第8話 再戦④
『ガァァァァァッァァ!!!!』
ホブゴブリンは咆哮をあげるとジェドとシアに向かって突っ込んでくる。
ジェドは足に矢傷を負っているためにシアが前面に出た。シアは残った魔力を身体能力強化につぎ込みホブゴブリンを迎え撃つ。
だが、元々のシアの近接能力は低いため間違いなくホブゴブリンに勝利することは出来ない。もちろんその事はシアも十分に理解している。シアの目的は時間を稼ぐ事である。シアは防御に徹することでホブゴブリンの剣を躱し始める。
相手を斃す事を目的としているのならば大きく攻撃を避けるのは悪手であるが、時間を稼ぐ事を考えているのであれば大きく避けるのは問題ない。
シアは大きく振りかぶるホブゴブリンの攻撃を躱していく。
ジェドはその間に足に刺さった矢を抜き取ると傷口を固く縛る。幸い出血はそれほど酷くなかったので固く縛る必要はそれほどでも無い。むしろ固く縛ることで痛みを和らげる効果を狙ってジェドは固く縛ったのだ。
「シア!!大丈夫だ」
ジェドは立ち上がるとホブゴブリンに向かって斬撃を見舞う。無傷の時よりも劣るが何とか戦えるというレベルの斬撃であった。
だが、当然ながらジェドの斬撃をホブゴブリンはあっさりと剣で受け止めるとジェドをはじき飛ばす。弾かれたジェドは地面を転がるがすぐに立ち上がりホブゴブリンを睨みつける。
「シア、下がれ!!」
「うん」
ジェドの言葉にシアは黙って従う。
『ギム!!!アジウベ!!!』
ホブゴブリンは倒れ込むゴブリン達を大声で怒鳴りつける。するとゴブリン達のうち、戦闘最初の段階でジェドに足と手を斬られたゴブリン達が立ち上がる。その数は4体、だが、その戦闘力はほとんど期待できそうもない。
(どうやら『立て!!てめぇら!!』とか言ったらしいな)
ジェドはホブゴブリンが焦っていると感じていた。もし余裕があるのなら怪我をして倒れ込んでいるゴブリンを叱咤するような事はしないだろう。
「シア!!ここまでだ!!逃げるぞ!!」
「わかったわ」
ジェドの提案をシアはあっさりと了承する。
シアがまず駆け出し、ジェドがそれを追う形でこの場から逃げ出す。この逃走劇にホブゴブリン達はまず呆気にとられ、その後に怒りの声を上げると二人を追い始めた。
ジェドとシアは森の中を駆ける。その10メートル程後方をホブゴブリンと手負いのゴブリン達が追い始めた。
(よし…追ってきたな)
ジェドはホブゴブリン達が追ってきた事を確認するとニヤリと嗤う。
「シア、俺がやるからシアは普通に逃げていてくれ」
「うん!!」
ジェドの言葉にシアは後ろを振り向くことなく返答する。
ジェドは出来るだけ不自然にならないようにスピードを落とす。ジェドがスピードを落とした事でホブゴブリン達との距離が徐々に縮み始める。
「よし…」
シアが逃走用に張った罠の紐を跳び越える。少し遅れてジェドが罠の紐に足を引っかける。罠が発動し仕掛けていた矢が放たれる。前述したようにジェド達の仕掛けた罠は紐に足を引っかけた者から後方の位置に矢が飛ぶようになっている。その軌道は紐の位置から3メートル程の位置に設定してある。
『ギィェェェェェェ!!』
背後から叫び声が聞こえる。もちろん放たれた矢が追撃するゴブリンに当たった事をジェドは察すると後ろを振り向く。ジェドの視界には左肩と右脇腹に突き刺さった矢のために苦痛に呻くホブゴブリンの顔がうつる。
「もらった!!」
ジェドは間合いを詰めるとホブゴブリンの腹に突きを放つ。
ズ…。
ジェドの剣は静かにホブゴブリンの腹を貫くと乱暴に横に薙ぎ腹を斬り裂く。腹を割かれたホブゴブリンの傷口から臓物がこぼれ落ち形容しづらい臭いが周囲に撒き散らされる。
『ギャァァァァッァァァ!!』
そこにシアの【魔矢マジックアロー】がホブゴブリンの延髄に命中するとホブゴブリンは絶叫を中断し動かなくなった。そして背後のゴブリン2体の顔面と喉に命中し、ゴブリン2体もほぼ同時に息絶える。
「残りは2体か…」
ジェドはゴブリン2体を睨みつける。残った2体のゴブリンは明らかに動揺している。自分達のボスがやられた以上、ジェドとシアと戦うのは自殺行為である。もし万全の状況であれば戦うという選択をしたかもしれないが、今の手負いの状況でジェドとシアに勝てると思うほど楽観的ではなかったのだ。
一方でジェドとシアも限界を迎えていたのだ。だが二人は現状を悟られるわけにはいかないと表面上は『してやったり』という顔をしていたのだ。
ジェドは祈るような気持ちで一歩前に出るとビクッっと体を震わせてゴブリン達は一歩下がった。その様子を見てシアも一歩前に出る。またしても一歩下がった。
ジェドとシアは勝負が決したことを悟る。あとはこのゴブリンにお引き取り願うだけだ。
ジェドとシアはそれぞれ武器を構えることでゴブリン達に恐怖感を与える。そうするとゴブリンは踵を返しその場から逃走する。
ジェドとシアはゴブリン達を見えなくなるまで睨みつけていたが、見えなくなるとその場にヘナヘナと座り込んだ。もはやゴブリン達を追うだけの力は二人には残っていなかったのだ。
「はぁはぁ…やったな」
「はぁはぁ…助かったのね…」
シアとジェドは前回よりも厳しい戦いであったが何とか勝利を収める事が出来たのである。
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