第9話 戦い終わって…

 ジェドとシアは何とかゴブリン達を撃破する事に成功すると、討伐の証拠を集めることにする。


 ホブゴブリンは他のゴブリン達と違い、角という特徴があるので角を剣で切り落とした。すでに絶命しているホブゴブリンだがひょっとして動き出すのではないかという不安がジェドとシアにはあったのだ。


 だが当然それは杞憂であり、ジェドは残った魔力を剣に注ぎ角を斬り落とす。


 斬り落とした角を袋の中に入れ、先程の戦いの場所に疲れた体を引きずりながら行き、戦利品の耳をそれぞれ切り落とす。幸いと言っていいか判断が分かれるところだが、酷い火傷を追っていたゴブリンはすでに事切れていた。


 命をつなぎ止めたといっても危険な状況であった事は間違いなく、治療を受けることが出来なかったゴブリン達は命を拾うことは結局出来なかったのである。


 ジェドとシアはゴブリンが事切れていたことに正直、ほっとしていた。もしこのゴブリン達の行きがまだあったときにはジェドとシアがとどめを刺すことになる。だが、ジェドもシアも動けない者にとどめを刺すというのはさすがにハードルが高かったのだ。


 証拠品の回収は滞りなく終わり、ジェドとシアは村に帰還することが出来たのである。


 討伐したゴブリンは20体ちょうど、ホブゴブリンが1体であり何とか本日の宿代は稼ぐ事は出来たという事だ。





「ふぅ…」


 ジルベ村にたどり着くとジェドはようやく緊張を解いた。


「はぁ…」


 ジェドが緊張を解いた後にシアも緊張を解く。


 二人は冒険者ギルドの支部に向かい受付の女性に討伐完了の報告をして証拠品を提出する。受付の女性は最初ボロボロの二人を見て驚いたが疲れた表情の奥底に活力に満ちた目を見て問題はないと判断しそのまま手続きに入る。


「二人ともお疲れ様。確かにゴブリン20体とホブゴブリン1体の討伐は確認されたわ」


 受付の女性はにっこりと笑い二人を労うと報酬の話に入る。


「ゴブリン10体で銀貨1枚だから銀貨2枚ね。ホブゴブリンは一体討伐で銅貨30枚で合計銀貨2枚、銅貨30枚ね」


 受付の女性は金庫を開けて銀貨2枚と銅貨30枚を二人に渡す。二人は報酬を受け取るとギルドを後にする。


「はぁ…」

「はぁ…」


 ジェドとシアはため息をつき始めた。初めて自分達で手に入れた報酬に感動するかと思えば出てくるのはため息である。その理由は単純で要するに報酬が足りないという事だった。

 なぜなら、宿屋に泊まってしまえば一泊で銀貨2枚が飛んでしまうのだ。つまり今日の報酬は残り『銅貨30枚』という事になるのだ。そこまでかかる理由はジェドとシアは一部屋ずつ借りていたからだ。一部屋銀貨1枚かかるので二部屋借りることになれば銀貨2枚という事になる。

 一部屋を2人で借りた場合は銀貨1枚と銅貨30枚で一部屋借りることが出来るのだ。


「なぁ…」


 ジェドがシアに目を向ける。シアは何をジェドが言おうとしているかがなんとなく分かった。長い付き合いだジェドが何を言いたいかぐらい何となく分かるのである。


「ジェドの言いたいことは分かるわ。今お金を無駄遣いする事はないわ」


 シアの言葉にジェドはポリポリと頬を掻きながら言う。


「そっか…だが、安心しろシア、俺は紳士だ。絶対に手を出さない!!」


 必要以上に力を入れて言うところが実際のところジェドがかなり頑張っている証拠なのだが、シアはその事に気付いていない。


(それって私に魅力がないと言いたいわけ?む~)


 シアは少しばかり機嫌が悪くなったのだが口には出さない。端から見れば初々しいのだが、肝心な所がお互いに伝わっていなかったのだ。


(シアは結局俺の事を単なる幼馴染みとしてしか見てないのかな?)


 ジェドはジェドで小さくため息をついていた。シアが自分を男としてみていないのではないだろうかと考えたのである。





 そして、宿屋に入ると受付にいた30後半の女将さんが二人の顔を見るとにっこりと微笑む。


「二人とも無事で良かったよ」


 なんだかんだ言って二人を心がけてくれる女将だったのだ。


「あ、今日も泊めてくれますか?」


 シアが女将に言うと女将は嬉しそうに言う。


「もちろんさ、2人で銀貨2枚だよ」


 いつもの通り女将が二部屋用意しようとした時にジェドとシアがそれを止める。その事に女将が首を傾げる。


「今日から俺とシアを相部屋にしてください」


 ジェドの言葉に女将はニヤリと笑う。その笑顔を見てジェドとシアは確実に誤解された事を察した。


「おやおや、二人も死線を乗り越えたからいよいよくっついちゃったわけね。若いって良いわね~」

「ち、違います!!私達はまだそんな関係じゃ」

「違うよ女将さん!!俺達が相部屋にするのはお金を節約するためだよ!!」


 ジェドとシアの否定の言葉にも女将はニヤニヤと笑うだけだった。


「わかったよ。確かに相部屋にすればかなり節約できるからね」


 言葉だけなら誤解がとけたと判断できるのだが、二人は女将の表情や口調からまったく誤解が解けてないことを察していた。


「まぁ、がんばりな」


 やけにニヤニヤとしながら鍵を手渡す。その表情を見て二人ははぁとため息をついた。



 それから湯浴みをして体を清潔にして食事をとる。


 その後、疲労がたまっていたのだろうベッドに入りこれからの事を話しているとまずシアが寝息を立て始めた。


「…シア?寝たのか…お前のおかげで今日は死なずにすんだ…あり…が…」


 ジェドはシアが寝たのを確認すると睡魔が襲ってきた。ジェドはそのまま目を閉じると寝息を立て始めた。


(私も同じだよ…ジェドのおかげで死なずに済んだんだよ…ありがとう…)


 ジェドが寝息を立てたのを確認すると片目だけ開けて隣のジェドを見る。


「おやすみ…ジェド、大好き」


 シアは今度こそ目を閉じるとすぐに意識を失った。

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