第13話 因果応報③
「ん?」
真夜中になりジェドは目を覚ます。周囲にはまったく光がない。すでにたき火も消えていたためだ。
「シア…シア…」
ジェドはシアに潜めた声で呼ぶ。シアも目を覚ましていたようですぐにジェドの呼びかけに反応する。
「起きてるわ…」
シアの言葉を受けてジェドは起き出す。手早く剣に手を伸ばすと周囲を伺う。二人が目を覚ましたのは周囲で人の話し声が聞こえたからだ。こんな真夜中にしかも街道から逸れた場所で人の話し声がするというのは少し常識では考えづらい。
普通に考えればこんな時間にこんな場所にいるのは犯罪者関連の可能性が強い。ジェドやシアのような冒険者の可能性も否定できないが通常、冒険者達は翌日の事を考えて早めに就寝するのが基本のためにこの時間に活動することはほとんど無いのだ。
「シア…物音を立てるなよ」
「わかってる」
質の悪い盗賊かも知れない以上、ジェドとシアとすればじっと行きを潜めてやり過ごすのが一番と判断したのだ。
茂みの向こうから声がどんどん近付いてくる。ただ、ジェドとシアのいるルートから逸れているらしくジェドとシアが動かない限りは鉢合わせする可能性はないようだ。
「しかし、最近はオークとかゴブリンが多くなって来たな」
「特にゴブリンだな。冒険者達がなんでか知らんがゴブリン討伐に乗り気でないらしい」
「さぁな」
「うちの村にもギルドが出来てくれればな。そうすりゃゴブリンの活動地域が近いから冒険者も活動がしやすいだろうけどな」
「まぁ…あんなことがあればな…」
「ああ、村長が…ん?」
「おいラルク、猪だぞ」
「ああ、今日は初っ端から運がいいぜ」
狩人と思われる男2人は獲物を見つけたらしく、ジェドとシアからどんどん離れていく。離れていった2人の狩人の気配が完全に消えてからジェドとシアは話し始める。
「どうやら狩人だったみたいね」
「ああ、なぁシア…さっきの2人の会話であれっと思った事があるんだが…」
「私もよ…」
「さっきの2人の会話からだと私達の目的地の近くに村があるという事よね」
「ああ、ギルドの受付のお姉さんはなんで近くに村がある事を言わなかったんだ?」
「確かにそうね。まるで野宿する方が良いと言わんばかりよね」
ジェドとシアが首を捻る。効率が悪いからゴブリン討伐を受ける冒険者が少ないと受付の女性は確かに言ったのだ。だが、先程の狩人と思われる2人はゴブリンの活動地域の近くに村があるように言っていた。
「村長になにかしら問題があるような言い方をしてたな」
「うん、『あんなこと』が何か分からないけどなにかしら冒険者に対して悪さをしたというわけかしら?」
「あんまり立ち寄るべき村じゃないのかも知れないな」
「そうね、それからもう一つあるでしょ」
「ああ…というよりもそれがメインだな」
「そうよね」
「『初っ端』と言ったよな」
「うん」
ジェドとシアは狩人の最後の『今日は初っ端』という言葉に疑問を持っていたのだ。こんな真夜中に初っ端?明らかに異常な状況だと思わざるを得ない。
「それからあの狩人さん達が言った『今日』という言い方も気になるわ」
「ああ、こんな真夜中に『今日は』という言い方は不自然だな。なぜ『今夜』という言い方じゃないんだ?」
ジェドとシアは何となく先程の狩人達に薄気味の悪いものを感じ始めていた。勘と呼ぶには材料が揃いすぎておりジェドとシアはその村に近付くのを避けることにしようと決定付けた。
「まぁ…出来る事なら関わり合いにならない方向で行こう」
「そうね」
ジェドとシアはそれから場所を少し移動し、狩人の気配がないことを確認して再び睡眠をとることにした。
翌朝、日の光を感じるとジェドとシアは起き出す。昨晩は思わぬ情報が手に入ったのは幸運だったが、気を張っていたために少し睡眠が浅くなったのだ。それでも疲れはかなりとれているのですぐにでも出発は可能だった。
ジェドとシアは昨晩のメニューと同じく干し肉、乾パン、チーズという質素すぎる食事を終えるとさっそくゴブリンの活動地域まで歩き出す。
この時間から出発すれば2時間か2時間半で到着する予定だった。1時間ほど歩くとシアがジェドに声をかける。
「ジェド…これ」
シアが指し示した所を見ると街道に足跡がいくつかあった。足跡からゴブリン、オークのようだ。どうやらゴブリン達の活動地域に入ったらしい。ジェドとシアはお互いに頷く。
ジェドとシアは街道を逸れ茂みの中に入っていく。街道をそのまま進めばゴブリン、オーク達に先手をとられる可能性がある故にまずは見つからないように動く必要があったのだ。
ジェドは魔力操作により聴力を強化すると地面に耳をつける。もちろんゴブリン達の足音を聞くためだ。ジェドが耳を地面に着けている間、シアも聴力を強化して周囲を警戒する。
「…いた」
ジェドが耳を地面から離すとシアに顔を向ける。
「シア、あっちにゴブリンと思われる足音がある。数は10体程だ」
「斥候かしら…」
「本隊らしき足音はしないから多分単独のチームだ」
「よし、行こうジェド」
「ああ」
ジェドとシアは移動を開始する。自分の気配を出来るだけ消しゴブリン達の不意をつくつもりだったのだ。
ゴブリン達10体をジェドとシアは視界に捉える。ボウガンの矢を装填すると10体のゴブリン達の誰を射殺すかを選び始める。第一候補はこのチームのリーダー、第二候補は魔術師、第三候補は弓を持っているゴブリンだ。
かつてジェドとシアはとにかく数を減らすことばかり考えて目についたゴブリンから射殺そうとしていたが、それでは戦力を削ぐという観点から考えれば悪手である事をすでに学んでいた。
ジェドとシアはゴブリン達のリーダーを探す。ゴブリンは人間の作った区分けにおいて魔物ではあるが、さらに亜人種という大まかな区分けになるのだ。亜人種は知的生命体であり戦術がある相手なのだ。戦術があると言うことは命令を出す存在、すなわちリーダーがいるのだ。そのリーダーをまず斃せば一気にゴブリン達は混乱しその混乱をつくことで有利に戦闘を行うことが出来るのだ。
「あいつだ…」
ジェドが狙いを定めたのは群れの真ん中にいるゴブリンだ。ジェドがリーダーと定めた理由は周囲との位置だった。他のゴブリンが守るように真ん中のゴブリンに展開しているのだ。ジェドはこの陣形を見てリーダーを見定めたのだ。
バシュン!!
ジェドがゴブリンのリーダーに向けボウガンを放つ。ジェドの放った矢は見事にゴブリンの後頭部に突き刺さり頭を射貫かれたゴブリンはそのまま倒れ込む。ピクリとも動かない所を見るとどうやらすでに絶命しているらしい。
ジェドはすかさず第二射の用意に入る。敵襲を受けた事に気付いたゴブリン達は大いに狼狽えている。誰も指示を出さないところを見るとジェドの見定めた通り真ん中にいたゴブリンがリーダーで正解だったらしい。
狼狽えているゴブリン達に今度はシアがボウガンの矢を放つ。周囲を見渡すゴブリンの中で背を向けているゴブリンにシアは狙いを定めており、ゴブリンの延髄に矢は突き刺さる。
さすがに二射を見ればジェドとシアの位置をゴブリン達が察する。盾を構えるとゴブリン達はジェドとシアに向かってきた。
ジェドはボウガンの矢を装填はしたが、射殺す事は出来ないと判断し、剣を抜きゴブリン達に斬りかかった。
ジェドは剣を魔力により強化している。そのためジェドの剣を受けたゴブリンを剣ごと両断する。一体目を斬り捨てたジェドは次のゴブリンに斬りかかる。今度のゴブリンもジェドの横薙ぎの斬撃を剣で受け止めようとするが、またもジェドの剣が剣ごとゴブリンの腹を斬り裂く。
2体のゴブリンが立て続けに斬られた事で他のゴブリン達は動揺する。ジェドはニヤリと嗤うと狼狽えるゴブリンの間合いに飛び込むと胸の位置に突きを放つ。ジェドの突きは見事にゴブリンの胸を貫く。胸を貫かれたゴブリンは苦痛に顔を歪ませるが目から光が失われるとすべての力を失い倒れ込む。
バシュン!!
そこにシアの放った二本目の矢がゴブリンの喉に命中する。
もはや戦いは一方的だった。
ジェドとシアがゴブリンとの戦闘に要した時間はわずか5分、リーダーがまず倒れた事で混乱し、その隙を逃すことなく攻撃を仕掛けた故の圧勝だった。
「よし!!今日は幸先がいいな」
「うん」
ジェドとシアの討伐任務は上々の滑り出しだった。
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