシアはゴブリンをさらに3グループ斃し計37体のゴブリンを討伐した。昨日の闇犬やみいぬと併せると全部で60体程の魔物を討伐したことになる。


 ゴブリン30体で銀貨3枚と60枚、端数の7体分は今回のゴブリン討伐は一体あたり銅貨12枚となるので銅貨84枚となる。合計銀貨4枚と銅貨24枚となる。


 闇犬やみいぬは合計21体、相場は10体あたり銀貨2枚であり、銀貨4枚となる。今回の討伐任務でジェドとシアは合計銀貨8枚と銅貨24枚という素晴らしい成果だった。


 ずっしりと重くなった討伐証拠品の入った袋を見てジェドとシアはついつい頬が緩んでいた。


「シアやったな」

「うん、銀貨8枚なんて大収穫じゃない」

「ああ、もう少し頑張れば金貨までいくぞ」

「ええ、手持ちの食料にはまだ余裕があるからもう少し頑張りましょう」


 ジェドとシアは予想以上に上手くいったためについつい気が大きくなっていたのである。


「さて…ゴブリンを探すとしよう」

「ええ」


 ジェドとシアは森の中に入っていきさらにゴブリンを探し始める。だが残念な事にこの日はゴブリンに遭遇することなく、日が傾いてきたことで今日の仕事を終えることにする。


 ジェドとシアは森の中を歩く。森の中はもうかなり暗くなっており、かなり視界が効かなくなりつつある。


「ん…ジェド、気付いてる?」

「ああ、なんだろうなここ…」

「ええ、相当昔に人の手が入ったみたいね」


 ジェドとシアは自分達が歩いている所が森の中にしては妙に歩きやすいのだ。もちろん草は生えているため元街道みたいな感じなのだが。


「ひょっとして、ここが昨晩の言ってた狩人の村に通じる道…そんなわけないか」

「確かにこれは違うわね」


 ジェドが自分の考えを自ら否定する。いくらなんでもここがかつて街道であったと言ってもここまで荒れ放題の先に村があるとは考えづらかった。


「この暗さじゃあ、危険だから良い場所を見つけてそこで今夜は泊まろう」

「そうね」


 ジェドの提案にシアもすぐに賛意を示すと警戒しながら歩き始める。するとしばらく行ったところに少々開けたスペースがあったのでそこで野営することにした。


 そこは草があまり生えておらず、木も生えていないちょっとした場所である。


「よし、今晩はここで泊まることにしよう」

「そうね。でも残念だけどこれからじゃあ薪を集めることは出来ないからこのまま寝て、日が昇ったら帰りましょう」

「ああ」


 ジェドとシアは荷物を下ろすと座り込む。


 鍋を置くとその中にシアが【水瓶アクエリアス】で水を貯める。【水瓶アクエリアス】はその名の通り水を精製する魔術であり、旅をすることが多い冒険者にとって習得している魔術師が一人いるだけで旅の負担は一気に軽くなる。


 旅をするにあたり水の確保は言うまでもなく重要だが、水を大量に持ち運ぶことは大変な労力を要することになる。ところが【水瓶アクエリアス】を習得している魔術師が一人いれば水の確保は容易になる。

 もちろん、【水瓶アクエリアス】は魔術であるために魔力が尽きた状況では使用することは出来ないがそれは非常時の事なのだ。


 シアは一年間のジルベ村の活動の中で、優先的に覚えたのが【水瓶アクエリアス】、【照明イルミネーション】、【発火イグニット】というような旅を補助するものだった。


 二人は鍋に張られた水を自分の水筒の中に詰める。補給できるときに補給しておかないといざという時に困るのだ。ジェドとシアはまず準備をしてから休むようにしており翌日すぐに立てるようにしておくのだ。


 これもジェドとシアが決めていたことであり、突然の襲撃であっても着の身着のまま逃げるという事を防ぐためである。


 翌日の準備を済ませたジェドとシアは大きめの木を背にして寄り添って休む事にした。背後から攻撃される危険性を少なくするためである。


 いつもは横になって休むのだが、今夜は火をたくことが出来なかったために、断念した。


「ジェド、欲張っちゃわないであの時に戻れば良かったわ。ごめんね」


 シアは欲張ってしまいさっさと帰らなかった事を詫びた。


「いや、俺ももう少し頑張れば金貨まで手が届くと思ってたから止めなかったし、シアが言わなければ俺が言い出してたさ」


 ジェドは苦笑しながらシアの言葉に返す。


 ジェドにとってシアは対等のパートナーでありそこに上下関係は一切無い。たとえ言いだしたのがどちらであっても結果には二人で責任を負うのが当然だ。シアの謝罪はまったくの筋違いであるとジェドは考えていたのだ。


「シア、何度も言ってるだろ。俺達チームの結果は俺も関わっているってだから俺に謝罪するのは筋違いだ」

「でも…」

「それともシアは俺の事を対等のパートナーと見てないのか?」


 ジェドの言葉にシアは慌てて否定の言葉を言う。


「そんなわけないわ、私はジェドの事をパートナーとして見てるわ」


 シアの言葉にジェドは小さく笑う。いままで何度もくり返してきたやり取りであり、これからも何度もくり返すやり取りだという思いがジェドに笑みを生じさせたのだ。


「まあ、そういう事だから大丈夫さ」

「うん」


 シアはどうも自己評価が低いとジェドは思っていた。本来、シアの魔術師の腕前は同年代の魔術師に比べて頭一つ分抜けているとジェドは思っている。一度『シルバー』クラスの同年代の魔術師の腕前を見たのだが1年前のシアよりも実力は低かった。


 おそらく一緒にいたチームのおかげで安全に魔術をとなえるたり出来るために危機感が足りないのだろう。といってもジェドとシアも1年前はその魔術師と同じだったのだ。ウォルモンド達に守られながら、ぬくぬくと活動していた。


 だが、その時期は過ぎ去り自分達の力でやっていかなくてはならなくなった時に、二人は変わったのだ。いや変わらざるを得なかったのだ。呑気に詠唱をする時間はないし、ジェドはジェドで一人で多数を相手取るのが当たり前になっていた。1年前のパーティ解散はジェドとシアに大きな意識の変革を強いたのだった。


 その結果、ジェドもシアも1年前とはかけ離れた実力の持ち主になったのである。にも関わらずシアの自己評価が低いのはジェドが常に最前線で食い止め、傷を負うことが多いからである。ジェドが傷を負う度にシアは自分が足を引っ張っているという思いを強くしているのだ。


 実際のところ、ジェドが安心して戦っているのはシアが後衛にいて様々な支援をしてくれているからなのだが、シアにはその辺りの認識が足りていなかった。それが自己評価を低くしていたのである。


「さて、それよりも少しでも眠ることにしよう」

「わかったわ、お休みなさい」

「ああ、お休み」


 ジェドとシアは休もうと目を閉じかける。


 だが、すぐに目を開けることになる。



 なぜなら二人の狩人が2人の前に立っていたからだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る