第2話 初めての依頼

「それじゃあ、元気でなジェド、シア」

「また、会いましょうね」


 翌日、出発するラウドとアンナをジェドとシアは村の入り口まで見送った。そこでの最後の挨拶をお互いに交わすのだ。これから先、会える可能性は限りなく低い。冒険者は常に死と隣り合わせの職業だ。

 冒険者稼業を続けると言う事はそれだけ死に近付くという事なのだ。


「ああ、2人とも幸せになってくれ」

「ラウドさんもアンナさんも幸せにね」


 ジェドとシアの言葉に2人は微笑むと出発する。ジェドとシアは2人が見えなくなるまで手を振る。完全に見えなくなったときにシアがポツリと呟いた。


「行っちゃったね…」

「ああ」


 シアの言葉にジェドは小さく返答する。


 ウォルモンドはパーティーの資金をきっかりと五等分に分配した。本来であればジェドとシアのパーティーの貢献度を考えれば五等分はあり得ない。ウォルモンドもラウドもアンナもその事に対して一切文句は言わなかった。それどころか、ジェドとシアに割り増しでお金を残そうとしたぐらいだった。本来自分達もこれからの生活を考えれば資金は必要なのにだ。


「さて…これからは2人だな」


 ジェドがシアに言うと静かな声でシアが答える。


「そうね、また2人に戻ったのね」


 ジェドとシアは幼馴染みだ。家が近くという幼馴染みではない。2人は孤児院で育ったのだ。2人は孤児院の門の所に捨てられていたらしい。どのような事情があって2人が捨てられたのかはわからない。


 ただ、2人はほぼ同時に捨てられたという事で同室にされ、それに伴い色々な孤児院の仕事でペアを組まされる事が多くなった。


 2人の育った孤児院では施設の職員が読み書きを教え、希望する者には元冒険者であったという院長が剣を、妻である副院長が魔術を教えていた。あくまでも基礎レベルのものであったが、ジェドは剣の基礎をシアは魔術の基礎を教え込まれた。


 孤児院は12歳になると院を出て自活しなければならない。多くの孤児達は商家や農場で働く道を選ぶのだが、ジェドとシアが選んだのは冒険者である。


 冒険者ギルドは12歳から登録可能なのだ。院長と副院長はジェドとシアを心配したが、2人の決心は固く、意思を変えることは出来なかった。


 冒険者ギルドに登録した2人はそこでウォルモンド達と出会いパーティーを結成したのだ。


 それから4年が経ちパーティーは解散した。


 これからは自分達で依頼を見つけ、依頼をこなしていかなくてはならないのだ。


「とりあえず、ギルドに行って依頼を探そうぜ」

「そうね。これからは私達だけだもんね。頑張ろうねジェド」

「ああ、がんばろうぜ」


 ジェドとシアは声を掛け合いギルドへ向かう。大きな声は不安の裏返しである事を何よりも2人はわかっていた。だが、だからといって尻込みするわけにはいかない。もう、頼りになるメンバー達はいないのだ。





 冒険者ギルドには仕事の依頼は掲示板に貼ってあるのが普通だ。特別な難易度の依頼はギルドが相応しい冒険者に直接話を持って行くため掲示板に貼られている依頼は難易度的にそれほど高くない。別の言い方をすれば誰でも出来るというレベルのものだった。


 掲示板に貼られてある依頼をジェドとシアは眺める。


『薬草『アヴゥジア』採集 籠一つにつき銅貨30枚』

『ゴブリン討伐 10体ごとに銀貨1枚』

『オーク討伐 10体ごとに銀貨1枚と銀貨50枚』


 ブロンズである2人が受けることの出来る依頼はこの3つだった。これ以上の難易度の依頼は上のクラスの冒険者と組まなければならないのだ。


「シア…どれにする?」


 ジェドがシアに尋ねる。2人はどちらがリーダーというわけではないので独断で決める事は許されない。


「そうね…薬草採集なら安全なんだけど報酬から考えると避けたいわね。適正価格だけど時間と労力を考えれば割に合わないわ」

「じゃあこれはカットだな」

「そうね。まずは私達は収入を得ることを考えないといけないわね」


 分配してくれた資金は一人あたり白金貨1枚、金貨1枚、銀貨4枚だった。ちなみに銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚という交換比率となっており、標準的な宿屋なら銀貨1枚といったところだった。つまりジェドとシアの財産ならただ宿屋に泊まるだけなら114日は泊まれるということだ。

 だが、これはあくまで宿泊費用であって食費、必要な道具、武器などは考慮しない場合だ。


 いまの所、武器防具などは大丈夫なので金銭的余裕はあるが、だからといって無くなってから慌てても遅いのである。


「だが俺達だけでオークの討伐は厳しいな。となるとゴブリンか?」


 ジェドはシアに尋ねる。


 ゴブリンは身長140㎝程の小型の亜人種である。緑色の皮膚に、不規則に生えた牙、尖った耳という容貌をしており、剣や槍、弓などで武装していることが多い。ゴブリン一体一体の戦闘力ははっきり言ってそれほど脅威ではないが、ゴブリンの厄介なところは群れで行動し集団戦法をとる者がいる点である。また、人間にも戦闘力に違いがあるようにゴブリン達にも戦闘力が強い者がおり、『シルバー』クラスの冒険者が敗れるという例があるのだ。


 オークは身長180~190㎝の亜人種で、豚の頭に黒い体毛に覆われるという容貌をしている。ゴブリンよりも一回り戦闘力が高い種族であるが、知能はそれほどでもない。


「そうね…私達の実力から行けばゴブリンぐらいが妥当よね」

「よし、俺達の最初の依頼はゴブリン討伐という事で」

「うん」


 ジェドとシアはゴブリン討伐の依頼を受ける事を決定すると受付にその旨を告げる。受付の30代半ばの女性は2人の名前を名簿に書き込むと依頼を受任が決定する。


「さて…行こうか」

「うん」


 ジェドとシアは初めて自分達だけでゴブリン討伐に出かけることになるがそこに不安はない。今まで何度もゴブリンを斃してきたのでさほど危険を感じることはなかったのである。


 だが、それは慢心である事をこの時の2人はまだ気付いていなかった。


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