『王都へ』

第10話 旅立ち

 ホブゴブリンをリーダーとするゴブリン達の討伐任務を達成してから早1年が過ぎていた。


 勿論、その間ずっと相部屋で過ごしていたのだが、二人は男女の仲どころか未だに恋人同士の関係にすらなっていなかった。お互いに奥手な為に恋愛関係は発展しなかったのだ。


 先程奥手という言葉を使ったが実際のところ、ヘタレ同士と言っても差し支えないだろう。


 二人の恋愛事情は進展を見せていないが、冒険者としては二人は着実に実績を積んでいた。ゴブリンの討伐はもはや二人にとって命をかける任務でなくなっていた。


 着実に依頼をこなし節約したことで、ジェドとシアの装備もどんどん整っていった。剣、盾、鎧、杖、ボウガン、スリング、ナイフ、ローブなどのものはこの一年で買い換え新しい物になっていった。


 もはや1年前のジェドとシアでないことは明らかであったのだ。毎日の冒険者としての生活が二人を成長させたのだ。


 そんなある日のこと…


 ジェドの言葉から二人の冒険は新たな局面に入ることになった。


「シア、王都に行かないか?」


 討伐任務を終えて討伐の証拠としてのゴブリンとオークの耳を切り取りながらジェドがシアに言う。


「王都?」

「ああ、この村でのんびり冒険者稼業をやるというのも一つの道なんだがもっと広い世界を見てみたいんだ」


 ジェドの言葉は広い世界に憧れるという少年の願望が見て取れる。シアはジェドのその言葉を聞き考える。確かにここでのんびり冒険者としてやっていくのも悪くないが、不安もあるのだ。

 シアの不安とはこのままここにいたとして自分達の手に負えないような魔物が出た場合にどうなるかという事だった。


 この周辺にでる魔物はゴブリン、オークのような魔物ばかりで戦闘力もそれほど高くない。このままここでゴブリンやオークを狩っていても強くなる事は出来ないだろう。それこそ魔将がここに来た場合には確実にジェドとシアは殺されてしまうだろう。


 そうならないためにも強くなる必要があったのだ。


 シアは生きるには力が必要と考えており、そのためには心地良い場所にいるだけでは生きる力を得ることが出来ないと考えていたのだ。


 シアはその境遇から普通の少女とは明らかに違う人生観を持っていると言って良い。その人生観に従えばジェドの提案を拒否するという選択肢はあり得ないのだ。


「そうね、ジェドの言う通りね。王都に行けば今よりも多くの力を得ることが出来るはずよ」


 シアの言葉にジェドは頷く。ジェドはシアの人生観を理解し共感していたのだ。


「ああ、人を守る力を得るためには広い世界に飛び出すべきだ」

「うん」

「それじゃあ、さっそく準備に取りかかろう」




 ジェドとシアのこの決断が二人の人生を大きく変えることになるのだが、この時二人はその事を知る由もなかった。







 翌日からジェドとシアは王都への旅の準備に取りかかる。


 ジルベ村から王都までの馬なら2週間、徒歩なら1ヶ月半かかる。理想とすれば馬車を購入するのが理想なのだが王都についてからの生活の事を考えればそのような馬車を購入するのは少々厳しいといわざるを得ない。


 となれば徒歩と乗り合い馬車をくり返し王都に向かうという方法しかない。


 それでも現在の二人の所持金から考えると節約しなければならないのだ。逆に言えば節約すればすぐにでも出発できると言う事だった。


 二人は当然、すぐに出発することを選び、携帯食である干し肉、乾パンを購入し準備を済ませると、冒険者ギルドに挨拶に行き、宿屋に王都に行くことを告げ、馴染みの店に顔を出した(といっても雑貨屋一軒だったが)。


 みな驚き別れを惜しんでくれたが、最終的には激励の言葉をもらうことが出来た。



 村の入り口に二人と交流のあった人達が見送りに来てくれた。


「死ぬんじゃねえぞ、ジェド、シアちゃん」

「シアちゃん、体に気を付けるんだよ」

「ジェド、シアちゃんを体を張ってでも守るんだよ」


 ほとんどが二人を心配する声だったが、逆にそれが二人には村の人達との絆を感じさせる。何だかんだ言ってこのジルベ村には5年も住んでいたのだ。その村を出ることに対して何の感慨も湧かないほど二人はこの村に溶け込めなかったわけではない。


「じゃあ、行ってくる」

「みなさん、またね」


 ジェドとシアは村の人々にあいさつをすると手を振り王都へ向けて出発する。



 こうして、ジェドとシアはジルベ村を旅立つことになったのであった。 

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