第7話 再戦③

 無傷のゴブリンはリーダーのホブゴブリンを入れて6体、その中でも遠距離攻撃を有する者は3体という状況にジェドとシアはかなり厳しい状況である事を理解している。


(くそ…あの魔術師と弓を持っている奴の2体を始末しないと撤退できない…)

(あと、私が放てる魔術は2回といったところね…)


 ジェドとシアは視線を交わす。


 そこに2体のゴブリンが弓を射かける。ジェドは盾をかざしゴブリンによって放たれた矢を受ける。幸い受け止めることに成功したが、一瞬視界が自らの盾によりふさがれてしまう。そこにホブゴブリンとゴブリン2体が斬り込んでくる。


 凄まじいゴブリンの突進であったが、ジェドは剣を構えると逆にゴブリン3体に突っ込む。この段階で後ろに下がることは流れを完全に相手に手渡すことであり悪手である。


 その事を察したジェドは迎え撃つではなく逆に打って出たのだ。そこにシアも杖を構えるとジェドの後に続く。本来後衛のシアであるが3ヶ月の訓練期間中に近接戦闘の訓練も行っており、一応戦闘は可能なレベルになっていた。


 シアの判断はこうだった。


 現在の魔力の残りでは二回魔術を放つのが精一杯である。その二回の魔術で残りのゴブリン達を斃す事が出来るかを考えれば不可能であるという結論に至った。となれば相手を欺す事で魔術師を斃すしかないという論法にシアはたどり着いたのだ。そのためにはこの近接戦闘をする必要があったのだ。


「ジェドはそのホブゴブリンを!!私はその2体のゴブリンをやるわ!!」


 シアの言葉にジェドは頷くとホブゴブリンに向かっていく。


 ホブゴブリンの放たれた斬撃をジェドは剣で受け止める。すさまじい衝撃が剣を伝ってジェドの腕をしびれさせる。


 ホブゴブリンの身長はゴブリン達よりも2~30㎝程高い170㎝程である。ジェドよりも僅かに低い身長だがその戦闘力はジェドを上回っている事をジェドは最初の一合で悟った。


 ジェドはまともに打ち合えば魔力を一気に消費すると思い。ホブゴブリンの剣を躱しながら隙を見て攻撃することを選択する。


 キィィィン!!キンキン!!


 何合かの打ち合った所で残り2体のゴブリンを受け持っていたシアが叫び声を上げる。


「きゃあ」


 ゴブリンの一体の足を杖で殴りつけた所にもう一体のゴブリンより体当たりを食らって地面を転がったのだ。


 だがジェドはシアを助ける事はしない。ジェドには判っていたのだ。シアがわざと・・・ゴブリンの攻撃を受けることで転がったことを…。


「シア!!伏せてろ!!」


 シアが倒れ込んだ場所はジェドの後ろ…すなわち死角となる場所だ。シアは何かをするつもりだという事をジェドは悟ったのだ。そのためにはジェドが注意を引き、かつゴブリンの攻撃からシアを守らなければならないのだ。


 ジェドはバックステップすると同時に一回転し剣を振るう。剣の軌道の先にはゴブリンの首があった。この段階でジェドが自分に斬撃を放つと思っていなかったゴブリンは躱すことも出来ずに首を落とされた。


(さすが…ジェドはわかってるわ)


 シアはジェドの行動に感謝しつつ、頼りがいのある相棒に顔を緩める。シアがゴブリンの体当たりをわざとくらってまで作った隙をジェドはさらに高めてくれたのだ。ジェドの行動によって今、ゴブリン達の視線はジェドに集中している。


 シアの手にはボウガンがあった。隠れていた時にボウガンをセットしていたものをローブの中に隠していたのだ。

 当然ながらボウガンの矢は外している。シアがジェドの所まで転がったのはジェドに死角になってもらいその間にボウガンの矢をセットするためだった。ところがジェドはそれ以上の活躍をしてくれた。この状況でシアに注意を払うゴブリンはいなかった。


 シアのボウガンの狙いは当然の事ながら魔術師だ。


 ジェドに怒りの声をあげるために口を大きく開けた瞬間にシアのボウガンが発射され、魔術師の口の中に吸い込まれる。


 口に吸い込まれた矢は延髄まで到達すると魔術師は白目をむき後ろに斃れる。


「やった…」


 シアの言葉から厄介な魔術師が倒れたことが周囲に知れ渡る。ゴブリン達はシアの言葉の意味を理解していない。だが、何を言ったかは理解していた。


 ホブゴブリンが剣を振り上げシアに向かってくる。そこにジェドが入り込むとホブゴブリンの剣閃を受け止める。


 ギィィィン!!


「くっ…」


 ジェドの口から苦戦を告げる言葉が発せられる。その声を聞いたときにシアは自分が油断していたことを思い知らされた。まだ戦闘途中なのに気を抜いてしまったシアは自分を恥じるとすぐに立ち上がり、ホブゴブリンの脛の位置を持っていた杖で殴りつける。


 ホブゴブリンの脛には金属製のすね当てがついており、そこに打撃を加えてもそれほどの痛みを与える事は通常は出来ない。だが魔力により強化された一撃であったため、まったく無傷と言うわけにはいかなかったのだ。


『ギッ…』


 思わぬ痛みにホブゴブリンの顔が歪む。ジェドはその機会を逃すことなく剣を押し返すと体当たりを行う。わずかに重心が崩れていたためジェドはホブゴブリンは尻餅をつく形

で倒れる。


「シア!!後ろの弓兵を!!」

「うん!!」


 ジェドの言葉にシアは詠唱を始める。ここでジェドは非常に危険な賭にでる。その賭とは弓兵に自分を狙わせることだ。大きく振りかぶり尻餅をついたホブゴブリンに剣を振り下ろす。


 ギィィィン!!


 ホブゴブリンは剣を掲げジェドの斬撃を受け止める。もし、ジェドの魔力が十分であれば剣に魔力を注入することで剣ごとホブゴブリンを両断できたのだろうが、すでに魔力が底を尽きかけており剣に魔力を注入することが出来なかったのだ。


 自分達のリーダーの危機に弓を持ったゴブリン二体がシアではなくジェドに狙いを定める。


 ジェドにゴブリンが矢を放った瞬間とシアが魔術を放った時間はほぼ同時だった。


 ジェドは盾を掲げてゴブリンの矢の一本を受ける。だが、もう一本はジェドの左太股に突き刺さった。


「がぁ」


 ジェドの口から苦痛の声が漏れる。刺さった矢の痛みのため、ホブゴブリンに見舞っていた斬撃が緩むとホブゴブリンはジェドを押し返した。今度はジェドが尻餅をついてしまう。


 だが、シアの放った【火球ファイヤーボール】はまともに弓を持ったゴブリン2体に命中し、ゴブリン達は炎に包まれた。


『『ギャァァァァァァァァ!!!!』』


 ゴブリン達は転げ回り火を消そうとするがそれは叶うことはなかった。やがて2体のゴブリンは力尽きる。



 ホブゴブリンが立ち上がり自分の部下が灼けるのを黙ってみている。力尽きた部下を見て怒りの形相でシアを睨みつける。


 すでに互いは満身創痍の状況だ。


 ゴブリンで無傷なのはホブゴブリンぐらいのものであり、他のゴブリン達はみな何かしらの怪我を負っている。


 一方でジェドとシアも消耗が激しい。二人とも魔力は尽きかけ、ジェドは足を負傷している。


 ジェドとシアのゴブリン達との戦いは最終段階を迎えていた。

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