第5話 再戦①
3ヶ月後、ジェドとシアは再び森の中の道を歩いている。
前回は武器と身につけた防具だけという軽装でゴブリン討伐に出かけたのだが、今回は違う。
ジェドの背には様々な道具が入れられた袋があり、袋の中には罠がたっぷりと入っているのだ。
森の中の道をそれ、しばらく進んだところでジェドは罠を仕掛け始める。もちろん、この罠はジェドの自作だ。
仕掛ける罠は矢だった。ジェドは逃走経路に紐を張り、その紐を切ったらその位置より後方に矢が放たれるように角度を調整する。そうすることで相手の足を多少なりとも遅らせる事が出来るとの考えからである。
ジェドの作った罠の矢には鏃もついていない。ただ、木の棒を削って先端を尖らせただけの原始的なものである。資金が基本的に不足しているジェドとシアにとって鏃は贅沢品であったのだ。
あくまでも相手の追跡を遅らせるのが目的なので、これで十分だったのだ。
「シア…周囲にゴブリンはいるか?」
ジェドの言葉にシアはゆっくりと首を振る。シアは魔力により肉体能力を強化できるようになっていた。その中で聴覚を強化することでゴブリン達の足音、声などをジェドよりも早い段階で拾うことが出来るようになったのだ。
「よし、この辺りから慎重に進もう」
「うん」
前回は考えもせずに進んでいた2人だったが、この森の中で何の警戒もなく進んだ結果ゴブリン達に先に発見されてしまったのだ。
森の中に少しずつジェドとシアは入っていく。
深い森の中には日光が入り込みづらいらしく昼間であっても薄暗い。もし早い時間でゴブリン達に接触しなければ退却の決断も2人はするつもりだったのだ。
「ジェド…こっちに足跡が近付いてくる…6人程よ」
「ゴブリンか?」
「多分そうね。話し声には人間の言葉が使われていないわ」
「そうか…」
シアの言葉を聞き、ジェドの声は短かったが緊張が含まれているのをシアは察した。もちろん、ジェドはシアの声にも同様の緊張が含まれていることを察している。
ジェドとシアは物陰に隠れる。近付いてくる相手を確認し不意をつくためだ。
物陰に隠れながらジェドとシアはボウガンの矢を装填する。このボウガンは自作ではなく購入した物だ。当然装填した矢もきちんとしたものである。先程の罠とは事なり、ボウガンと矢は自分達の命に関わる物なので購入したのだ。
「どっちから来る?」
「あっちよ…」
シアが指差した方にジェドは目を向ける。ボウガンを構えるとゴブリン達が来ると思われる方を睨みつける。シアもボウガンを構え魔術の詠唱を開始する。相手が体勢を整える前に討ち果たす必要があるのだ。
しばらくするとジェドとシアの視線の先からガヤガヤとした雰囲気が伝わってくる。ゴブリン達がこちらに向かってきているのは確実らしい。
ジェドとシアは視線を交わし合うと頷く。
視線を戻した先にゴブリンが7体程歩いてきている。前回と同じように剣、槍、斧、弓を持っている。まずは狙うのは弓を持っているゴブリンだ。弓を持っているゴブリンは2体、ジェドとシアがそれぞれ射殺せばかなりこちらは有利になる。
「シア…」
ジェドがシアに言葉を告げるとシアは頷く。
身を潜めていたジェドは立ち上がる。突如現れたジェドにゴブリン達は動きが止まる。そして、そこにシアが身を潜めたままボウガンの矢を放った。
草むらから放たれたシアの矢は弓を持ったゴブリンの眉間に突き刺さった。眉間を射貫かれたゴブリンは声を発することなくその場に倒れ込む。
『デム キヴォ!!』
『げが!!』
『げが!!』
ゴブリン達は仲間がやられた事を理解するとそれぞれ武器を構え突っ込んでくる。そこにジェドは自分のボウガンを放つ。放たれた矢は真っ直ぐ飛び、矢を放とうとして視線を自分の矢筒に移したゴブリンの喉に突き刺さった。
『ギッ!!』
喉を射貫かれたゴブリンは弓を落とすと倒れ込む。絶命したかどうかはこの段階では判断がつかないが、とりあえず戦闘力をうばったのは間違いない。
ジェドはボウガンをその場に置くと剣を抜きゴブリン達の全面に躍り出る。
ゴブリン達は雄叫びを上げながら突っ込んでくる。盾を構えて突っ込んでくるところを見ると矢を警戒しているらしい。
そこにシアの魔術である【魔矢マジックアロー】が放たれる。ゴブリンの盾は金属製ではなく木の板に革を貼り付けたものだ。とてもシアの【魔矢マジックアロー】を防ぐことは出来ない。
シアの放った【魔矢マジックアロー】は紙を撃ち抜くようにゴブリン達の盾を撃ち抜いた。
盾を撃ち抜いた【魔矢マジックアロー】はそのままゴブリンの頭部を撃ち抜いた。2体のゴブリンが顔面を撃ち抜かれ命を終える。
残り3体のゴブリン達はこの短時間に半分以上の仲間がやられたことに動揺する。相手が弱ければ、いや少なくとも互角の実力であれば復讐の気概もわこうというものだが、相手が強者であればその気持ちも萎えてしまうものである。
瞬く間に仲間を葬ったジェドとシアはゴブリン達にとって絶対的な強者と見られていたのだ。
そのゴブリン達の動揺をジェドは見逃さない。ゴブリン達に突っ込んだ。
ジェドはこの3ヶ月、多数の敵を相手にするにはどうすれば良いかを考え修練を積んでいた。その中の一つはとにかく動き回ることであった。常に動き回り、敵に囲まれないようにするのだ。
ジェドはゴブリンの突き出した槍を躱すとそのまま一回転して斬撃を繰り出す。ジェドの剣はもう一体のゴブリンの首に横から入り首の骨で止まる。首を刎ねることは出来なかったが頸動脈を断ち切られたゴブリンはその場に崩れ落ちる。
「くそっ…」
首を刎ねるつもりだったのに、骨を断つことが出来なかった事にジェドの口からくやしそうな声が漏れる。これは別にジェドが傲慢ゆえの言葉ではない。体に食い込んだ剣を引き抜くのに一動作余分にかかるため多数を相手にするには悪手なのだ。
ジェドはゴブリンの首から剣を引き抜くと槍を持ったゴブリンに剣を振り下ろす。ゴブリンは持っている槍でジェドの剣を受け止めようとしたのだが、ジェドの剣は槍を切断するとそのままゴブリンの頭から斬り裂く。
だが、またしてもジェドの剣はゴブリンの頭蓋骨を両断する事は出来ない。ゴブリンの頭の途中で剣が止まったのだ。今度はかなり深く入り込んだために剣がゴブリンの頭から抜き取る事が出来なくなる。
そこに最後に残ったゴブリンが剣をジェドの頭に振り下ろしてくる。それをジェドは転がることで何とか躱したが、それは剣を手放すという選択の表れである。
武器を失ったジェドであったがその顔に恐怖はない。なぜならボウガンの矢を装填し終えたシアが狙いを定めているのをジェドはみていたからだ。
バシュン!!
澄んだ音がボウガンから発せられゴブリンの喉に突き刺さる。ゴブリンの顔に怒りの表情が浮かんだが、ゴブリンは2、3回痙攣すると動かなくなった。
「やった…」
ジェドの顔に安堵と嬉しさの表情が浮かぶ。
ジェドとシアは7体のゴブリン達に勝利を収めたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます