第16話 因果応報⑥

 ジェドとシアは狩人に連れられ村の中を歩く。


 本当に不気味な村だ。なぜここまで不気味なのかというと明かりが一切ついていないのだ。これで全員が寝ているというのなら明かりが一切ついていないのも納得することが出来るのだが、村の人々は当たり前のように活動しているのだ。


「今日は良い天気ね~」

「聞いた?ジェイクが」

「あはは」


 すれ違う人々の会話が2人の耳に入ってくる。確かに話の内容に不自然なものはない。どこの村でも当たり前の様に展開されているような話ばかりだ。


 だが、時刻は夜中であり、明かりは一切ついていないというこの村の状況を考えれ異常さが際立っている。


(何なのこの村…)

(逆に不気味すぎるだろ)


 ジェドとシアは表面上は一切、警戒を出さずに狩人の先導にしたがって歩いている。


「あそこだよ」


 40代の狩人が指を差した方向を見ると大きな家がある。まぁ村長と言ってもこの村の支配者ではなく代表者という位置づけなのだから不自然な程、豪華というわけではないし逆にみすぼらしい訳でもなかった。


「ちょっと待っててね」


 40代の狩人はそう一声かけると中に入っていく。話を通しに行ったのだろうが、ジェドとシアにしてみれば30代の狩人も一緒に入って欲しかった。すぐに逃げ出したのに…。


 しばらくするとドアが開き、40代の狩人が顔を出すとジェドとシアを手招きする。


(問題ありの村長か…話は半分以下にしておくべきだな)

(冒険者が寄りつかなくなるぐらいだからね…よっぽどの事をしたんでしょうね)


 ジェドとシアはすでに村長が何かしら冒険者にしたという事を知っているために村長をまったく信用していない。


「「失礼します」」


 ジェドとシアは声を揃えて村長宅に入る。当たり前だが明かりは一切無く真っ暗だ。カーテンが開いているために月明かりが差し込んでいるため部屋の様子が少し分かるぐらいである。


「よく来たね。私がこのウクナ村の村長のベン=レクンだよ」


 暗がりのために顔は見えないが優しそうな声である。だがジェドとシアはこの村の連中に気を許していないので優しそうな声に欺されるような事はしない。


「あ、冒険者のジェド=マーキスです」

「同じく冒険者のシア=マーキスです」


 ジェドの姓は当然の事ながら偽名である。2人は孤児であったために姓がないのだ。それでも2人が孤児であり身寄りが無いことを知られるとこの村の連中には何らかの不都合があると考えたのだ。


 そのために『身寄りがいますよ』という事を示すための偽名であった。


 シアがジェドと同じ姓を名乗ったのはジェドの妹を装うためである。


「おやおや、随分と若いご夫婦だね」


 楽しそうにベンは笑う。


「いえいえ、シアは俺の妹ですよ」

「おや、兄妹だったのかい」

「ええ、家のしきたりで15になったら冒険者として3年間活動しなくちゃいけないんです。シアは俺と年子なので一緒に修行に出ることになったんです」

「君達の言葉からだと家は冒険者の家系なのかね」

「はい、父はジルガルド地方にあるレッジという村にある冒険者ギルドのギルドマスターの補佐をしています」

「ほうそうかそうか」


 ジェドは口から出任せを言っている。もちろんレッジ村などこのローエンシアに存在しない架空の村だ。ジェドは真実性を持たせるために架空の村の架空の家族の事を淀みなくつたえていく。


 なぜここまでジェドが架空の村と家族の事を話せるかというとシアと2人であらかじめ定めておいたからだ。いつ身分を偽る必要があるかわからないために不自然でない話を用意していたのだ。


 もちろん、相手がジルガルド地方や公的機関に仕える場合は別の設定を考えている。


「さて、冒険者の家系の君達なら私達の依頼を受けて達成してくれると思うよ」

「それで依頼内容は?」

「ふむ、実は村の近くの洞窟にトロルが住み着いたのだ。幸いこの村の者に被害は出ていないのだがこのままでは落ち落ち寝ることも出来ん」

「なるほど…トロルですか」


 トロルは身長2~3メートルほどの亜人種であり戦闘力はずば抜けている。巨大な体躯から繰り出される一撃は岩をも砕くと言われる。ただ知能はそれほど高くないので魔術を使用する者はほとんどいなかった。


 正直なところ、ジェドとシアだけでは荷の重い相手だ。


「残念ですがトロル相手では俺達だけでは無理です」

「ええ、トロルが相手では私達では…」


 ジェドとシアはトロルを相手にするには実力が足りないと依頼を辞退しようとする。もちろん得体の知れない村からの依頼を断るべきだという思いもあるのだが、トロル討伐ともなれば絶対に断るべき依頼だった。


「もちろん、君達だけで討伐してくれと言っているわけではないよ」

「「え?」」 

「後ろの2人、ラルクとキースを始め村の男達も行くからそれに参加してくれれば良いいんだよ」


 ベンはどうあってもジェドとシアをトロルの巣穴に送り込みたいらしい。男達は実際には監視だという事を察した。


 それは同時にジェドとシアはこの村に捕まった事を意味している。もし、辞退すれば強硬手段に出る可能性がある。もちろんジェドとシアも冒険者であり戦う術がないわけではないがこの村の男達の実力が上回っていた時にはどうなるか火をみるよりも明らかだった。


 それにこの村の異様さにジェドとシアはできるだけ事を荒立てたくなかったのだ。


(ちっ…これはもう仕方ないか、寝込みを襲うか)

(この状況でトロル討伐か…奇襲しかないわね)


 ジェドとシアはトロルの寝込みを襲う事に頭の中で決定する。依頼をさっさと果たしてしまいこの村から出るべきだろう。


「わかりました」

「おお、やってくれるか」


 ジェドの承諾の言葉にベンは嬉しそうな声を出す。


「それで報酬の件ですが…」


 ジェドが報酬の件を申し出たときにベンがすかさず言葉を被せてきた。


「もちろん討伐してくれれば一人あたり金貨1枚ずつだ」

「「え?そんなに!?」」


 冒険者ギルドでのトロル討伐任務では一体当たり銀貨3枚だ。それなのにベンが提示したのは相場の約7倍だ。いくらなんでも破格すぎるだろう。


(まぁ…空手形からてがただからないくら額面を大きく書いても問題ないと考えてるんだろうな)

(いくらなんでも高すぎる。払う気はないわね)


 ジェドとシアはベンの提示した額に空手形である事を察する。おそらくジェドとシアが年若いために金で釣ろうという魂胆なのだろう。随分と舐められたものである。


「そうですか、そんなにいただけるとなると頑張らないといけませんね」

「そうね、かならず期待に応えて見せます」


 ジェドとシアが嬉しそうに言うとベンも嬉しそうな声を出す。


「トロル討伐にはそれぐらいかかるものだよ。相場よりもちょっと色をつけただけだから驚くほどのものじゃないだろう」


 ベンの言葉にジェドとシアは内心首を傾げる。何か話がかみ合っていないのだ。


「ああ、そうそうトロルを討伐した時にトロルの耳を討伐の証拠として持っていくことを許してくれますか。ギルドの方に提出すると査定によってランクが上がるんです」

「もちろんだ。我々は冒険者ではないからね」

「ありがとうございます」


 ベンの快諾にジェドとシアは礼を言う。少なくともこれでただ働きはなくなったわけだ。


 ジェドとシアは怪しすぎる村の厳しい依頼に挑むことになったのである。

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