第12話 因果応報②
ジェドとシアは受付の女性に指摘された場所に向け出発する。すでに正午を過ぎており今から村を出る冒険者は少ない。むしろこれから冒険者達がこの村に戻って来始める時間だった。
「少し急ごうか」
ジェドがシアに声をかける。時間が時間なので野営することはまず間違いないのだが、それでもできるだけ距離を稼いでおきたいというのが人情というものだ。
「そうね」
シアが同意すると二人は魔力操作によって自分の運動能力を強化する。2人とも1年間の実戦を経て実力がかなり付いたが、その中でも魔力量と魔力操作は1年前とは比べものにならないほどの成長を遂げていた。
「行こう」
「うん」
ジェドとシアは重い荷物を持ってるとは思えないほどの軽やかな動きで目的地へ向かって走り出す。1年前であれば2~300メートル程走っただけで魔力が底をついていたのだが現在では10㎞程なら魔力が尽きることもなくなった。
これは魔力量が増えたのもあるが、それ以上に魔力操作の技術が向上したことで魔力の消費量が抑えられた結果だった。さすがにたった1年では30倍も魔力量が向上すると言う事はない。
「ん?」
二人が走っているとジェドが異変に気付く。周囲から獣の鳴き声が聞こえだしたのである。その鳴き声を聞いてからジェドとシアは立ち止まると顔を見合わせる。これはマズイといういう意識がまず現れる。
「シア、木の上に行こう」
「そうね」
ジェドの提案にシアが乗ると手頃な木を探す。
「あれだな」
ジェドが指し示した木はかなり高い木で枝もしっかりしているため、荷物を抱えた二人が昇っても折れるという可能性はかなり少ない。
シアは頷くと二人は木の方に移動する。
「よっ」
ジェドがまず木に手と足をかけ登り始める。魔力による肉体強化を当然のごとく行っており、木登り程度なら何の問題もなく行えるのだ。
続いてシアが木をするすると登る。シアの方も魔力による肉体強化をしており問題なく登ることが出来たのだ。
「さて…」
ジェドが荷物からボウガンと矢を取り出す。確実に獣たちは自分達を獲物と思っているだろうからすぐにここに現れる事だろう。となるとこの待っている間にボウガンの準備をするのは至極当然だった。
二人が木を登ってしばらくすると周囲から獣型の魔物達が現れる。その魔物達の形は犬そっくりだが体は真っ黒であり、目だけが赤くギラギラしている。体の黒も黒曜石に様な光沢のある黒ではなく光を呑み込む闇のような黒だった。
『闇犬やみいぬ』と呼ばれる魔物達であり集団で狩りを行うという魔物だった。狩りの対象は獣、人間、ゴブリンなどの亜人種とかなり幅広い。その闇犬やみいぬが30頭程周囲から集まってきた。
「闇犬やみいぬか…」
ジェドの言葉には厄介な相手と遭遇したという感情が込められていた。
『グルゥゥゥゥゥ…』
『ワァンワァン!!!!!!』
『ウォォォォォン!!!!』
闇犬やみいぬたちは二人の登っている木の周囲を取り囲むと一斉に吠え出す。30頭もの闇犬やみいぬが声を揃えて一斉に吠えるというのは中々の恐怖である。そしてなによりもうるさい。
ジェドはボウガンの狙いを定めると激しく吠え立てる闇犬やみいぬに対し容赦なくボウガンの矢を放った。
バシュン!!
『キャウン!!』
見事命中したジェドが放った矢は闇犬やみいぬの胴体を射貫き、射貫かれた闇犬やみいぬはその場に倒れ込む。
「まず一匹…」
ジェドは冷たく言い放つと次の矢の準備を始める。ジェドがボウガンの矢の準備をする間にシアが【火矢ファイヤーアロー】の詠唱を終え、闇犬やみいぬに放つ。
放った火矢ファイヤーアローは闇犬やみいぬ達に着弾し顔面を射貫かれた闇犬やみいぬが数匹転がる。
バシュン!!
『キャウン!!』
さらにジェドがボウガンの矢を放つと今度は闇犬やみいぬの顔面を射貫いた。
闇犬やみいぬ達は木に登る術を持たないために、ジェドとシアに一方的に攻撃を受ける結果となった。
闇犬やみいぬ達の死体が20を超えた頃にようやく諦めたのか闇犬やみいぬ達は二人から離れていく。
二人はしばらく様子を伺っていたが、どうやら危機は去ったと言う事で木から降りることにする。
「ふう…」
ジェドとシアは思いがけない闇犬やみいぬ達の襲撃を難なく乗り越える。一応これも討伐対象になることから討伐の証拠を持ち帰ることにする。闇犬やみいぬの証拠品はゴブリンと同じく左耳だ。
二人は左耳を切り取ると血抜きをしてから袋に入れる。あまり血の臭いを振りまきながら進めば魔物達を呼び寄せることになるのだが今回ばかりは仕方が無い。
「思わぬ臨時収入が入ったな」
「そうね」
二人は笑い合うと移動を開始する。すでに日は大分傾いているので、野営に向いている場所を探しながら移動していく。
街道から逸れたところに手頃な場所があったため二人はそこで野営をとることにする。
ジェドとシアは荷物を下ろし野営の準備に入る。二人は仕事を分担する事をしない。同じ作業を二人で行う事にしていた。これは効率の面ではあまり褒められた方法ではないのかも知れないが安全面を考えると仕方のない事であった。何しろ二人しかいない以上、分担するという事は単独で動く事になるのだ。上位の冒険者であれば可能だろうがジェドとシアにはその実力はないために分担する事無く二人で行う事に自然と落ち着いたのだ。
野営の準備が滞りなく終わるとジェドとシアは干し肉と乾パン、チーズだけの質素すぎる食事を終えると横になる。火は一応つけたままだ。
ジェドとシアの現在の財力ではテントは贅沢品にカテゴライズされる。そのためマントに包まって眠るというのが二人の野営だった。本来これは避けねばならない事である。夜露に晒されて眠るというのはやはり体に良くないのだ。防寒用のマントを羽織って寝るのは実は最低ラインの方法であった(マントすら使用せずに野宿するのは冒険者として論外)。
「シア…」
ジェドが小さくなり始めたたき火の向こう側のシアに話しかける。
「どうしたの?」
「テント欲しいな…」
「ふふ、そうね。星空を眺めながら寝るというのも好きなんだけど体の事を考えたらね」
「今回の臨時収入で買える?」
「う~ん、多分あとちょっと足りない」
「そっか」
シアの言葉にジェドは少し残念そうに呟く。
ジェドとしてみればシアが体を崩してしまうことだけは何がなんでも避けたかったのだ。
(がんばって稼がないとな…)
別に金がすべてとは思わないが金が無いと自分達の行動が大きく狭められるのもまた事実であった。
「ジェド…」
「何?」
「私ね…別に辛くないよ」
「え?」
「だから少しずつ進んで行こうね」
「…ああ」
ジェドはシアが何を言いたいかを察した。シアは先程の会話からジェドがシアのためにもっと頑張ろうと奮起して無茶をするのを止めたのだ。ジェドはシアの気遣いに密かに感謝するが男として甲斐性がないような気がした。
(シアは俺が幸せにするんだ)
ジェドは心の中で決意を明らかにするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます